経営・人事コラム

人事コラム バックナンバー

MIAが考えていること(4):相手の考えを理解せずにコミュニケーションできるか?(その1)

[2010.03.25] 松丘 啓司  プロフィール

 今回のコラムのタイトルは奇妙な問いかけに感じられるかも知れませんが、これは先日、当社内で研修テキストに関する打ち合わせをしている際に出された問いです。結論から述べると、この問いに対する答えは、Yesです。しかし、それでは深いコミュニケーション、有意義なコミュニケーションにはならない、ということが理解されなければなりません。

 これは、コミュニケーションとは何かという問いに関わる問題です。もし、コミュニケーションを複数の人の考えていることを伝え合うことと定義するなら、相手の考えていることを理解しなければコミュニケーションは成立しないと言えるでしょう。あるいは、それは一方通行のコミュニケーションである(伝えてはいるが伝わってはいない)という解釈ができるかも知れません。しかし、実際のところ、相手の考えていることを理解しないで、コミュニケーションが行われるのは日常的なことなのです。


 常識があればコミュニケーションは成り立つ

 たとえば、ファーストフード店のカウンターでの店員とお客の会話を見てみましょう。

店員「何になさいますか?」
お客「チーズバーガーとコーヒーをお願いします」
店員「フライドポテトもいかがですか」
お客「結構です」

 2人の間でコミュニケーションは成立しています。しかし、お互いに相手の考えていることは理解していません。お客が「チーズバーガーとコーヒーをお願いします」と言ったのは、店員が「何になさいますか?」と尋ねた、いわば合図に応えただけであって、店員が何を考えているかを理解したうえでの発言ではありません。

 そもそも、この場面では相手の考えていることを理解する必要もありません。ファーストフード店のカウンターで一般的にどのような行為が行われるかを、お互いが認識してさえいれば事足ります。「この人は何を考えて、このような発言をしているのだろう」といった面倒なことを、わざわざ考える必要はないのです。

 この例と似たようなコミュニケーションが、企業組織の中でも日常的に起こっています。組織におけるビジネスのコミュニケーションであっても、相手の考えていることの理解なしに行うことが可能なのです。ファーストフード店におけるルールと同じように、組織の常識が社員の間で共有されていれば、コミュニケーションは成立するでしょう。しかし、それでは、ファーストフード店での注文と同様の、決まりきったコミュニケーションの域を出ないというところがポイントです。


 相手の考えていることを知る気がないのが原因

 たとえば、ミドルと若手の間でのコミュニケーションがうまくいかないという問題について、しばしば耳にします。若手に話を聞いてみると、「上司が自分の考えを聞いてくれない」と言います。上司に聞くと、「若手は積極的に意見を言ってこない」と正反対のことを言います。もう一度、若手に聞くと、「一度、自分の意見を話したが、やり込められて話が続かなかった」という答えが返ってきます。

 このようなコミュニケーションは、至るところで見られます。上司が若手をやり込めるパターンにも共通点があるのではないかと思います。たとえば、次のような具合です。

 「君はまだ経験が足りない。経験を積めばわかってくる」(経験の観点)
 「会社はそのようには動いていない。ルールをよく考えるように」(ルールの観点)
 「君の論理は甘い。この世界ではそのような論理は通用しない」(論理の観点)

 上司はおそらく、若手を教育したいという気持ちで、このような発言をするのでしょう。しかし、これらの発言はコミュニケーションの連鎖を断ち切ってしまいます。若手は、「わかりました」としか答えられないでしょう。そこで、コミュニケーションは終わります。

 経験もルールも論理も、「組織の常識」です。ミドルの人たちの間では、これらの常識が共有されているのでしょう。この例の上司の発言は、見方によっては、その常識に基づいて、若手の言葉に反応しているだけとも言えます。また、この場合の上司にとっての教育の意味は、その常識を若手にも理解させることです。

 若手が組織の常識を理解しなくてよいという訳では、けっしてありませんが、少なくとも上司は若手が考えていることを理解せずに話しています。ファーストフード店の例と同様に、そもそも、そのようなことを理解する必要はないと、無意識のうちに思っているのでしょう。

 これは無意識なので、上司本人は相手の考えていることを理解していると思っている可能性が大です。しかし、実際に理解しているのであれば、上記のような発言がいきなりは出てこないでしょう。もしも、相手の考えていることを知りたいと思っているなら、「君はなぜ、そのように思うのか?」とか、「どのような経験から、そう感じるようになったか?」と尋ねるはずです。それを訊かないのは、相手の考えていることを理解する必要がないと思っているからに間違いありません。

この続きは、来週、書きます。【つづく】

≪過去の連載一覧≫
MIAが考えていること(1):育成を目指している人材像
MIAが考えていること(2):「キャリアとは何か?」を問う
MIAが考えていること(3):「みずから課題を設定できる人」を育てるためには?

» 経営・人事コラムトップに戻る


お問い合わせ・資料請求
人材育成の課題
キャリア開発

キャリア開発

個人の働きがいと組織への貢献を両立するキャリア開発を支援します。

リーダーシップ・マネジメント開発

リーダーシップ・マネジメント開発

マネジャーに必要不可欠なリーダーシップとマネジメント力を養成します。

コミュニケーション開発

コミュニケーション開発

組織や仕事に変化を起こすコミュニケーション力を養成します。

組織開発

組織開発

ビジョンと価値観を共有し成果を高める組織創りを支援します。

営業力開発

営業力開発

お客さまと自社の双方に大きな価値をもたらすことのできる提案営業力、組織営業力を開発します。

経営力開発

経営力開発

ビジネスプランの立案に必要となる知識と実践的なスキルを養成します。

人事向けメルマガ登録

PAGE UP