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「リーダーシップでないもの」を共有する

[2009.02.04] 松丘 啓司  プロフィール

今日の企業において、リーダーシップが強く求められているということに異論を持つ人はほとんどいないでしょう。環境変化の中で組織の未来を指し示し、メンバーの力を引き出しながら、新たな価値を生み出していくリーダーの役割が重要であることは、当たり前すぎて、今更、議論するまでもないことです。けれども、その当たり前のことが容易には実行できないところに、リーダーシップ開発の難しさがあります。

リーダーシップは理解されているか
プレーヤーとして優秀な人がリーダーシップを発揮できないケースも少なくありません。その原因はさまざま考えられます。教育が十分に行われていない、人事制度がリーダーシップ行動をあまり評価しない、組織風土がリーダーシップの発揮を阻害している、といった要因が絡み合っていることもあるでしょう。また、リーダーシップを発揮することは、もともと言うに易く行うに難いことであるというのも事実だと思います。

しかし、さまざまな企業の人事部門の方々からミドルマネジメントに関する諸問題を聞けば聞くほど、もしかすると、「リーダーシップとは何か」という定義が、本人たちに理解されていないのではないかと思わざるを得なくなります。理解されていないものが、実行されないのは納得がいきます。また、過去の体験に基づく「我流」のリーダーシップ理解がなされているために、本人はリーダーシップを発揮しているつもりでも、周りにはとてもそう思えないケースも少なくないでしょう。

「リーダーシップとは何か」についての認識を組織内で共有しようとすると、冒頭で書いたような当たり前の話になってしまい、何を今更と聞き流されてしまいます。また、もっと具体的に伝えようとしてリーダーシップ行動を細分化して定義しても、抽象的な表現にならざるを得ないため、うまく伝えるためには工夫が必要です。

本稿では、「リーダーシップとは何か」についての理解を得るための簡単で、かつ効果的な方法を紹介します。それは逆に、「リーダーシップとは何でないか」を伝えることです。以下では、リーダーシップでないものについて幾つか例示します。

信頼がなければリーダーシップはない

「成果目標が高いという事情もありますが、当社の管理者は部下に厳しく当たりすぎるので困っています。行き過ぎるとパワハラにもなりかねないと心配です」

企業の人事部門の方から、このような問題意識を聞かされることが少なくありません。目標達成へのプレッシャーが強いということは理解できますが、管理者としての指揮命令権限を行使して、メンバーを疲弊させている状態は、けっしてリーダーシップを発揮している状態とはいえません。

リーダーシップは役職ポストに付属するものではありません。これまで、リーダーシップを発揮していなかった人が、ある日、役職ポストについた瞬間にリーダーシップを発揮するということはありません。にもかかわらず、管理者としての権限を行使することが、リーダーシップを発揮することであるかのような誤解が少なからず存在します。

しばしば語られるように、リーダーシップは信頼関係です。メンバーに信頼されてはじめて、リーダーシップが存在します。信頼してつき従うメンバーが誰一人いなければ、本人がどれだけ自分はリーダーであると言い張ったところで、リーダーシップは存在しません。リーダーシップがあるかないかを決めるのは、メンバー以外にありません。

権限は組織的には役職ポストに付属していますが、その行使はメンバーから信頼されることと引き換えに可能になるということが認識されなければなりません。信頼なき権力行使は、信頼関係の構築を一層、難しくするため、まったくの逆効果であることが理解される必要があります。

自分の軸がなければリーダーシップはない

「うちの会社のトップは、ビジョンが現場に伝わらないと嘆いています。ミドルがミドルの役割を果たしていないといつも不満を言っています」

こういった問題もときどき耳にします。トップであれ、ミドルであれ、組織をリードする人は、組織の未来を示さなければなりません。未来を示さないリーダーに、メンバーは将来を託せないからです。そのようなリーダーはもちろん、メンバーから信頼されません。

しかし、トップのビジョンをただ現場に伝えるだけであれば、ミドルマネジメントは必要ありません。それだけであれば、伝言係がいれば十分です。リーダーはトップから示されたビジョンに対して、自分自身の思いを込め、自分の言葉でメンバーに伝えなければなりません。

ビジョンであれ、権限であれ、与えられるものにただ従っている人は、「他律的」です。他律とは自分以外の外の何かに依存して行動することです。変化の激しい時代において、外の基準に依存する人は、変化に対して受け身になります。外の世界はコントロールできないからです。そうなると、変化の結果を受け入れざるを得ず、みずから変化を起こすことができません。変化を起こせないということは未来を切り開けないということです。

変化を起こす側に立つために、リーダーは自分自身の価値観や信念に立脚した「自分の軸」を持っていなければなりません。リーダーが自分の軸をしっかりと持っていれば、変化が表れたときに、自分や組織をどのように適応させればよいかを見定めることが可能になります。自分自身の選択によって、どのような未来が生まれてくるかが見えるようになります。また、自分の軸に従って行動することによって、リーダーは自分の仕事に熱意を持つことができます。

リーダーがぶれない軸を持っているか。リーダーに未来は見えているか。リーダーの語っているビジョンには熱意がこもっているか。本物か、偽物かをメンバーは、直観的に見抜きます。したがって、未来を指し示さなければリーダーシップは存在せず、未来はリーダー自身の「内の軸」からのみ生まれるということが、よく理解されなければなりません。

尊重しなければリーダーシップはない

「うちの部下はまるでだめだ。もっとよい人材が集まれば、うまくいくのに」

管理職の立場にある人から、このような発言を聞くこともあります。このような発言をする人は、「自分にはリーダーシップがありません」と白状しているようなものだということに気づいていません。

完全に自立し、成熟したメンバーばかりが集まった組織などあり得ません。もし万が一、そのような組織であったとすると、リーダーシップはほとんど必要ありません。メンバーの自立と成長を支援するために、リーダーシップが必要なのであって、それを放棄するということはリーダーシップを放棄していることだと認識されなければなりません。

これからの企業に求められる人材はどういう人材かという問いに対して、「ただ言われたことを素直にやってくれる人材」と答える人はごくわずかでしょう。大部分の人は、以下のような回答をするに違いありません。

・変化への対応力の高い人材
・自律的に課題をみつけられる人材
・その人にしかない付加価値を生み出せる人材

このような人材を育てるには、人を型にはめるのではなく、一人ひとりの価値観に基づく「違い」が発揮され、伸ばされなければなりません。そのために、リーダーはメンバーごとに異なる価値観を理解し、受け容れなければなりません。つまり、個々人の価値観を「尊重」したうえで、その違いを発揮する手助けをしなければならないのです。

価値観は人が何かを選択する際の基準です。価値観が異なれば、目的が同じでもそこに至る行動が異なります。行動が異なれば、仕事の結果は違ってきます。代替のきかない、その人にしかできない仕事は、個々人の価値観に起因するものなのです。

管理者の価値観を一方的に押し付けるようなやり方は、個々人の価値観を否定することを意味するため、求められる人材を育てるうえでは、まったく逆効果になることが認識されなければなりません。そのため、メンバーがどのような未熟な状態にあったとしても、全面的に「尊重」することがリーダーシップを発揮するための前提であることが理解されなければならないのです。

リーダーだけの問題ではない

「リーダーシップでないもの」を組織で共有することによって、少なからぬ軋轢が生じる可能性があります。「そのような考え方で業績があがるのか」というミドルからの反発もあるでしょう。また、我が意を得たメンバーからの上司の突き上げもあるかもしれません。

メンバーの一人ひとりが、それぞれの価値観に基づいて仕事をするということは、行動の自由が与えられるということです。ビジネスの世界における自由には、常に「自己責任」を伴います。自己責任とは、言い方を換えれば、自分の仕事に対する「コミットメント」です。リーダーが信頼関係を重視したり、メンバーを尊重したりすることは、けっして甘やかすことではなく、逆にメンバーのコミットメントを強く求めることを意味するのです。

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