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優れた社員はキャリアビジョンで未来を「引き寄せる」

[2010.05.13] 松丘 啓司  プロフィール

 企業の人事・人材開発においてキャリア開発の重要性が増してきたのは、会社と個人の関係性に変化が求められたが故である。かつてのように、終身雇用・年功序列の経営システムによって、会社が個人のキャリアを保障していた頃には、今日のようなキャリア開発はさほど必要とされなかった。個々人が目指すべき未来の姿が会社から示され、そこに向かうために個々人がなすべきことが、比較的、明確だったからである。このキャリア保障のシステムが崩壊したことによって、今日的なキャリア開発の確立が必要とされるようになってきた。


 キャリア開発は自己啓発ではない

 今日のキャリア開発においては、個人の目指すビジョンは会社から与えられるのではなく、かなりの程度、個々人が自ら考えるべきものとして位置づけられる。かつてのように、会社がキャリアを保障することによって、会社に対する個々人の忠誠心を得るのではなく、会社の中で自分らしいキャリアを実現することを促すことによって、会社に対するロイヤルティを育もうとするものである。

 もちろん、個々人がただ思い思いにキャリア開発を行ってよい訳でないことは言うまでもない。会社に属している以上、個人に求められる役割期待や会社の抱えている課題を理解したうえで、自分らしいキャリアを追求することは前提だ。けれども、会社が個人に対して自分らしいキャリアを開発する自由度を提供することは、会社にとっても大きなメリットがある。社員一人ひとりの多様性が発揮されることで、組織に変化が生まれる可能性が高まるからである。

 このようにキャリア開発は、会社と個人の関係性を規定し、社員の成長を方向づける重要な人事・人材開発コンセプトであるにも関わらず、企業内におけるキャリア開発の位置づけは、まだまだ曖昧であるのが多くの現状のように感じる。キャリア開発という言葉から受ける印象が、どこか自己啓発的で、何となく非科学的なものであることも影響しているのかもしれない。しかし、そのようなイメージは払拭されなければならない。キャリア開発は、企業の人事・人材開発の根幹に組み込まれなければならないし、そのためには、よりシステマティックな方法論として定義づけられる必要があると考えている。


 ビジョンとアクションのタイムラグ

 当社ではキャリアを、「仕事を通じて自分を成長させるプロセス」と定義している。この定義だけでは、まだ漠然としているが、このプロセスはさらに2つのサブプロセスに分解しうる。それは、①未来の自分のイメージを描き、②それに向けたアクションを行う、というプロセスである。①は通常、3年から5年くらい将来の姿を指しており、②は今日から3ヵ月か、長くても6カ月くらいの間に実施すべき具体的な行動を指している。

 5年先のビジョンに向けた5年間のアクションプランを描くことは、現実的には不可能であろう。もし万が一、それが描けたとしても、環境が変化する中で、5年間、愚直にプランに従ったアクションを行ったらビジョンが実現したということは、まず、あり得ないだろう。そのため、アクションは直近に行うべき地道なものであるべきである。つまり、ビジョンとアクションの間には、大きなタイムラグが存在するのである。ここにキャリア開発の方法論に関する重要なポイントがある。それは、目の前のアクションを着実に実行すれば、未来が引き寄せられてくるというメカニズムをどのようにして作り出すかというポイントだ。


 未来の自分をイメージする

 「成長」には何らかの方向性が必要である。方向性を欠いたアクションは、行き当たりばったりの、いわばランダムウォークのようなものだ。それでは個人にとっても、会社にとっても望ましい状態がもたらされない可能性が高い。したがって、会社は個人に対して、未来の自分をイメージするための機会を提供する必要がある。その機会は、一般的にはキャリア研修として提供されるだろう。

 未来の自分をイメージするために考えなければならない要素は2つある。第1は、自分の「内の軸」である。それは、自分がもともと持っている価値観であり、自分らしさの源泉である。第2は、会社や周囲からの、個人に対する「期待」である。この期待の中には、明示的なのもあれば、会社を取り巻く環境から暗示される期待もある。つまり、企業内でのキャリア開発において求められる個人のキャリアビジョンは、自分らしさと周囲からの期待の、双方の要件を満たすものでなければならない。

 そのため会社は、個人が「内の軸」と「期待」の双方を適切に理解するための方法を提供しなければならない。また、その上で、双方の要件したビジョンを、個々人がイメージできるようになることをガイドする必要がある。

 キャリアビジョンは、現在における選択に影響を及ぼす。キャリアビジョンが鮮明にイメージできるほど、個人はそれに近づける選択を行う可能性が高いからである。しかし、キャリアビジョンを描いただけで、それが容易に実現されることはない。すなわち、自分を変えるための努力が伴わなければならないのである。それが、アクションプランだ。


 コンピテンシー開発のアクションプラン

 自分を変えるためのアクションプランとは、いわゆるコンピテンシー開発である。このコンピテンシー開発に際しても、「内の軸」と「期待」の2つの要件が必要とされる。コンピテンシーとは、個人の思考・行動の特性である。誰にも発揮しやすいコンピテンシーと、努力をしなければ発揮しづらいコンピテンシーがある。自分の「内の軸」、内発的な価値観に合ったコンピテンシーは、さほど意識しなくても発揮できる。たとえば、他者との親和を重視する価値観を持っている人は、対人関係構築力というコンピテンシーを発揮しやすいといった具合だ。

 一方で、会社が個人に対して発揮を「期待」するコンピテンシーがある。たとえば、営業職に対して、迅速さというコンピテンシーが求められ、それが個人の評価に適用されるような場合である。会社が期待するコンピテンシーが、個人の「内の軸」に合ったものであれば、それは個人の強みとなるだろう。逆に、会社が期待するコンピテンシーを発揮するのが容易ではない場合、それは個人にとっての弱みとなる。したがって、強みを伸ばし、弱みを改善するためのアクションがコンピテンシー開発と言える。


 未来を引き寄せるキャリア開発

 コンピテンシー開発のための方法は、日々の仕事の中で実際にその行動を実行しながら自分を変えていくことだ。つまり、それは地道な行動の継続にある。ここにきて、目の前のアクションプランと将来のキャリアビジョンは連動することになる。それらはどちらも、自分の「内の軸」と周囲からの「期待」によって、共通的に導かれるものだからである。強みを伸ばし、弱みを改善した結果、自分が活躍できている状態が、キャリアビジョンにイメージされた姿であろう。

 この一連のプロセスが繋がることによって、自分を変える目の前のアクションが、未来のビジョンを引き寄せるのである。もちろん、キャリアビジョンは一度、描けばそれで終わりではなく、アクションを実行することによって得られた気づきを反映して、修正され続けていくべきものである。そのような継続的なプロセスが、仕事を通じて自分を成長させるキャリア開発のプロセスである。また、キャリア開発のコンセプトは、研修の場だけではなく、目標管理や行動評価など、人事・人材開発の枠組み全体の中に組み込まれていく必要がある。

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