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メンバー間の主張の対立は、リーダーにとって組織変革のチャンス

[2009.09.30] 松丘 啓司  プロフィール

 「調和する力」は、これからのリーダーに必須の能力だ。それは、新しいアイディアを生み出すだけでなく、組織に変革を起こし、人の学習能力を高めるうえで、きわめて重要な機能を果たすからである。企業におけるリーダーシップ教育においては、かならず扱われるべきテーマであると考える。


 1.異なる主張が調和すると、何らかの創造的な進歩がかならず生まれる

 「調和」とは、異なる価値観に基づく異なる主張を、より高い次元で融合し、新たなアイディアを生み出すこと(=シナジー)を意味している。それは、異なる主張どうしを譲歩させ、落とし所をみつける「妥協」とは違う。妥協は、「足して2で割る」とか「互いに歩み寄る」とかいった感覚だが、そこから進歩や創造は生まれない。

 チーム内で主張の対立が起きたときに、「お前たち、自分の主張を押し通そうとするのではなく、お互いに歩み寄ったらどうだ」と諭して、融和を図ろうとするリーダーがいる。一見するとリーダーとして取るべき行動のように思われるかもしれないが、実は違う。それでは、進歩や創造の機会を逸してしまうからである。

 一つの簡単な例を用いて解説しよう。たとえば、営業担当者と開発担当者が売上向上のために何を行うべきかで対立しているとする。このような場面は、どこの会社でもしばしば見られることだろう。

営業担当者の主張:
 「製品の差別化要因が劣化していることが、売上が伸びない原因だ。このような状態で営業の負荷を高めても売上には繋がらない。製品の差別化から先に着手すべきだ」

開発担当者の主張:
 「確かに差別化要因が劣化していることは認めるが、まだまだリーチできていない顧客が多数存在することも事実だ。売上が伸びないことを製品のせいにするのは他責的な考え方だ。営業はもっと新規顧客開拓を積極的に行うべきだ」

 おそらく、どちらの主張にも一理あることだろう。しかし、営業担当者の主張に従えば、製品の差別化ができるまで売上は増えないことになってしまって、時間がかかり過ぎる可能性がある。一方、開発担当者の主張に従えば、一時的に売上は増えるかもしれないが、持続性はなく、いずれ同じ議論を繰り返す結果になる可能性がある。

 この場面での想定される妥協点は、「営業も開発も双方ともがんばる」といったところだろう。しかし、それでは何も変わらないというのと同じだ。進歩も創造もない。したがって、第3の道が模索されなければならない。それは、双方の主張が活かされる解決策を生み出すことだ。

 たとえば、「新規開拓は製品の差別化要因づくりに寄与する顧客やテーマに特化し、営業と開発がチームを組んで顧客開拓を行う」といったことが、解決策の一つの例になるかもしれない。もっと発想を豊かにすれば、さらによいアイディアが生まれるかもしれないが、これでも、今までよりも明らかな進歩だ。

 異なる主張が調和することによって、何らかの創造的な進歩がかならず生まれるのである。創造は無から生まれることはなく、そもそも異質の調和から出現するものだからだ。


 2.調和は組織を変え、人を成長させる

 さらに調和は、それによって創造的なアイディアが生み出されるということにとどまらず、リーダーシップに関連して、2つの重要な意味を持つ。それは調和が、①組織の変革を引き起こすということと、②人の学習能力を高めるということだ。

 「新規開拓は製品の差別化要因づくりに寄与する顧客やテーマに特化し、営業と開発がチームを組んで顧客開拓を行う」というのは、組織の新しい行動原則を作りだしたことを意味する。これは、まさに組織の変革だ。

 異なる人の主張がより高い次元で調和することは、より上位階層のプログラムを書き換えることに繋がるのである。上位階層のプログラムとは、組織における習慣やルール、あるいはビジネスモデルなどを含む。

 組織が変わるということの本質は、単に組織の形や機能が変わることではなく、組織内に形成されてきた常識(これまで当たり前と思われてきたこと)が見直されることだ。つまり、調和は未来に向けた組織の変化を生み出すのである。

 次に、調和による解決策を生み出した過程で、例の営業担当者と開発担当者は相互に影響し合っていたといえる。これは、いわゆる「共進化」(Co-evolution)に似ている。共進化とは、生物が相互に影響し合って進化することである。ハチドリのくちばしが長くなり、ランの花が深くなったのは相互に影響し合って進化したから、という例が有名だ。

 調和のプロセスにおいても、異なる主張を持った人々が、相互に影響しながら(影響力を発揮しながら)、自分を変化させていく。生物の学習とは、生存の可能性を高めるための知恵をつけていくことだが、それと同様に、企業における人の学習とは、組織と自分の成長の可能性を高めるために、自らを変えていくことであろう。

 「影響力」という言葉からは、自分の主張を一方的に周囲に及ぼす権力に似たイメージを想像しがちであるが、それは調和ではなく「強制」だ。そこに学習は存在しない。学習を生む影響力は、自分が変わることで他者が変わり、他者が変わることで自分が変わるというインタラクティブな関係の中に存在するのである。

 組織の中における人の学習とは、他者との相互変化があって、はじめて成立するものなのである。つまり、調和のプロセス自体が学習のプロセスといえる。

>>「3.調和のためには『目的』と『意味』を共有する」

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