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社員のこだわりを育むことで、目標管理制度は機能する

[2010.01.06] 松丘 啓司  プロフィール

 「自分は何をやりたいのか」「どうなりたいのか」がわかっていなければ、それが実現することはない。しかし、仕事の場において、自分は何をやりたくて、どうなりたいかをはっきりと言える人は、実はあまり多くはないのではないかと思う。自分に要求される役割や期待される姿に向けて、自分自身を適合させようとすればするほど、自分本来の意志が何なのか、よくわからなくなってしまうこともあるだろう。

 年始に1年の抱負を考えるとき、趣味や家族などのプライベートの領域で、「今年こそ、これをやりたい」と望むのはさほど難しくないかもしれない。けれども、いざ会社での目標管理面談の場になると、自分のやりたいことがよくわからなくなる。よくわからないでは済まされないため、いきおい、自分に求められているミッションにただ従った目標が設定される。その結果、目標には誰が立てても同じようなことが羅列されてしまう。

 目標設定面談の場で、部下から「自分のミッションを達成するために、○○ができるように努力します」とか、「△△を勉強します」とか言われて、うんざりしてしまうマネジャーも少なくないだろう。努力したり勉強したりするのは当然のことであるだけではなく、そこにはその人の内から湧き出る主体性が感じられないからだ。

 海外とのビジネス交渉の経験がある方は、こちらが「何がほしいのか」を明確にしなければ、まともに相手にされないということが、身に染みてわかることだろう。会社における目標設定は交渉ではないが、何をやりたいのかが明確でなければ、上司も会社も支援のしようがない。今日のほとんどの会社は、目標とその実現に向けた課題をみずから設定できる、自律的な社員像を期待するようになってきている。

 もちろん、社員が求められる役割やミッションを果たさなければならないのは当然のことであるが、同時に自分ならではの付加価値も求められる。あらゆる会社が大きな転機にある中で、社員一人ひとりの可能性に対する期待はおのずと高くなる。しかし、ただ期待するだけでは、社員もどうしてよいかわからない。したがって、会社は社員一人ひとりが、「自分の軸」を確立することを積極的に支援すべきであろう。

 「自分ならではの付加価値」とは、文字どおり自分にしかない価値を加えることである。その価値とは単なるスキルや知識ではない。スキルや知識が重要であることは言うまでもないが、それだけでは「自分ならでは」とは言えない。同じスキルや知識を持っていれば、誰でもよいことになるからだ。そこに、自分にしかない観点やこだわりが備わって、はじめて他者とは差別化された価値が認識されるのである。

 このように書くと、「価値があるかないかを判断するのは顧客や周囲の人々であり、それに応えることが何よりも重要であって、そのためには自分のこだわりを脇に置くべきではないか」という反論があるかもしれない。これは一見、もっともな反論に思えるが、実はそうではない。自分なりの観点やこだわりを欠いては、他者から本当に価値ありと認識されることがないのである。

 たとえ、どれだけ専門的な知識を持っていたとしても、自分なりの観点を持たない人の主張は浅いと感じられるだろう。何ごとにもこだわりを持たずに、臨機応変に考え方や行動を変える人は、自分の軸のない人と見られても仕方ない。自分なりの観点やこだわりは、自分にしかない「強み」の源泉なのである。

 「観点」とは、どのような価値観を通して物ごとを捉えるかということだ。「こだわり」とは、自分が大切にする価値観そのものを指している。この「価値観」とは、言うまでもなく、外部から持たされた価値観ではなく、自分の内発的価値観のことである。

 内発的価値観とは、自分が「何を大切にするか」を決定する基準である。それは、自分の主体的な選択の基準と言える。つまり、「自分は何をやりたいのか」「どうなりたいのか」を決定する要因である。

 また、内発的価値観は、自分を自然と突き動かす内的動機によって決定される。それは、自分の思考と行動の特性を左右する。思考・行動特性とは、人事の用語で言うところの「コンピテンシー」に当たるものである。つまり、価値観は自分の思考や行動における強み(=コンピテンシー)を決定づけるのである。

 「自分ならではの付加価値」は、ただ何かにこだわっているだけでは生まれるものではない。そのこだわり(=価値観)が、コンピテンシーとして発揮されて、はじめて実現されるのである。他者にはない強みが付加されることによって、かけがえのない価値が生まれるのである。

 したがって、目標管理制度を機能させるために会社が支援すべきことは、社員一人ひとりのコンピテンシー開発にあると言える。このコンピテンシー開発は、会社が示すコンピテンシーを発揮できるように社員の行動を変えることではない。逆にそれは、社員の内発的価値観を、差別化された思考や行動として発揮することを支援するものだ。

 社員に対して「自分の軸を持て」ということを言うのは簡単であるが、ただ、そう言うだけでは何も変わらない。社員一人ひとりが、自分自身の内発的価値観を理解し、さらにそれを差別化されたコンピテンシーとして発揮するためのアクションプランを作れるようにするための十分な支援を伴って、目標管理制度はようやく機能することになるだろう。

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