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- 【コラム】多様性を活かす4次元思考 第2回:2次元で「尊重」し、「調和」する
前回、価値観の違いは1次元の直線上の異なる地点に存在すると書きました。また、1次元で考えている限り、どこまで行ってもそれぞれの違いは交わることがないことも述べました。違いが交わらなければ、価値観の違いから進歩や創造を引き起こすというダイバーシティマネジメントの本来のねらいは実現しません。
したがって、多様性を活かすためには、異なる価値観の交わりを意識的に創り出すことが必要です。そのためには、1次元の発想から脱却し、2次元で考えることが効果的です。では、具体的にどうすればよいのでしょうか。今回は「2次元思考」について解説します。
価値観の尊重
たとえば、前回、用いた男性的価値観と女性的価値観を例にとります。Aさんは「ルールに厳格」であるべきという価値観を持っています。Bさんは「柔軟な対応」をとることをよしとする価値観としています。これら2つの価値観を1次元の直線上にプロットするのではなく、2次元のマトリクスの縦軸、横軸にそれぞれ表現すると図2-1のようになります。
2次元で表現することによって、異なる価値観に交わりができます。それがマトリクスの右上の象限です。ここは価値観の「調和」された状態を表しています。
価値観の調和を生み出すためには、AさんとBさんの双方が前向きに調和を模索する姿勢を持たなければなりません。互いにそれぞれの価値観を主張するだけでは、前回、述べたように葛藤が起こってしまい、調和には至りません。価値観を一方的に主張し、押し通そうとすることは、相手の価値観を無視したり、否定したりすることと同義です。自分の価値観を無視されたり、否定されたりした人は、他者と調和しようという気持ちにはなれないでしょう。
前向きに調和を模索する姿勢を持つということは、相手の価値観を「尊重」することを意味します。価値観を尊重するということは、相手の価値観を否定するのではなく受け入れるということです。これは、図2-1で示すように、AさんとBさんがそれぞれ、相手の価値観の視点に立つことです。
2人がそれぞれ相手の価値観の視点に立てば、必然的に2人の意識は右上の象限に向かいます。つまり、価値観の「調和」を生み出すためには、相手の価値観を「尊重」することが前提となるのです。参考までに、シナジーに関して、アブラハム・マズローの言葉を引用しておきます。
「シナジーには、他人を幸福にすることを楽しむという側面がある。ほんもののシナジーらしいものがあれば、わがままをとおしながらも他の人びとを幸せにし、そのことを自分も楽しむことができる」(『完全なる経営』日本経済新聞出版社)
価値観の尊重は、単に人道主義的に必要なことではなく、これからの組織の進歩やビジネスの創造のために欠くことのできない原則なのです。
価値観の調和
価値観が尊重される風土のもとでは、それぞれの価値観の利点を活かした、より高次元の発想や行動を生み出そうとする「建設的な対話」が可能になります。たとえば、Aさんの「ルールに厳格」という価値観は、組織方針の実行確度を高める利点を持っています。また、Bさんの「柔軟な対応」という価値観は、相手の状況に臨機応変に応えられるという利点を持っています。どちらも重要なことであるため、建設的な対話によって、双方の利点を活かした解決策が見出されるべきです。
図2-2に建設的な対話によって得られる調和の例を掲げています。たとえば、コールセンターのオペレーターが顧客に話す内容のスクリプトが一律的にルール化されている状況を想定しましょう。ルールを設定したのが管理者のAさんで、オペレーターがBさんだとします。電話をしてくる顧客はさまざまなニーズを持っているため、Bさんは顧客の状況に応じて柔軟に対応したいと感じるものの、ルールを守らなければならないというジレンマを抱えています。
2人が建設的な対話を行うことができれば、「顧客のタイプに応じて複数のスクリプトを用意する」、あるいは「会話の要所はスクリプトに従わなければならないが、それ以外はオペレーターのスキルレベルに応じて対応方法を任せる」といった、いわば状況対応型のルールを作るという結論に至ることができます。単純な例ですが、価値観を調和した結果、組織の方針は徹底されつつ、より良い顧客サービスが実現されるという「進歩」が生まれることを示しています(つづく)。