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リーダーのための「新人を育てるコミュニケーション」

[2011.04.13] 松丘 啓司  プロフィール

 新人といえども、チームの一員です。早く成長して重要な戦力として活躍してもらいたい、と願わないリーダーはいないでしょう。しかし、仕事を通じて、しっかりと育成したいとリーダーが考える一方で、なかなか思ったように育成が進まないというのも、多くの現実ではないかと推測します。


 新人育成が進まない悪循環

 まず、第一に、新人に任せられる、育成に適した仕事というものが、いつもあるとは限りません。リーダーの仕事は忙しく、なかなか新人の仕事まで考える余裕がないのも通常のことです。それでも、何とか新人用に切り出せる仕事を作り、任せてみます。もともと、アウトプットの質にはそれほど期待をしていなかったとはいえ、出てきた結果がどうもしっくりとこないことも、珍しいことではないでしょう。

 懇切丁寧に指導している時間もないので、「これでいいよ」と受け取って、自分で修正してしまうこともあるに違いありません。それ以降、新人に仕事を任せることは少なくなり、放置されぎみになります。その結果、新人はなかなか育たず、ますます仕事を与えにくくなるという悪循環に陥ってしまう、というのもよく耳にする話です。


 自分で考えない新人たち

 そのような状況では、いつまで経っても新人が育たないため、態度をあらため、もう一度、きちんと指導しようと試みます。仕事を与える際には明確に作業指示を出し、出てきた結果に対しては、修正すべきポイントを的確に伝えます。そのようにして、赤ペン先生のようなことを繰り返していけば、新人もだんだんと育つだろうと期待しますが、今度は、別の問題に突きあたります。

 リーダーの指導なしに自分で判断してもらいたいことまで、新人は「これでいいでしょうか」と伺いを立てるようになるのです。個別の作業指示の場面だけではなく、会議の場でも、自分から意見を発することがほとんどありません。発言を促されて答えなければならなくなった場面でも、「どこそこの会社では、こういうことがあったそうです」などと、自分の意見ではなく、インターネットで得た情報を話したりします。それを聞いて、リーダーは、「少しは自分で考えろ」と言いたくなってしまいます。

 さて、どこに問題があるのでしょうか。リーダーが忙しすぎるからでしょうか。最近の若者の特性なのでしょうか。そういった点も無視できないかも知れません。しかし、これらは基本的に、コミュニケーションの問題だと思います。


 新人は未熟?

 リーダーと新人との間に深いコミュニケーションが必要である、といったことを書くと、何となくきれい事のように感じられる方もおられるでしょう。リーダーと新人の間にそのようなコミュニケーションが成り立つのか、という疑問が持たれるからです。その疑問の根底には、新人は未熟だからという認識があるのではないかと思います。

 確かに新人は、知識やスキルや経験の面で未熟であることは事実です。けれども、その固定観念に縛られると、リーダーは次のように考えてしまいます。それは、「自分は答えを知っているが、新人は知らない」という考えです。その前提で、新人に仕事を与えたならば、リーダーは、自分の知っている答えを、相手に考えさせようとしてしまいます。

 もともと仕事に正解があるわけではありませんが、リーダーの知っている正解を新人に考えさせようとしても、正解が見つけられることはまれでしょう。それにもかかわらず、正解を考えることを要求し続けると、新人は自分で考えるのではなく、リーダーの答えに依存しようとしてしまいます。会議でも発言しなくなってしまいます。そうなっては、リーダーの育てようという思いが、空回りしてしまいます。


 自分の観点で考え行動させる

 リーダーの役割は、強いチームを創り、チームの成果をあげることです。そのためには、メンバーの強みを伸ばし、高い目標に向けてチャレンジさせなければなりません。メンバーの強みは、自分なりに考え行動し、それに対する周囲の評価を得て、気づき、培われていくものです。また、自分の強みを伸ばすことで、より大きな貢献ができることの経験を重ねることによって、高い目標に向けてチャレンジしようという意欲を持つことができます。

 つまり、リーダーがメンバーを育成するためには、正しい答えを探させるのではなく、自分なりの観点で考え行動させることが不可欠です。このことは、相手が新人であっても当てはまります。むしろ、新人にこそ、その習慣を身につけさせることが必要です。

 そのような関わりを続けると、新人の方も「こうしたいのですが、よいでしょうか」と自分から許可を取りに来たり、提案してきたりする日が来るでしょう。その時には、あなたも、相手が育ってきているな、とリーダーとしての手ごたえを感じられることと思います。


 視点を下げない

 新人はリーダーから与えられた作業の意味を理解して、仕事に取り組まなければなりません。さもなければ、「期待外れ」の仕事をしてしまうリスクがあります。作業の意味を理解するために、新人はリーダーの立場、状況を知らなければなりません。この作業が、全体の仕事のどこに当たるのか。何の目的で、その仕事は行われているのか。その仕事を取り巻く関係者は誰なのか。それらがわかってはじめて、個別の作業の意味が理解できることになります。

 リーダーからの説明なしに、新人にリーダーの立場を理解しろ、と言っても無理があります。そのため、リーダーは自分の仕事の目的や全体像について、しっかりと伝える必要があります。新人にそんなことを話してもわからないだろう、などと、けっして考えてはなりません。自分に与えられた作業の意味を、自分なりに理解しない限り、新人は自分の観点で考え行動することができないからです。また、リーダーの高い視点の話は、新人の仕事への関心を引き寄せることでしょう。


 価値観をすり合わせる

 このやり取りはリーダーからの一方的なものではなく、質問に答えたり、逆に質問したりを繰り返しながらの双方向のものである必要があります。その中で、リーダーはぜひ、新人の理解度を確認してみてください。新人が意外と高い理解力を持っていることに、気づくのではないかと思います。

 その対話の中で、リーダーは自分の仕事において、何を大切にしたいと考えているかを伝えます。スピード、正確さ、関係の深さ、新しさ、オリジナリティ、等々、さまざまな尺度がある中で、自分はこの仕事で何を重視しているのかを伝えます。また、新人に対しても、作業に取り組む際に、何を重視したいかを尋ねます。そのようにして、最初に仕事における価値観をすり合わせておくことが重要です。

 新人に作業を依頼するのに、このような手間のかかることはしていられないと感じられるかも知れません。けれども、最初にコミュニケーションを深めておくことが、結局は近道になります。いったん、仕事の目的や価値観が共有されれば、期待レベルや方向性のズレが最小化されます。ズレを曖昧にしたまま作業を依頼すると、後々、かならず問題が生じます。


 以上の話は、別に相手が新人でなくても共通していることに気づかれると思います。確かに、新人は知識やスキルや経験の面では未熟です。けれども、仕事の目的や価値観を共有するという点では、未熟だから理解できないということはありません。この点においては、新人を新人扱いしないことが重要です。

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