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- 【コラム】HRエグゼクティブコンソーシアム代表の楠田祐氏と語る2018年人事の課題(後半)
今年も楠田祐氏と松丘啓司の対談を2回に分けてお届けします。後半のテーマは、「働き方改革とHRビジネスパートナー」です。(以下、敬称略) |
楠田:さて、次のテーマですけど、政府が音頭を取りながら働き方改革をやっていますが、その方針にいくつか疑問点を感じるのですが、松丘さんはどう思っていますか?
松丘:労働時間だとか在宅勤務だとか、そういう外形的なところが中心になっているように感じます。肝心の働き方の中身があまり変わってないのに、ハードだけ変えようとしても無理があるのではないかと思いますが。
楠田:2017年はハードの部分だけに号令かけた企業が結構ありますよね。「全員、毎日8時に帰ってください。やりたければ上司に許可をとってください」みたいな。結果的にどうなったかと聞いたら、「今まで何をやっていたのでしょうね、うちの会社。売り上げも利益も全然下がらない」というのですが、ソフト面でもしっかりと取組みをしていかないと、いずれお客様からクレーム来たり、社内のコミュニケーションも悪くなったりと、色々な問題が起こるのではないかと感じています。
松丘:やらなくてもいい長時間労働をなくすという効果はあるかもしれません。ですが、それで売り上げが増えるかというと、増えはしませんよね。生産性は計算上、上がったように見えるかもしれませんけど。
楠田:確かに。働き方改革の疑問点の1つに、副業解禁もあります。様々な日本の大企業にインタビューしたのですが、3つに分かれると感じています。
1つめの領域は、副業OKを以前から出している外資系の企業。社員もタイムマネジメント力があり、そもそも自分で事業をやりたいから副業OKの会社で働いているという人が結構います。私の知人で、外資系の大企業に雇用されながら本を執筆して100万冊売っている方もいるのです。特に会社でも何の問題になっていないし、すごいなと思う。
2つめの領域として、副業解禁に対してイノベーションが起こるのではないかという期待感を持っている会社があります。僕はここからは何も生まれないのではないかと思っています。そういう会社ほど、現場は一杯一杯で働いていて、かつ残業規制等の様々な規制が入ってきているので、そもそも副業したいと思わないのではないかというところにたどりつくと思っています。
最後の1つ。これが一番グレーで副業先をプラスした36協定だそうです。某企業の役員の方に会った際に「副業どうするの?」と聞いたら、「グレーだよね。法律が改定にならないとできないよ」と言っていました。つまり、副業している会社で社員に何かあった時には、司法は絶対に副業を認めた方の会社に来てしまうので、ここが整備されていない以上は、解禁すると逆にリスクが多いのではないかと思います。だから法律がきちんと整理されないまま、残業規制と副業解禁をセットでやることに何の意味があるのだろう、というのが多くの企業の悩みなのではないかと思います。
松丘:例えば昨年、消防隊員が長年、副業でピザの宅配やっていたという記事を見ましたが、その会社での収入では足りないから他でも労働するという副業は、問題が発生するリスクがあるだけで、企業にとってはあまりメリットがないと思います。メリットがある副業は2つかなと思います。
1つめは、これから何か新しいことをやろうとすると、専門性が不可欠ですが、そのような専門人材は社内外の色々な所から集めていくことが必要になってきます。社員からすると、自分の専門性が社内だけでは十分に活かされない可能性もある。そうすると社外でもその専門性を活かしていく機会が必要になります。それによって雇用形態が変わってくる可能性があるのではないかとも思います。
2つめは、楠田さんも挙げられた、本を出版するようなケースです。全員とはいかないですが、そのような個人の価値は今後、高まっていくと思います。今までは、雇用されていて企業の中にいるから、そんな価値があるとは思われなかったけれど、実はこの人には本を100万部以上売る価値があるとなった時に、会社でもらっている給料よりもその人の価値は高いかも知れないわけですよね。そのような価値の高い個人を輩出する企業は好感度が高くなると思います。
楠田:日本は20年くらい前から、多くの企業が複線型の人事制度を取り入れていますよね。ライン管理職になれないけれども、本当の専門職でもない管理職の賃金は、この15年くらい上がっておらず、定年までずっと同じです。その後、定年後に再雇用されて、初任給と同じ給与で5年間勤められますよというような形をとっている企業もあります。私自身は、そういう環境の中で副業が複線型人事制度の後始末になっていないかな、と思っています。内部留保をアウトプレースメントに使えないような会社が副業させているのではないかなと、ネガティブに考えざるを得ないストーリーが出来上がってしまいます。
松丘さんは「専門性がなければだめ」と言いましたが、今回の副業解禁というのは、お金を稼ぐのではなくて、今までのお金でビジネススクールへ行ったり、専門性を高める資格や免許を取ったりする機会として、まずは捉えるべきではないかと思っています。専門性を身に付けるには、1万時間学ばなければダメと言われているので、早く帰って、あるいは土日で、1万時間は学んで専門性をつけてから副業するということにしないと難しいですよね。
松丘: 60歳まで右肩上がりに増えていく人件費を抑えるために、20年前に成果主義人事を取り入れました。そして、実際にその通りに人件費は抑えてきた結果、従業員の収入は増えていません。収入は増えないし、新しいことをやらないから専門性も要求されない、という状況で今ここにきているわけです。
ここから先、5年10年たったら、レガシービジネスは絶対にコンピュータで置き換えられる。その時に、今までレガシービジネスに張り付いていて、専門性を持っていない人たちが、大量にあふれてくるのは間違いありません。ものすごい余剰人員を専門家にしないと使い道がなくなります。その会社の中でしか活躍できない人たち、あるいはその業界でしか活躍できない人たちは仕事がなくなる。だとすると、今のうちに専門性を身に着けなければいけない。たとえばシステム開発の領域でも、日本のSEに比べて、中国やインドのSEは、会社の外で自主的に何倍も勉強しています。日本では勉強せずに、ほどほどに給料もらって、「増えない、増えない」と言っているわけです。
楠田:専門性がないだけでなく、賃金は上がらないけど仕事量は増えているから、そもそも副業する暇がない。そして副業する暇がないという人ほど、勉強していないので、いつまでたってもネガティブスパイラルのまま、ということでしょうね。
松丘:外から専門性をもった人材を連れてくるだけでなく、まずは今いる社員をきちんと再教育して新しいビジネスにだんだん移していくことをしないと、まさに起こり始めている余剰人員問題がどうにもならなくなると思っています。
楠田:なるほど。それでは、最後にHRビジネスパートナーに対する期待を利かせて下さい。今回の対談で話してきたことは、どれもHRビジネスパートナーの役割がとても重要だと僕は思っています。
「HRビジネスパートナーに関して、御社はどうですか?」と聞くと、「御用聞きになっている」と回答された役員の方がいました。別の企業の役員も「機能していない」という。僕が「ビジネスパートナーの方たちはどこにいるのですか?」って聞いたら、「人事のフロアにいる」って。それではダメですよね。現場にも椅子と机を用意して、6割はそっちにいなければ。そうすることによって、例えば会議が無駄だな、といった現場の具体的な課題がみえてくるので、そうしたらどんな取り組みをすればよいか考えられるわけです。
また、別の企業でも、同じくHRビジネスパートナーが機能していないという話がでたので、パートナーの方全部集めてくださいといってお会いしたのですが、彼らの名刺に「HRBP」と書いてあるんです。「現場の人たちはHRBPって何だか知っているの?」と聞いたら、「いや、みんな知りません。」と。それでは名ばかりのビジネスパートナーですよね。「あなたたちは現場で何しているの?」と聞いたら、「エクセルで異動リスト作成するなど、雑用中心です」とかいう話もありました。
どの会社もHRビジネスパートナーを十分に使いこなせていない。HRビジネスパートナーとは何なのか?というのを、きちんと伝えられるようにならないといけないと感じます。彼らがデータ分析して、もっとこうやったらいいんじゃないかという提案能力を高めるには、人事のフロアにいるだけじゃダメだし、御用聞きじゃダメだと思います。現場に近ければ、マネジャーとちゃんと対話しているかな?とか、女性社員に上を目指すように上司は期待や承認をしているかな?とか、働き方改革を推進する際にただ帰ればいいと言っているだけの上司じゃないかな?とか、そういうことをウォッチできるようになりますよね。だから、昭和の勝手口から御用聞きにやってくる酒屋のおじさんみたいに、「何かありますか?奥さん。今日、何持って来ればいいですか?」みたいなやり方でやっているようでは、ダメだろうなと思います。
松丘:今までの人事をやっていた人がいきなりHRビジネスパートナーとしてアウトサイドインでやりなさいといわれても、すぐにはできないでしょうね。例えば、事業部門のマネジメントが典型的なウォーターフォール型で、「このやり方でずっとやるんだ」と言われてしまったら、できることも限られてしまいます。HRビジネスパートナーが「じゃあ1on1で対応しましょうか?」と提案しても、「目標なんか上から落とすものだろう」と事業部の責任者が言っていたら、「いや違いますよ」と反論したところで、「じゃ、お前帰れ」となってしまうわけです。つまり、パフォーマンスマネジメントのそもそもの仕組みが変わらないと、HRビジネスパートナーもなかなか難しい。そこはセットかなと感じます。
楠田:最後になりますが、2018年というのは人事がトランスフォーメーション、変革をしていかないといけない年だと感じています。近い将来、例えば元号が変わるくらいまでをターゲットににしないと、ダメだなと思います。僕は、それを企業に訪問して言い続けると同時に、元号が変わったら、「ちゃんとやっていますか?」と定点観測したいなと思っています。新しい元号になった時に、「まだ平成のやり方やっているのですね」といわれる企業と、そうでない企業とで二極化してしまうのではないかなと今回の対談を通じて感じましたね。
<プロフィール> NECなど東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後に ◇主な著書 |