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提案営業が定着しない5つの理由(前半)

提案営業が定着しない5つの理由(前半)

[2011.06.23] 松丘 啓司  プロフィール

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 提案営業という言葉が一般的に使われるようになってから久しく経ちます。かつての右肩上がりの経済成長の頃は、提案営業よりも、いかに効率的に商談の数をこなすかが課題でした。業界によっても異なりますが、右肩上がりの終焉が明らかになった90年代の後半頃から、提案営業の必要性が訴えられてきました。それまでのやり方では、明らかに売れなくなったからです。

 提案営業を導入し、定着させようとして、多くの企業がさまざまな施策を講じてきました。営業担当者に対して、提案営業研修を何度も実施している会社は少なくありません。提案営業のプロセスを徹底しようとして、営業管理システムを導入した会社もあれば、提案件数などを評価基準にしている会社もあります。けれども、それらの努力にもかかわらず、(もともと提案営業なしには売れることのないごく一部の業界を除いて)ほとんどの会社で提案営業は定着していないのが実態ではないかと思います。

 提案営業が定着しない理由としては、提案書を書くのに時間ばかりかかって割に合わないからだとか、依然として営業担当者のスキルが足りないからだとか、営業部門の管理者が昔の成功体験から抜けきれないからだとか、いろいろなことが言われます。どれも、一理はあると思いますが、提案営業が定着しない理由の説明として、それだけでは十分でないように思います。

 さまざまな会社の営業部門の方々と提案営業について話しているとき、提案営業とはそもそも何なのかという問いに対する解釈が、少し浅く感じられることがあります。つまり、提案営業に対する理解自体が不十分であるため、定着しないと言われているような気がしてなりません。以下では、そのような提案営業に対する誤解から生じる、「提案営業が定着しない5つの理由」について述べたいと思います。


 1. 売ろうとしている

 営業なので売らなければならないのは当然ですが、提案営業を売るための方法論やテクニックだと誤解すると、提案営業はうまく行きません。たとえば、営業担当者がお客さまの課題をヒアリングする際に、自社商品を売るためのストーリーを裏付ける情報を得ることを目的に臨んだとすると、お客さまの本質的なニーズをキャッチすることは難しいでしょう。

 商品を売るために、お客さまに納得してもらえるようなストーリーを作るというのは、体裁のよい押し売りのようなものです。このような意識を持っていると、営業担当者は自分にとって都合のよい情報しか得ることができません。その結果、苦労して立派な提案書を作り、完璧なプレゼンをしたにも関わらず、お客さまに共感されず、失注してしまうというような事態が起こります。営業担当者は失注の原因がよくわからず、苦労したのに報われないと感じ、提案営業から離れていってしまいます。

 提案営業において、きわめて重要な発想の転換は、「売る」のではなく、「貢献する」という意識を持つことです。そもそも、あらゆる売上はお客さまに何らかの貢献をするからこそ得られるものです。もし、何も貢献せずに売上が得られたとしたら、それは不当利得であり、場合によっては詐欺まがいのことかもしれません。通常のビジネスで、そのようなことはまずないでしょう。

 提案営業は、「貢献なくして売上なし」という、ビジネスの当たり前の原点に回帰しようとすることです。営業担当者が売っている自社商品は、お客さまに何らかの貢献をするでしょう。けれども、営業が単なる販売活動でしかなかったとすると、そこに、営業による貢献はありません。商品による貢献だけでは他社と差がつかない時代だからこそ、営業による貢献が必要なのです。

 営業担当者が、自分はお客さまに対してどのような貢献ができるかを真剣に考えたならば、自ずとお客さまの課題を知りたいと思うでしょう。それを知らずして、お客さまへの貢献はできないからです。お客さまに貢献することにのみ、営業担当者の存在意義があるという意識付けがされて、はじめて提案営業は機能します。その意識は、営業組織内において、徹底されなければなりません。顧客起点といったきれいな言葉を使っていても、内心では売ることばかりを考えていては、提案営業は成功しないでしょう。


 2. 購買意欲のあるお客さまに提案している

 これも上記の1と関連しますが、購買意欲を持っているお客さまに対して提案営業を行ってもうまくはいきません。購買意欲を持っているお客さまを相手にするのは、営業として当然のことではないかと思われるかもしれません。けれども、購買意欲を持っているお客さまは、提案営業を必要としないことが少なくないのです。

 たとえば、機械の保守期限がもうすぐ切れるため、買い替えを検討しているお客さまは確実に購買意欲を持っています。金融商品の満期を迎えるお客さまというのも同様です。会社によっては、そういうお客さまばかりをターゲットにしているところもあります。そのような会社では、営業サイクルが非常に短期的になっています。1、2ヵ月から、せいぜい数ヵ月先しか見ていません。

 そのアプローチで売上がどんどんあがるのであれば、たいへん効率的です。けれども、実際のところ、そううまくはいきません。このようなお客さまに対しては、当然、競合他社もアプローチしています。お客さまは、コンペをさせて、もっとも良い条件を引き出すことができます。つまり、この段階でのお客さまがほしいものは、提案ではなく「条件」なのです。

 具体的な条件がほしいお客さまに、御社の課題を解決するための提案をします、といっても喜ばれないでしょう。お客さまは、「今ごろになってそんな提案を持ってきてもらっても遅い。もっと前に持ってきてくれ」と思うに違いありません。つまり、提案営業は、お客さまの購買意思が明確になる前の、もっと漠然とした課題意識を持った段階で行ってこそ効果が発揮されるのです。

 営業とは購買意欲を持っているお客さまに行うものだ、という誤解をもっていると、次のような考えに陥ってしまいます。

 「提案営業を行っても、結局は条件競争になる。それならば、提案書の作成に時間をかけるよりも、最初からお客さまとの人間関係を作って契約をもらう方が効果的だ」

 このような誤解から、昔ながらの営業スタイルが一向に変わらない、という会社がたくさんあるように思います。


 3. 課題を履き違えている

 上記1と2の段階をクリアしても、これから説明する3番目から5番目の誤解によって、壁に突き当たっている会社も少なくありません。まず、お客さまの「課題」とは何かという点についての理解が表層的であるケースが多々、見受けられます。

 お客さまの課題は常に2層から成っています。表層的な課題と深層的な課題です。法人営業におけるお客さまの表層的な課題は、「ビジネス課題」です。お客さまの課題を知るといった場合、まず、ビジネス課題がイメージされるのが普通でしょう。たとえば、「コストを削減したい」とか、「業務上の特定の問題点を解決したい」とかいった課題は、ビジネス課題です。

 ビジネス課題の理解なしに、お客さまの課題解決に貢献できないことは言うまでもありません。けれども問題は、ビジネス課題のみを捉えて、提案営業を行おうとすると壁に突き当たる可能性が高いという点にあります。

 たとえば、「コストを削減したい」というお客さまの課題は、競合他社も容易に知ることができます。自社の商品を導入していただくことで、お客さまはコストを減らすことができるかもしれませんが、他社の商品でもそれが可能であることが一般的に起こります。自社商品だけが決定的に差別化されているケースはまれだからです。その結果、自社の提案も他社の提案も、あまり違いのないものになる傾向があります。そうなると、営業担当者は、提案営業に意義を見いだせなくなってしまいます。

 あるいは、自社の商品はお客さまのビジネス課題の解決に役立ちはするが、課題全体の一部にしか貢献できない、というのもよくある話です。たとえば、お客さまが1億円のコスト削減を必要としているときに、自社商品で貢献できるのは100万円に過ぎないといったとき、「お客さまの課題解決に貢献します」と大上段に振りかざすのは、大袈裟に感じてしまうかもしれません。そのような場合、自社の商品は提案営業には向かないと解釈されてしまう可能性もあります。

 お客さまのビジネス課題の解決に対して、競合他社との違いをアピールしにくい、あるいは課題解決の一部にしか貢献できない、といったときに考えられる一つの方策は、費用対効果を示すことです。つまり、自社商品を導入してお客さまが得られるビジネス効果と、導入に係る費用を照らし合わせて、十分にペイすることを証明するというアプローチです。

 このアプローチにしばしばつきまとう誤解は、費用対効果が見合えば、お客さまは契約するはずだと考えられることです。もちろん、費用対効果が見合わない決定をお客さまが行う可能性が低いのは確かです。けれども、費用対効果が見合えば、お客さまがかならず契約するかどうかは別問題です。費用対効果の見合う提案は他社にもできますし、お客さまにとって、もっと優先度の高い、別のテーマがあるかもしれません。

 つまり、お客さまのビジネス課題の解決に貢献することは、必要条件ではあるものの十分条件ではないのです。そのため、営業担当者はビジネス課題の理解に止まるのではなく、さらに深層の課題を理解しなければなりません。そのことが理解されていないと、提案は無機質で、押し売り的で、お客さまの共感を得られないものになってしまいます。

 深層的な課題とは、価値観の課題です。それは、お客さまはビジネス課題を、どのようなレンズを通して見ているかという、お客さまの深層の観点を理解することです。たとえば、「コストを削減したい」と話しているお客さまが、どういう観点からそう考えているのかという理由はさまざまです。

 お客さまは、時流に乗って事業を広げすぎたと反省し、再度、自分たちの強みに立ち戻りたいという観点から、「コストを削減したい」と言っているのかもしれません。あるいは、業績が好調なうちに無駄を徹底的になくし、筋肉質の体質にしたいと思っているのかもしれません。あるいは、デフレが進行したため固定費を下げなければならない状況だが、コストを削っても社員の活力を第一に考える会社でありたいと思っているかもしれません。

 強みにフォーカスしたい、筋肉質の体質になりたい、社員の活力を第一にしたい。これらはすべて、お客さまの価値観を表しています。価値観とは、お客さまが何を大切にしているか、どうなりたいのかを決める基準です。提案とは、ただ単にお客さまのビジネス課題の解決に貢献するだけではなく、お客さまが深層で大切にしている価値観の実現に貢献できるものである必要があるのです。

 「課題=ビジネス課題」というのは固定観念です。自分たちはこうありたい、けれども今はそれが満たされずにいる、という価値観の課題も、お客さまにとって同様に重要な課題です。センスの良い営業担当者は、無意識的にお客さまの価値観の課題を捉えているように思います。

 目先のビジネス課題だけではなく、価値観の課題に応えることで、提案は他社とは異なるものになります。また、たとえビジネス課題の一部にしか応えられなかったとしても、提案はお客さまにとって、大いに価値を感じられるものとなります。ただし、そのためには、自社の提供する価値に対する認識も変えなければなりません。その点について、次回に述べたいと思います。

>>後半の内容はこちら

4. 価値を履き違えている
5. 提案営業は個人のスキルだと思っている

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