- 「人材開発ソリューションのエム・アイ・アソシエイツ株式会社」ホーム
- 経営・人事コラム
- 【コラム】楠田祐氏(中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)と語る2017年人事の課題(前半)
今年も中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授の楠田祐氏と弊社代表取締役 松丘啓司の対談を実施させていただきました。今回から2回連載でお届けします。前半のテーマは「過渡期における人事の変革」です。(以下、敬称略) |
|
楠田:人事の変革が言われていますが、僕は過渡期にあるのではないかと思っています。HRテクノロジー、特にAIの技術が相当な勢いで進化し、企業の人事で使える時代が目の前に来ている。AIというと、まだまだ雲の中に手を突っ込んだような感じがして、本当の情報なのか、夢のような話なのか、人によっては捉え方が違うかも知れない。過渡期の時代には少し先のことに対して、ポジティブに考える人とネガティブに考える人が分かれる。自分たちの仕事がAIに置き換えられたら危険だと、ネガティブになる人もいる。ポジティブになる人は、AIでいろいろなデータを分析して会社を変革していくための企画ができる面白い時代に備えて、自分の出番が来るだろうから準備しておこうと学ぶ。企業の人事を訪問してこのテーマになると、このように分かれるように感じます。松丘さんは日々、企業の人事の方と接していてどう思いますか?
松丘:どちらかというと、これまで人事はサポート役と見られていました。しかし、人をどうやって動機付けるかとか、一人ひとりの強みをどう活かすかが、会社のパフォーマンスに大きな影響を及ぼす時代になってきて、人事が活躍できる機会が飛躍的に増えていると思います。人事が会社の方向性、成長、業績に影響を及ぼせる余地が増えている状況が来ていると感じている人事の方も大勢いらっしゃいます。ここでも人事はもっと面白い仕事になっていくとか、もっと可能性があると前向きに捉えられている方と、従来の発想に留まっている方と、2つに分かれているような感じがしますね。
楠田:もう少し話をブレイクダウンしていくと、例えば松丘さんの「人事評価はもういらない」にも書かれているように、No Ratingsをやるのであれば並行して双方向の対話をやる必要があります。1人1台パソコンを持ち、インターネットで繋がっていると、face to faceで話さなくても仕事ができる職種が結構あります。部下と上司が1週間くらい話をしないまま在宅勤務ができて、上司もプレイングマネジャーになると、face to faceのコミュニケーションが希薄になってしまうのがパソコン時代かと思います。そういう中で、AIが入ってくる前提として、生身の人間どうしのコミュニケーションはきちんとしましょうというのが僕の過渡期論。将来的にはロボットから指示されるとか、指示するとかがあるかもしれないけど。もう一度人間どうしがあらためて対話する必要があると思う。
2点目として、今は世代によってはパソコンを使わない人が増えているように思います。私には息子がいますが、次男は20代真ん中、三男はまだ高校生ですが、2人ともパソコンは欲しくない、タブレット、スマートフォンでいいという世代。長男も20代後半ですが、スマートフォン等でどこでも持ち歩きながら仕事するタイプですね。そういう形になると、なおさら人と人とのコミュニケーションをやっていかないといけない。三男の中学は学年全員がLINEで繋がっているような時代を過ごしているので、会わなくてもコミュニケーションできてしまう。これからこういう人たちが企業に入ってくることを考えると、人間どうしのコミュニケーションをしていくことが大切です。特にLINE、Facebook等のSNSによる個人どうしのコミュニケーションツールが多くなったので、なおさら人事としては人間どうしの対話を促進する必要がある。やがて、その後にAIなどが入ってくる。そういう意味での過渡期かなと思います。
確かに人事はサポート役、裏方というイメージがあったのですが、近年、人事はビジネスパートナーHR、HRBPを目指そうということで、制度を作って通達する時代から、各事業部の現場へ行って何が必要なのかを聞いてソリューションを提案できるようにしようという時代になってきている。欧米企業、日本企業でも名刺を見るとHRBPと英語で書いてある人たちが結構います。しかし、僕はこれも一過性だと思っていて、確実にAIがやってくれる時代が来るのではないかと思っています。
最近の人事を取り巻く変化について、松丘さんはどんな思いを持っていますか?
松丘:そういった対話が必要とされている背景には、デジタル化を中心としたビジネスの変化がベースにあると思います。10年前、20年前におけるビジネスの正しい進め方というのは、3か年の中期計画を立てて、それを単年度の事業計画にブレイクダウンして、それをしっかりと現場で遂行できるように落とし込んでいくというイメージとでした。今でもそうですが、おそらく今後はますますそういうやり方で成果が出る業界はほとんどなくなると思います。環境変化が不確実なので3年先の計画を立てるのは難しいし、立てたからといってそうなる確率は極めて低い中で、従来型のウォーターフォール型の仕事の進め方というのはあまり成果を生まない。基本的にはもっと短期で、いわゆるアジャイルな仕事の進め方、つまり実験と検証を繰り返す必要があります。
何が成功するのかよく分からないから、実験をしてみてそこから学んでいくことで成功確率を高めていくやり方になっていくと思います。そうなってくると、上から事業計画が降りてきて、それを粛々とやるというよりも、現場で考えてやらなければならないし、本人と上司が話し合って次はこれをやってみようとか、やったけどこれはうまくいかなかったねとか、こっちはうまくいったねといったことを常に話し合っていくような、そういう働き方に変えて行かなければならないということが、対話が求められる背景にあると思います。
|
楠田:今の話を聞きながら思いましたが、1998年ぐらいまで大企業の中期計画って5年計画がスタンダードだった。私自身も人事の5年先の中期計画をずっと作っていて、それが当り前だった。今、上場企業では3年が多いですよね。さらには、ビジネスのスピードが速い会社では中期計画は作らない。事業や製品、サービスが短命になっている中でウォーターフォール的にかつ5年先は見えないことを皆が分かっている。中期計画が5年単位であれば、人事でも半年に1回とか1年に1回、過去の実績を振り返って上司と面談しているだけでも良かったのかもしれない。でも今は事業そのものも、どんどん変わっていく。選択と集中で売却したり、急にM&Aをして新しい事業を始めたりする可能性もある。マーケットも競合も変わって、今までの業界というものがとっぱらわれるような感じになってきた時代の中では、過去の実績だけでその人を評価していくというのは非常に難しい。
そこで、パフォーマンスマネジメントでは未来指向で上司と話し合う。また、価値観が多様化しているので、上司が部下の価値観を知っていないと組織が機能していかないと考えるのではないかと思うんですよね。パフォーマンスマネジメントと部下の価値観という切り口で、松丘さんはどのように考えていますか?
松丘:アジャイルに仕事をするっていうのは、基本的に一人ひとりが自律的に働くということです。上から言われた目標を達成していくことが仕事だという固定観念がある人が多いと思いますが、そうではなくなってきている。既存のビジネスの目標を達成することばかりに目が行くと、イノベーションが起こらなくなり、逆に成長を阻害してしまうリスクが高まっています。そのため、上から目標を与えられることを待つのではなく、現場で新しい実験を繰り返すことが必要です。現場はリアルタイムで変化するので、一人ひとりが何をやりたいのか、会社にとって今、何が必要なのかを自分で考えて目標を立てないといけない。自分はこれにチャレンジしたいということを考える際に、自分が大切にしている価値観や、自分の強みを活かしてやってみようという発想が不可欠です。ですから、一人ひとり異なる強みや価値観といったものを、face to faceの対話によってどれだけ引き出していけるかがビジネスの成果に直結してくるというのが1点目です。
もう一つは、会社というのはチームで動いていますので、一人ひとりのパフォーマンスだけでなくチームがパフォーマンスを出さなければなりません。その際に、相互の関係がパフォーマンスに大きな影響を及ぼします。互いにフィードバックし合ったり、情報提供をし合ったりというようなことが、チーム全体のパフォーマンスに及ぼす影響が拡大しているのです。それをサポートする上で、SNSのようなツールも効果的です。日常でSNSを使って会話している今の世代の人は、リアルタイムに対話できるSNSが当り前の環境の中で生きてきたのに、会社に入ったらそうでなくなってしまいます。そこに落差があります。会社なのだから、そんなお遊びのSNSみたいなものでコミュニケーションするのはおかしいといった考え方よりも、世の中がそうなっているのだから、会社の方を変えていこうという発想もすごく大事だと思います。
<プロフィール> 東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を ◇主な著書 |