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部門の壁を6割が問題視-人材開発部門は「対話の場」創りを

[2011.11.16] 松丘 啓司  プロフィール

去る11月4日に、「創造性を引き出す人材育成と組織変革~アイデアを生むコミュニケーション5つのポイント」と題する弊社主催のセミナーを開催しました。セミナー後のアンケートで、「貴社のコミュニケーションにおいて課題になっていることは何ですか?」という質問に対して、6つの選択肢から複数回答可で、選んでいただきました。回答のあった68名の結果を集計したものが添付のグラフです。

アンケートグラフ.png

参加者には人事部門の方も多く、また、もともと社内コミュニケーションに対して問題意識を持った企業の管理職の方々が中心であったため、この結果は、世間一般の傾向を表すものではないと考えられます。けれども、そのような問題意識の高い人たちの回答傾向として、一つの興味深い結果が得られたのではないかと思います。


 組織におけるコミュニケーションのどこに課題があるか

もっとも回答数が多かったのは、「部門の壁を越えるコミュニケーション」で、参加者の60パーセントが課題を感じています。「チームワークを生み出すコミュニケーション」(56パーセント)、「トップのビジョンを共有するコミュニケーション」(47パーセント)がそれに続いています。

一方で、「多様性(ダイバーシティ)を活かすコミュニケーション」「若手社員と上司のコミュニケーション」が課題と答えた参加者は、約4分の1でした。また、昨今、問題視されている「配属後新入社員のコミュニケーション」について、課題があると答えたのは9パーセントのみでした。

セミナーの内容が組織変革に関わることであったことも影響した可能性もありますが、上位の3つはどれも組織の問題を表しています。また、特に上位の2つは、仕事の成果に直接的な影響を及ぼす問題でもあります。参加者の多くが、コミュニケーション不全によって、組織が十分に機能しておらず、それが仕事の成果や創造性を妨げていると感じていることが推測されます。


 部門の壁は必ずできる

部門の壁や部門間の軋轢が生じるのは組織の必然です。各部門は、自部門のミッションを果たし、継続的な成果をあげるために、部門の論理を強化していきます。それが「組織学習」です。組織学習は、仕事の生産性を高めるために不可欠なことです。

けれども組織学習をした部門どうしが、部門の主張を戦わせると、部門間の軋轢が生じ、その軋轢が逆に仕事の生産性を低下させてしまいます。しかし、軋轢を避けようとして、コミュニケーションを遮断すれば、今度はそこに部門の壁が生まれてしまいます。多くの会社が、そのジレンマに悩まされています。

本来、部門間に意見の違いが生じるのは、望ましいことです。同じ物事を見ても、たとえば営業部門と研究開発部門では、捉え方が違って当たり前です。もし、すべての部門の意見が一致したとしたなら、その会社に変化は起こりません。「同じだね」で、話が終わってしまうだけです。異なる専門性を持った組織による、異なる見解を活かすことができるからこそ、そこに創造性が生まれ、お客さまに対して新たな価値を提供していくことができます。

論理的な主張を繰り返すだけでは、どこまで行っても平行線です。部門の違いを活かすためには、それぞれの主張を戦わせる「議論」ではなく、「対話」が必要です。「相手がそういう価値観を大切にしているから、その主張を行うのは当然だ」ということを、双方が率直に理解し、両方の価値観を活かす解を見出そうとするコミュニケーションが「対話」です。対話によって、部門単独では得られない創造性が生み出される可能性が高まります。


 対話の必要性は共通

「チームワークを生み出すコミュニケーション」と、「トップのビジョンを共有するコミュニケーション」のどちらにも、対話が必要です。

チームのメンバーがただ、情報を論理的に伝達し合うだけで、チームワークは生まれません。そのようなコミュニケーションにおいては、誰が参加しても差のない結果しか生まれません。1人ひとりのメンバーが自分ならではの価値観を表現し、かつ、他のメンバーがそのことを理解するからこそ、そのチームにしかできない発想や判断が生まれるのです。

トップのビジョンも、ただ、言葉で説明しただけでは伝わりません。なぜ、そのビジョンなのかということを論理的に説明しても、ありきたりな説明にしかなりません。たとえ、ビジョンとして書かれた内容を全員が暗記したとしても、ビジョンが本当に共有されたことにはなりません。

ビジョンが浸透するためには、「トップがそういう価値観のレンズを通して会社の未来を見ているから、そのビジョンを描くことに納得がいく」ということを、社員が理解できなければなりません。そのためには、上意下達の説明ではなく、社員の側も主体的にトップの価値観を理解しようとするためのコミュニケーションが必要です。


 人材開発部門は社内コミュニケーション変革をリードする役割を

問題は、職場において、自発的に対話を促すことが容易ではないところにあります。部門の壁に閉ざされた人々に、対話しようと呼びかけただけで、対話が起こることはありません。多忙な毎日を過ごすチームの人々に、対話を促しても、その時間を持つことは難しいのが現実です。社員にトップの価値観を理解せよと命じても、自分でその機会を創るのは困難です。

会社の中に対話を起こすための、もっとも現実的な方法は、研修を「対話の場」にしてしまうことです。日常業務から離れ、対話のためのまとまった時間を確保できるのは、研修の機会くらいしかありません。そのため、研修を企画する役割を有する人材開発部門は、社員教育のみならず、社内コミュニケーションの変革においても、重要な役割を担う必要があります。

これまでにも、階層別研修などの場で、異なる部門の参加者同士の交流を深める、といった副次的目的が意図されることがあったと思いますが、社内ネットワークができてよかったという程度の効果にとどまりがちでした。組織のコミュニケーションに問題を抱える企業は、そのような副次的目的ではなく、コミュニケーションの変革自体を、研修の主要目的として設定することを検討する必要があるでしょう。

その際、誰に対して教育を行うかという従来の考え方から、誰と誰を対話させたいかという考え方に、発想を転換することが重要です。そのために、会社の中のどこに対話を起こせば、組織や業務に意味のある変化が生まれるかを見定める観察眼が、これからの人材開発部門には求められると思います。

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