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お仕着せのコンピテンシー評価だけでは社員の成果は上がらない

[2010.02.17] 松丘 啓司  プロフィール

 「社員の一人ひとりに、それぞれの強みを発揮してもらいたい」と願わない経営者や人事の方はほとんどいないのではないかと思う。しかし、一人ひとりが自分の強みを発揮できるようになるために何が必要かという点について、明確になっていることはそれほど多くないのではないかとも感じる。そもそも、個々人の「強み」とはいったい何なのか。筆者は、それには2つの要件があると考えている。


 個人の強みとは何か?

 第1の要件は、「期待されていること」である。

 個人が、これが自分の強みだ、と勝手に思っていたとしても、誰からもそれが期待されていない状況では、それは強みと呼ばれないだろう。強みがあるかどうかは、自分で決めることではなく、他者が判断することなのである。強みは、お客様や自分の属する組織など、周囲からの期待に応えることができて、はじめて存在しうるものだ。

 第2の要件は、「差別化されていること」である。

 もし、他者の期待に応えられる人が大勢いた場合、自分の強みは強みと言えるだろうか。その中に、自分よりももっと期待に応えられる人や、自分と同レベルだがコストの安い人がいたとすると、他者はその人を選ぶだろう。そうなると、自分の強みは相対的に強みでなくなってしまう。そのような状況で自分の強みを維持しようとすると、他者の期待を超えて、際限なく能力を高めるか、自分を安売りするかのどちかしか選択肢はなくなってしまう。そのようなことを続けることには当然、限界がある。

 したがって、個人の強みを周囲に認めてもらうためには、相対比較によって違いを示すのではなく、その人にしかない絶対的な違い(=価値)が提供されることが必要になる。他者の期待に応えながら、そこに自分にしかない価値が加えられることによって、「その人ならではの強み」を、周囲から認識されることが重要なのである。

 では、その人にしかない価値とは何か。

 たとえば、英語を使って海外のキーパーソンと関係を作るのが上手な人がおり、周囲から、それはその人にしかない強みであると認められていたとする。その場合の強みは、単に英語ができるということではなかろう。英語という語学スキルを持つ人は他にも大勢いるに違いない。その人が関係構築を得意とするのは、もしかすると「対人共感力」の高さによるかもしれないし、「論理的伝達力」の高さによるからかもしれない。これらは、人事用語でいうところの「コンピテンシー」に当たるものだ。つまり、その人にしかない価値は、コンピテンシーを通じて発揮されるのである。

 価値とは、その人が大切にしている何かである。「それには価値がある」という発言は、「それは私にとって大切だ」というのと同義だ。たとえば、高級外車に価値を見出す人は、高級外車のステータスや性能が、その人にとって大切なことだろう。ある人が、自分は何を大切にするかを決定する基準は、その人の価値観である。そのため、人にとっての価値は、その人の持つ価値観に依存する。

 人の価値観自体は、周囲の人の目に見えるものではない。その価値観を外に表出させ、他者に伝えるためには、何らかの行動が必要だ。自分の内的動機に基づく内発的価値観から発せられる行動は、自然とその人らしい行動になる。たとえば、他者と親和したいと願う価値観を持つ人は、対人共感力が高くなる可能性が高い、といった具合である。自分の内発的価値観に基づく行動特性は、その人にとって得意なコンピテンシーとなりやすいと言える。そのコンピテンシーは無理なく発揮され、再現性が高いからだ。

 つまり、第2の要件である差別化の源泉は、個人の内発的価値観にある。そのため、個々人が自分の強みを開発するためには、自分の内発的価値観が何かを理解していることが重要になる。それによって、一人ひとりが自分ならではの行動特性を仕事に活かす方法を、みずから考えることができるようになるのである。


 お仕着せのコンピテンシー評価はうまくいかない

 他方で、いわゆるコンピテンシー評価によって示されるのは、第1の要件である期待だ。その目的は、その会社や組織において、成果に繋がりやすいコンピテンシーを明確にし、社員に対して、そのような行動を促すことにある。社員は当然、組織からの期待に応えるように努力しなければならないが、そのために重要な前提は、自分の内発的価値観に基づく行動特性と、組織から示されるコンピテンシー評価項目とのギャップを認識していることである。

 組織が期待するコンピテンシーと個人の得意とするコンピテンシーが合致していれば、個人にとって苦労は少なかろう。逆に組織の期待と個人の特性がまったく異なるとすると、その人に求められる努力は並大抵のものではない。もしも、そのようなことがあったとするなら、それは間違いなく配属ミスだろう。通常の場合は、0か100かということではなく、ほとんどの人がその中間にいるに違いない。コンピテンシー評価項目の中には、個人にとって発揮しやすいコンピテンシーも、そうでないものも混在しているのが普通のことだろう。

 個人が自分の内発的価値観と、それによって駆り立てられる行動特性を理解せずに、コンピテンシー評価が行われたとすると、あまり良い結果が生まれない可能性が高い。ハイパフォーマーの行動特性と比較して、ここができていない、あそこが悪いと指摘されても、改善に向けた能動的な意欲が湧きにくい。また、外部から示される基準に自分の行動を合わせようとする努力は、洋服にからだを合わせるようなもので、どうもしっくりと来ずに持続しづらい。

 自分の内発的価値観とそれに基づく行動特性が理解できていれば、自分なりの改善のシナリオを描きやすくなる。今期は、自分の得意なコンピテンシーで仕事に貢献しよう、他方で不得意なコンピテンシーを少しずつ改善しようとか、この1ヵ月は、自分の不得意なコンピテンシーの向上に打ち込んでみようとかいった、能動的な目標を立てることができる。つまり、他律による「やらされ感」ではなく、自律的な「意志」を持って目標設定をすることが可能になるのである。

 コンピテンシー評価が真に機能するためには、このように個々人が自分にとっての行動目標を主体的に立てられるようになることが不可欠である。そのためには、コンピテンシー評価の項目をただ理解させることよりも、一人ひとりが自分自身をよく理解することが、はるかに重要であると思う。

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