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目標管理・評価制度の問題点に関する簡易調査結果

[2016.09.20] 松丘 啓司 (代表取締役社長)  プロフィール

 ある程度の規模以上であれば、ほとんどの会社に目標管理・評価制度は存在する。しかし、目標管理・評価制度がうまくいっているという声を聞くことはめったにない。では、具体的にどのような問題点が認識されているのであろうか。それを把握するために、弊社(エム・アイ・アソシエイツ株式会社)の年次評価廃止に関するセミナーの参加者にアンケート調査を実施し、回答を集計した(実施時期:2016年7月、8月、9月)。

 本セミナーの参加者は、年次評価廃止という新しいテーマに敏感な大企業の人事責任者・担当者が中心であるため、どちらかというと問題意識の高い層であると考えられる。そのため、この結果は世の中の一般的な統計データとは言えないが、そのような比較的、進んだ会社でも、以下のような結果が出たことは参考になるのではなかろうか。

 本アンケートでは、あらかじめ設定した9つの問題点について、自社に当てはまるものを複数選択可でチェックしてもらった。その集計結果を以下のグラフに掲げる。

graph.png


 以降では上位5項目について、簡単に考察を加えたい。
 
 「評価者による評価結果が上振れする傾向にある」と回答した比率が61%に上った。一次評価を絶対評価によって実施している企業が多数を占めると想定されるが、評価者が実際の水準よりも高い評点を付けていると、6割の回答者が考えている。本アンケートでは、その原因にまで言及していないが、主に以下の2つのケースが推測される。

 1つ目は、評価者が被評価者に配慮して、ガイドラインよりも高い評点を付けるケース。部下に文句を言われたくないから、よくやっているのを認めてあげたいから、できる部下を囲いこみたいからなど、配慮の理由はさまざま考えられるが、上司がいわゆる「甘い評価」をつけている場合である。甘い評価は、上司が部下に対して誤ったメッセージを送ってしまう(つまり率直なフィードバックがなされない)ことによって、人材開発の効果を低下させる。

 評価結果が上振れする原因として想定される2つ目は、部下(被評価者)の専門性が多様化してきた結果、1つの尺度を複数の部下に当てはめることが難しくなっているケースである。期初の目標の水準がけっして低かったわけではないが、どの部下もその目標を達成していたならば皆の評点が高くなる。専門性が同じであれば比較もしやすいが、まったく異なる場合は、横並びで比較できない。そういったケースが増えてきている可能性が推測される。

 「目標管理の面談が実施されなかったり、形式的になっていたりする」と回答した比率が2番目に多く、51%を占めている。たいていの企業では、期初に目標を設定する段階、中間段階、期末に評価をフィードバックする段階で面談を行うことが制度化されている。しかし、その面談がきちんと行われていないと考える回答者が半分を占めている。

 上司がきちんと面談を行わない原因も様々、推測できる。評価に納得のできない部下の文句を聞かなければならないので、心理的にやりたくないといった場合も考えられる。また、面談をやることの意味が乏しい、もっと優先度の高い仕事があると判断されている場合もあるであろう。

 目標管理制度は、単に目標を立てて結果を評価さえすればよいのではなく、上司と部下のコミュニケーションを通じて、目標達成に向けた動機付けや人材開発を行っていくところに意義がある。したがって、面談がきちんと行われていないとすると、制度はあっても実態は形骸化していると言える。

 面談が形骸化しているのはマネジャーに問題があるからだ。そのため、マネジャーに対する教育が必要だという議論がなされがちであるが、マネジャーにばかり問題があるとも言い切れない。そもそもの面談の立てつけ自体が、人材開発よりも業績管理に偏重しているため、前向きな対話が成立しにくいという面もある。実際のところ、「目標管理の面談が実施されなかったり、形式的になっていたりする」と回答した25人のうち、23人(92%)が以下の3つのいずれかにチェックをしている。

 「評価面談では業績評価の理由の説明や改善点の指摘が大部分を占める」(49%)、
 「制度上の評価項目が業績中心であり、人材開発要素は乏しい」(45%)、
 「目標設定面談は会社目標を個人にブレークダウンする場になっている」(39%)
が3位から5位である。これらはどれも、目標管理・評価制度が業績管理偏重で、部下の人材開発に関する対話が乏しいことを表している。

 目標管理・評価制度を、個人の人材開発を通じて会社業績を高めるためのシステムと位置付けている企業は少なくないが、実態は会社の業績の達成を推進するための経営管理システムになっていることが多い。それは、個人起点ではなく会社起点のシステムと言える。

 個人の人材開発と言ったとき、そもそも一人ひとりの強みは異なるし、働きがいを感じる動機も異なる。将来のキャリアビジョンも違えば、ワークライフバランスに対する価値観も異なる。つまり、一人ひとりは多様であるため、人材開発に重点を置くならば個人起点の発想が必要になる。

 社員の人材開発を通じて業績を高めるために本来、求められているマネジメントと、既存の目標管理・評価制度が想定しているマネジメントの内容が食い違っている可能性がある。そのため、現在の目標管理・評価制度の運用を徹底させるための方策を検討する以前に、これから求められるマネジメントはいかにあるべきかをまず明確にしたうえで、それを実現するための制度の姿を再考する必要があるのではないかと思われる。

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