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- 【コラム】多様性を活かす4次元思考 第3回:3次元で価値観を「共有」する
前回、一見すると対立するような価値観どうしであっても、2次元で表現することによって、調和の方向性が見出せることを述べました(ただし、両者が互いに尊重し合っていることが前提)。また、価値観を調和させることは、何らかの進歩や創造を生み出すことも例示しました。
組織内において、異なる価値観を有したメンバーどうしが互いの価値観を調和させ、進歩や創造を生み出すのはたいへん素晴らしいことです。しかし、それぞれの調和がランダムな化学反応のように起こったとすると、組織としての進歩の方向性をマネジメントするのがたいへん難しくなります。この「多様性の調和のベクトルをいかにして合わせるか」というのが、今回のテーマです。
組織の方向性を設定するのは、組織のリーダーの重要な役割です。その組織の方向性はリーダーの内面的な価値観に基づいて設定されなければなりません。
価値観とは、人が取るべき行動を選択する際の判断基準です。データに基づき正解を導き出せる問題であれば、論理的に判断することが可能です。しかし、ビジネスにおける選択の大部分には正解がありません。特に、人の意識が関連する判断は、人の価値観によって左右されます。
組織を取り巻く環境は常に変化します。その際、リーダーが判断基準を「外の軸」に置いてしまうと、判断基準自体がその時ごとに違ってしまいます。つまり、リーダーの軸がぶれてしまいます。そのため、リーダーは「内の軸」をしっかりと持ち、環境変化の中で組織の方向性を示さなければなりません。
組織のメンバーの多様な価値観を方向付ける一つの方法は、リーダーが自分の価値観と個々のメンバーの価値観との調和を図る努力を行うことです。しかし、この方法は、組織メンバーがごく少数であれば機能しますが、ある程度の数以上になると現実的な方法ではなくなります。それは、その作業が物理的に難しくなるということ以上に、調和した価値観どうしが対立を引き起こし、リーダーが葛藤状態になってしまうからです(つまり、誰に対しても良い顔をすることができなくなる)。
したがって、リーダーは別の手法を用いなければなりません。それが、「共有価値観」を作るという方法です。3次元思考では、組織の上位価値観として、立体的に共有価値観を作りだすことを考えます(図3)。
共有価値観とは、文字通り組織のメンバーによって共有されるべき価値観です。価値観は行動選択の基準であるため、共有価値観は組織の「行動規範」となるものです。それはつまり、組織メンバーが何を行い、何を行わないかを示す基準となります。
共有価値観は2つの要件を満たしていなければなりません。第1に、それはリーダーの価値観を反映したものであること、第2に組織のメンバーによって支持されるものであることです。共有価値観がリーダーの価値観の一方的な押し付けでは、共有価値観とはなり得ません。
共有価値観がメンバーに支持されるためにも、2つの要件が必要です。第1にそれは、「良い価値観」でなければなりません。良い価値観とは、人が普遍的に良いとみなす価値観です。たとえば極端な例ですが、「私たちは自分たちの利益を優先します」といった利己的な価値観は、共有価値観になり得ません。
第2に、共有価値観に対して、組織のメンバーがオーナーシップ(所有意識)を持てることが必要です。そのために、共有価値観を作る作業はメンバーの参加のもと、メンバー主体で実施し、リーダーの価値観をそこに反映していくといったアプローチが求められます。
ひとたび、共有価値観が設定されたら、それは厳格に運用されなければなりません。さもなければ、ただのきれい事で終わってしまうからです。共有価値観に反する行動は、たとえ目の前の利益に繋がっても、けっして評価されないといった厳しさが必要です。
組織内において、共有価値観が確立されることによって、組織のメンバーは自分の価値観と共有価値観とを調和させる方法を模索し始めます。それによって、メンバーの一人ひとりが共有価値観の示す方向に従って、自律的に価値を生み出そうとする組織が作りだされます。3次元思考は、このような自律的組織を作る思考法なのです。
(つづく)