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MIAが考えていること(3):「みずから課題を設定できる人」を育てるためには?

[2010.03.16] 松丘 啓司  プロフィール

 「誰かから課題を与えられるのを待つのではなく、みずから課題を設定し、解決できる社員を育てたい」と、企業の経営者や人事担当の方々は異口同音に言われます。今回は、「みずから課題を設定できる人」とはどういう人かという問いに対して、私たちが考えていることをご紹介したいと思います。


 環境を分析しても課題は明らかにならない

 ここで言う課題とは、自分自身の内面的な改善課題のことではなく、ビジネス上の課題を指しています。売上を上げるための課題、生産性を高めるための課題、新規事業を開発するための課題など、さまざまなビジネス課題が含まれます。

 企業や企業内におけるチームにとっての新しい課題が発生する原因は、外部環境が変化するからです。もしも、外部環境がまったく変化しなかったとすると(そんなことは、あり得ませんが)、新たな課題が生じることはないでしょう。そのため、自社(あるいはチーム)にとっての課題を設定できるようになるためには、環境変化の影響を分析できなければなりません。

 そこで、5フォーシズ分析や3C分析のようなフレームワークを活用した論理思考の研修がしばしば行われることになります。みずから課題を設定できないのは、環境変化を分析するための知識やスキルが足りないから、と考えられているのかも知れません。しかし、そのような研修を実施すると、さらに次の問題が生じます。それは、同じ研修を受けても、みずから課題を設定できる人とそうでない人が、やはり存在するということ。しかも、後者の方が依然として多いということです。それはなぜでしょう。研修の内容に問題があったのでしょうか。

 この問題の根本原因は、「環境」とは何かという点に関する誤解と、それに起因するフレームワークの使い方の誤りにあると考えます。この「環境」に関する誤解とは、環境とは客観的なものであり、それを論理的に分析すれば課題が明らかになるという誤解です。この誤解は、無意識のうちに広く蔓延しているように感じます。

 あらためて考えてみるまでもなく、企業を取り巻く環境変化は無数に存在します。それらをすべて分析して、客観的に課題を識別することは、そもそも不可能な話です。私は企業研修で、しばしば自社課題を扱ったレポートのレビューをする機会がありますが、受講者が作業を始めて最初の頃に持ってくる環境分析の内容は、判を押したように似通っています。環境変化が無数にあるにも関わらず、なぜ、皆が同じような分析結果に至るのかというと、それは環境を客観的に分析しているのではなく、自社の立場から主観的に見ているからです。


 自分の軸があってはじめてフレームワークは活かされる

 環境とは自分たちの組織の外側にあるすべてです。組織(会社やチーム)は自分たちにとって大切な環境変化にのみ対応します。もしも、すべての環境変化に対応しなければならないとしたら、組織は自律性を失ってしまうでしょう。何が大切な環境変化で、何がそうでないかを判断するのは、あくまでも組織の側なのです。つまり、組織の内なる価値観(=何が大切かを決める基準)がなければ、重要な環境変化を判断することができず、ひいては自分たちの組織にとっての課題を設定することもできません。

 その意味で、上記の自社課題の受講者たちが同じような環境分析レポートを作ったのは当然の結果です。受講者たちは、自社の価値観を通じて環境を見ていたからです。しかし、皆が同じような分析をするのであれば、「みずから課題を設定できる人」ということになるでしょうか。そこには個人の主体性や自律性が感じられず、経営者や人事が求めているイメージとは異なるでしょう。

 ここに至って、「みずから課題を設定できる人」の要件がより明確になってきます。それは、ただ組織の価値観を通じて環境を見るのではなく、自分の価値観を通じて環境を見ることができることです。つまり、会社がこういう方向を目指しているから(=方向性を与えられる)というのではなく、自分はこうなりたい、こういう組織にしたいという自分発の思いを持っているということです。

 したがって、「みずから課題を設定できる人」を育てるための第一歩は、一人ひとりが自分の価値観に基づいた軸を持ち、「こういう組織にしたい」という内発的なビジョンを持つことを奨励することでしょう。それなしに、どれだけフレームワークを使った分析を行っても、魂のこもらない大量のレポートができるだけです。逆に、自分の軸を持った人にフレームワークを与えることによって、思いに説得力が加わった課題設定ができるようになります。この順序が大切だと思います。

≪過去の連載一覧≫
MIAが考えていること(1):育成を目指している人材像
MIAが考えていること(2):「キャリアとは何か?」を問う

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