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- 【コラム】HRエグゼクティブコンソーシアム代表の楠田祐氏と語る2018年人事の課題(前半)
今年も楠田祐氏と松丘啓司の対談を2回に分けてお届けします。前半のテーマは、「パフォーマンスマネジメント」です。(以下、敬称略) |
楠田:松丘さんが2016年10月に出した『人事評価はもういらない』は、昨年かなりの多くの人に読まれましたが、やはりタイトルにインパクトがありましたよね。僕の周りでも、多くの人が人事評価について「このままじゃダメだ」「先が見えない」と感じながら、本を手に取ったようでした。松丘さんと一緒にNo Ratingsに関するセミナーも開催してきましたが、参加者の方たちの話からも、パフォーマンスマネジメントが進化してきているように感じています。松丘さんは、その辺りはどのように感じていますか?
松丘:日本における成果主義の目標管理・評価制度というのは、基本的には歴史的使命は終えたのかなと思います。そもそも成果主義人事は、バブル崩壊後、グローバリゼーションが進展して、その中でコスト構造を見直していくところで導入されたと思いますが、そこはある程度はやったかなと。成果主義人事はビジネスモデルの確立した国内市場を中心としたビジネスの目標管理をしていくための仕組みなのですが、これ以上、レガシービジネスの目標管理をやっても売り上げは伸びないということは誰が見ても明らかなので、変えていかないといつまでたってもレガシーに依存している状態から脱却できないと思います。
楠田:確かに戦後70年あまり経ちましたけれど、高度成長時代から今のレガシービジネスのモデルを作り上げ、大企業になっていった会社が多いですよね。その後、バブルが崩壊しても黒字のレガシービジネスは残して生き延びたし、まだまだ内需もあるし、そこから抜け出している企業は決して多くはないですよね。そうはいっても、多くの企業が今のままではダメだと危機感は感じていて、イノベーションを起こすための研修や、研修と現場を連動させるようなアクションラーニングを導入してきたけれど、結果はあまり出ていないように思えます。今後、進化していくパフォーマンスマネジメントとはどのようなものなのでしょうか?
松丘:従来型の目標管理のままでは、イノベーションを起こしたり、新しいビジネスを創ったりすることの、むしろ阻害要因になってしまうと思います。レガシーはビジネスモデルが確立しているので、この先5年、10年のうちに、コンピュータやロボットに相当、置き換えられる予想されます。そうなると、これから新たに成功の方程式やビジネスモデルを作っていくというような領域にしか成長の余地はないと思うんですよね。そうすると、そもそも目標の達成度で評価しようとしても、やってみないとどんな結果になるのかよくわからない。そんな世界では、実験して検証して、失敗から学んで、というのを繰り返していくような、アジャイルな試行錯誤を促進していくパフォーマンスマネジメントが求められるのではないかと思います。従来のような上から与えられた目標を達成したら評価してあげます、というような外発的な動機づけというのは働かなくなっていくと考えています。
楠田:ビジネスの現場においては、従来のウォーターフォール型のやり方で仕事をしていてもダメで、アジャイル型に変えていかなければいけないという流れになっていますよね。でも、パフォーマンスマネジメントは従来型のまま何も変わっていない。パフォーマンスマネジメントそのものが、半期に1回目標を設定して、面談して、見直して、というような従来のやり方ではなく、アジャイルでなければいけないということでしょうか?
松丘:そもそもパフォーマンスマネジメントというのは、名前のとおり、個人と組織のパフォーマンスを高めるためのマネジメントなわけですよね。ですが従来型の目標管理は、期初に目標を立てて、期末に評価してフィードバックをするということで、その「間」には何もないわけです。ですが、ビジネスの活動は常に行われているので、入口と出口だけ管理してもパフォーマンスは高まりません。その「間」で、一人ひとりを支援していくのがこれからのパフォーマンスマネジメントだと思います。
楠田:そうすると、マネジャーと部下のコミュニケーションが、もっと頻繁である必要があるかと思うのですが、どうですか?多くの日本企業は、やはり半期の目標、半期の見直しはするものの、マネジャーと部下が真剣に向き合って話すことが、半年に1回くらいしかない会社も多いのではないでしょうか?
松丘:そうですね。今後は、マネジャーの役割の見直しが必要と思います。個々のメンバーがあくまでも主役であり、自分自身で目標を考えて活動してみて、そこから学習していくということを自律的に行い、マネジャーはそれを支援する役割を担う立場になると思います。目標を与えて結果を管理するというのが、これまでのマネジャーのイメージですが、そうではなく、一人ひとりが成果を出していくことを伴走しながら支援していく役割に変わることが必要です。
楠田:企業の人事の方と話をすると、「うちは部長もプレイングマネジャーなんですよ」とか、「うちなんか事業部長もプレイングマネジャーです」ということを、ジョークでも何でもなくて、皆さん結構、平気で言います。「他社もそうですよ」というと安心して終わってしまうのですが、それじゃダメですよね。また、パソコンとかスマホとかディスプレイに向かって仕事をする時間が増えていて、生身の人間同士が目を合わせることがすごく少なくなってきていると思います。朝、「おはようございます」も言わないし、「お先に失礼します」も言わない。昼飯はパソコンに向かってゲームしながら弁当を食っているだけというように、朝から晩まで全然しゃべらないで帰っても成果を出せる仕事が増えている。でも、それをずっとやっていると、人間じゃなくなってしまう気がします。もっと対話をする、というのは必要なのでしょうね。
松丘:そうですね。これからは、決められたことを決められたようにやっていれば成果が出せるわけではありません。たとえば、アイデアが大事になってきた時に、私が楠田さんと話して出てくるアイデアと、また別の人と話して出てくるアイデアは違うものになるはずです。そのため、いろんな人とコミュニケーションしながら、アイデアを広げていくという仕事の仕方が、ますます大事になってくると思います。
楠田:確かに最近は色々な企業が、1on 1と言ったり、クオリティカンバセーションと言ったり、上司と部下が今まで以上にコミュニケーションをして、部下のことを知ろう、部下から意見をもらおうとする取り組みを始めていますよね。アメリカのグローバル企業の日本支社でも、「今、何をやっているの?」と聞くと、「ダイアログコミュニケーションセッションばっかりです」と言っていました。部下から聞いているだけではだめで、フィードバックも重要ですね。
松丘:実際、1年以上セミナーや講演をしてきて、人事の方はかなりわかってきていると感じます。多分、今の阻害要因は経営層ですね。そもそも、成果主義人事の中で出世してきた人たちなわけです。先日、ある人から聞いて驚いたのですが、評価で何が問題なのかと経営者に尋ねると、「きちんと評価できないことが問題だ」と言っているということです。もっと評価を徹底させようとする発想そのものが少しまずいと感じます。人事はその問題点を説明していかないといけないわけですが、なかなか経営層の考えを変えるということは難しい。そこで悩んでいる人事の方は多いのではないかと思います。
楠田:昨年の10月に、僕のラジオ番組にコーチングの神様といわれるマーシャル・ゴールド・スミス博士に出演いただいたのですが、その際に「日本の大企業では、社長にエグゼクティブコーチをつける時には、人事から持って行くか、株主から持っていくというのがスタンダードなのですが、そのように社長自身がやらされている感覚で、コーチングは機能しますか?」という質問をしました。マーシャルさんは、「エグゼクティブコーチングを30年やってきている。30年前のCEOはすべて、"僕はできない社長じゃないからそんなものはいらない"というスタンスで、多くのアメリカのグローバルカンパニーの社長はコーチをつけることをすごく拒絶していた。だけど今はもうそんなではない」ということでした。アメリカも、昔は人事からトップに持ちかけることから始まり、30年経ってトップはエグゼクティブコーチを自分のお金でつけるという世界ができてきたということですよね。今では、その会社の業績が上がり、次の会社に移籍するときに同じコーチをつけたまま行くというのもあるみたいです。日本も社長がまだパフォーマンスマネジメントの重要性を理解していないのであれば、人事担当役員あたりから、きちっと社長の首に鈴をつけることをしないとだめだな、と話を聞いていて思いました。
松丘:レガシービジネスのマネジメントをずっとやってきていると、社長がいちばんよくわかっているのは確かでしょう。だけど、新しいチャレンジをしていこうとすると、社長だってやったことがない。そうするとコーチみたいな存在がすごく有益になってくる。レガシーをやっているだけだったらいらない、というのはそのとおりだと思います。
<プロフィール> NECなど東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後に ◇主な著書 |