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- 【コラム】MIAが考えていること(6):リーダーシップは進化しているか?退化しているか?
20年前と比較して、現在のビジネスパーソンのリーダーシップは進化(レベルが向上)しているのか、それとも退化(低下)しているのか、という問いについて、当社内で話すことがあります。それを証明するようなデータがあるわけではないので、実際のところはわかりません。けれども、少なくとも進化はしていない。むしろ退化しているのではないか、と個人的には感じています。
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20年前というと、バブル経済の真っ盛り。そこを境として、日本型の経営システムが大きく転換した時期でした。それ以前には、年功序列・終身雇用の人事制度は当たり前の存在でした。ほとんどの大きな会社では、社員構成がピラミッド型(年代が下に行くほど人数が多い形)をしていました。変化のスピードも現在に比べると、随分と緩やかでした。日本経済は低成長期に入っていたとはいえ、プラス成長を続けていました。多くの企業における命題は、大きな変化を起こすことよりも、継続的に改善しながらビジネスを拡大することにあったのではないかと思います。
そのような状況においては、変革を起こしていく「リーダーシップ」よりも、既存のシステムを上手に運営するための「マネジメント」が、より強く求められていたと思います。「管理職」という言葉がマネジャーを意味するものとして、一般的に浸透していたことも、そのことを物語っているでしょう。
今日でもマネジメントの重要性は失われていません。むしろ、マネジャーが注意を払うべき変数が増え、マネジメントそのものは、より複雑化しています。しかし、その一方でマネジメントだけでは新たな未来を開くことが難しいため、リーダーシップの重要性は飛躍的に高まっています。過去と比較すると、企業は格段にリーダーシップを必要としていると言えるでしょう。
過去はマネジメント重視で、今日ではリーダーシップが重要だからと言って、20年以上前はリーダーシップが不足していて、現在の方がリーダーシップのレベルが高いかというと、けっしてそうではないように思います。逆に、過去の方がリーダーシップを育む環境があり、現在では、黙っていてもリーダーシップが育まれるようなことは、きわめて稀になってしまっているのではないかと感じます。
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話を先に進める前に、MIAではリーダーシップをどのように考えているかについて述べておく必要があるでしょう。当社では、リーダーシップを「個の潜在力を引き出し、組織の未来を切り開く働き」と定義しています。つまり、メンバーから見たときに、リーダーが自分の強みを引き出してくれる存在であり、組織の未来を指し示してくれる存在であって、はじめてリーダーシップが感じられるのだと思います。
私自身も含め20年以上前に社会に出た人や、その頃、既にマネジャーであった人の話を聞くと、20代前半の若いうちから、自分自身のリーダーシップについて意識していたようです。なぜなら、入社して数年のうちに部下を持つことが普通のことであり、場合によっては30歳で10人以上の部下を持つことも珍しいことではなかったからです。自分が人の上に立ったときに、どのようにして部下の信頼を得るかについて、誰かから尋ねられる以前に、自分自身で考える環境があったと思います。
人情味のある親分肌の先輩がいて、あの人にはリーダーシップを感じるが自分にはできないなとか、強権的なボスのやり方を見て、ああいう風にはなりたくないなとか、他の人のスタイルと照らし合わせながら、自分は何を軸にリーダーシップを発揮しようかと思案した経験が、かつては誰にもあったのではないでしょうか。そうしたことをあれこれ考えることで、自分にしかない強みは何だろうと、自分の内面に自然と目が行きます。自分らしさを探しながら、それをどのように活かしていくかを考えることは、リーダーシップの学習の大切な要素です。
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この20年でビジネスの世界における分析技法も、随分、進歩したと思います。10年ちょっと前からMBA的なスキルが、企業研修に取り入れられることも増えました。その頃、私の担当していたクライアントの部長が、選抜研修に参加した感想を教えてくれたことを覚えています。部長いわく、フレームワークを活用して論理的に考えるような訓練はこれまでやってこなかったので、たいへん勉強になったとのことでした。
それを聞かされた私の疑問は、そんなことを部長クラスの人に対して行う必要があるのだろうかということでした。私自身はコンサルタントとして、論理思考の手法を日常的に用いていましたが、そのようなことは部長のスタッフがやればよいことであって、部長には他の人にはない視点から、現状を大きく変えるようなビジョンを示してもらいたいと思ったものでした。
20数年前には、何かのビジネスプランを考える際、最初からパワーポイントの分析レポートが配られて、それをもとに議論するというようなことはありませんでした。そのかわりに、自分たちの事業をどうしていきたいのか、どんなビジネスを作っていきたいのかといった個々人の思いを、何時間も話し合うようなことが、会社の至るところで行われていたのではないでしょうか。それは経営戦略やマーケティングの理論からすると拙いものであったかもしれませんが、ビジネスを担う人の意志が込められたものだったと思います。
組織のビジョンは、どれだけ経営環境を分析しても明らかになるものではありません。それは、自分はどうしたいか、自分たちはどうしたいかということを、とことん問い続けることによってのみ見えてくるものです。分析技法の進歩によって、そのような貴重なリーダーシップ開発の機会が失われてしまっているような気がします。
リーダーシップの重要性は高まりながら、それを育む機会が減少しているのではないかということを危惧しています。