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複線型人事制度の成功の鍵は、若年からのリーダーシップ開発にあり

[2009.11.04] 松丘 啓司  プロフィール

 この10年で、企業における複線型の人事制度が一般的になってきた。最近になって、新たに導入する企業も少なくない。ライン管理職コースと専門職コースを設けるのが、その典型的なパターンである。

 複線型人事制度を導入する理由としては、仕事における価値観の多様化や、適材適所の必要性の高まりなど、前向きな項目が挙げられることが多いが、実際のところは役職ポスト不足への対応が最大の理由であることは、隠せないだろう。

 そのため、複線型人事制度の導入をした、または、これから導入しようとしている企業の人事の方とお話しすると、専門職のモチベーション維持を心配する声がしばしば聞かれる。しかし、そのような不安は、これまでどおりライン管理職コースが本流であるという意識が、根深く存在するために生じるものであろう。


 1.大きな変革が求められるのはライン管理職の方である

 ライン管理職コースはこれまでと大きく変わらないが、新たに設置した専門職を動機づけるために、何らかの対策が必要という考えでは、過去の単線型人事制度の価値観を転換させることができず、結局、うまくいかなくなることは目に見えている。複線型人事制度の成功のためには、むしろライン管理職のあり方を変革することが不可欠ではないかと思う。

 もし、複線型の人事制度がねらいどおりに機能したなら、従来型のやり方で管理職は専門職をマネジメントできなくなるに違いない。自立した専門職人材は、マネジャーより知識も経験も豊富だ。中にはマネジャーより1回り、場合によっては2回りも年上の先輩が含まれるかもしれない。他社から転職してきた専門職もいるだろうし、外国人がいてもおかしくない。

 そのような自立した、多様な専門職人材を、役職ポストの権限やルールの運営だけでマネジメントすることの困難さは容易に想像できる。そのため、複線型人事制度におけるマネジャーは、信頼されるリーダーになければならないのである。専門職から信頼されないマネジャーは、威信を失った、ただの飾り物になってしまうに違いない。

 これからのマネジャーは権限でメンバーをリードするのではなく、信頼によってリードする。そのために、ぶれない信念を持ち、それを表明し、言ったことは必ず実行しなければならない。また、多様な人材の価値観を尊重し、異なる専門職人材どうしの調和によって、創造性を引き出さなければならない。

 さらに、多様な専門職人材が共有できる組織の価値観を定義し、その価値観による選択が生み出す未来のビジョンを示さなければならない。また、そのビジョンの実現に向けて組織を変革し、重要な意思決定を行うことに対する専門職人材の積極的な支持を得なければならない。

 複線型人事制度によって大きな変化が求められているのは、ライン管理職の方なのである。ライン管理職が旧来型のマネジメントではなく、リーダーシップによって専門職人材をリードすることができるようになって、はじめて複線型人事制度は効果的に機能することになる。


 2.若手からの計画的なリーダーシップ開発が近道

 これは10年がかりの取り組みであると覚悟した方がよい。もちろん、ライン管理職のリーダーシップ開発には、すぐにでも着手すべきだ。しかし、旧来型のマネジメントの下で体得されてきた行動様式を変えるには時間がかかるだろう。リーダーシップは、研修を受ければその日から身に付く類のものではなく、現場における行動変容を通じて、学習されていくものだからである。

 複線型人事制度で必要とされる、リーダーシップを備えたライン管理職を育てる一つの近道は、若いうちからリーダーシップ開発を行い、将来のリーダーに求められる行動様式をだんだんと身につけさせていくという方法だ。いったん身に付いたものを変えるよりも、その方が確実であろう。

 入社して何年目頃に、どのような教育を行うかという組み立ては、企業によって異なると思われるが、ここでは典型的なパターンを掲げておきたい。

(1)入社2~3年目頃
 新人が会社と仕事について、ある程度、理解してきた段階。この段階で必要なリーダーシップ開発は、自分の価値観を活かすことの重要性を理解し、自分の軸を持って行動できるようになることである。そのために、みずからの内発的な価値観を知り、それを発揮するために、自分の行動をどのように変えていくかを見定める。それは、この時期に必要なキャリア開発と同様の内容でもある。

 この時期にリーダーシップ開発が必要とされる理由は、若手人材が組織の価値観にどっぷりと染まる前に、自分ならではの価値観を発揮することの重要性を植え付けることにある。「鉄は熱いうちに打て」ということわざの意味どおりだ。

(2)入社5年目頃
 一人で一定の仕事を完結させられるようになってきた段階。チーム内の一員として仕事をするだけではなく、他部署や社外も含めた人々との関係性の中で、仕事を広げていく役割が求められるようになってくる。自分の軸に従って行動するだけではなく、多様な他者の価値観を活かしていく行動が期待される。

 この段階で必要なリーダーシップ開発は、他者との関係性の中から創造性や変革を生み出していくことができるようになることである。そのために、他者の価値観を理解し、自分の価値観も共有しながら、より高い次元で調和のとれた解を導き出していくコミュニケーション力の養成が求められる。

(3)30代前半頃、あるいは進路選択の3年ほど前
 まだ、正式なライン管理職ではないが、組織のリーダーとしての役割が求められ始める段階。この段階で必要なリーダーシップ開発は、組織リーダーという立場であるがゆえに求められるリーダーシップ行動を理解し、現場において少しずつ試行錯誤することだ。具体的には、価値観を組織で共有化し、未来のビジョンを示し、それに向けた重要な選択を行っていくという組織開発に関わる行動である。

 このようなリーダーシップ行動を、ライン管理職になってはじめて学習するというのでは時間のロスが生じる。また、ライン管理職になる数年前から、組織リーダーになるための行動目標を立て、その結果をフィードバックしていくことを繰り返すことによって、本人にとっても、会社にとっても納得のいくコース選択が行われやすい。

 リーダーシップ自体は、もともと役職ポストの有無には無関係のものだ。したがって、それはライン管理職だけではなく、専門職にも必要とされるものである。そのため、上記のリーダーシップ開発は、ライン管理職候補だけではなく、全員を対象とすべきである。ライン管理職と専門職の双方が、リーダーシップ行動についての理解を共有することによって、複線型人事制度の下での組織運営が円滑になるという効果も期待できるだろう。

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