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キャリアのパラダイム変化を組織に浸透させる

[2008.12.03] 松丘 啓司  プロフィール

企業で働く人々のキャリアパラダイム(キャリア開発の概念)が変化している。実質的にはバブル経済が始まった20年前から変化は起こっている。しかし、その変化は企業内において、あまり実感されてこなかった。なぜなら、企業内のマジョリティが、かつてのキャリアパラダイムのもとで育ってきたからだ。企業内におけるキャリアパラダイムは見直されなければならない。さもなければ、新たな変化に対応できる組織の開発が難しいからである。

かつてのキャリアパラダイム
何十年もの歴史を持った典型的な大企業の年齢別の人員ピラミッドを描いてみる。個社ごとの特殊な要因がない限り、業種に関係なくほとんどの企業において40歳あたりを境に、それより前は正ピラミッド(年齢が下がるほど人数が多い)、それより後は逆ピラミッド(年齢が下がるほど人数が少ない)を描く。それはなぜか。単にバブル期以前は景気がよく、それ以後は景気が悪化したからという理由ではない。バブル期を境として、日本企業の根本的な経営モデルが大きく変化したからだ。

バブル期以前の経営モデルは、いわゆる産業資本主義型のモデルである。国内人口の増加を背景に、製造業を中心として供給の量を増やし、質を高めることが、拡大する市場の重要に応えることになるという好循環が存在した。このモデルにおける人材育成のポイントは、社内業務に熟練した人材を、長い時間をかけて育てることにある。したがって、この時代の企業内のキャリア開発には、以下のような特徴があった。

●キャリア目標は会社が提供するものであった。会社は役職ポストの階段を示し、社員は与えられた目標に向けて一歩ずつ努力する。会社から与えられるという意味で、キャリア開発は「他律」であった。

●キャリアの見通しがきいたため、社員にとっては長期展望をもつことができた。何を学び、どうなればキャリアが開けるかがわかりやすかったため、キャリアデザインはさほど困難なものではなかった。

キャリアパラダイムの混乱
90年代に入って産業資本主義型の経営モデルは、その依って立つ前提を失ったといえる。90年代半ばには、生産年齢人口(15歳から64歳の人口)はマイナス成長に転換した。グローバル経済が進展し、高固定費の日本型人事制度を維持することができなくなった。

それにもかかわらず、企業内におけるキャリアパラダイムが大きく変化してこなかったのは、かつてのキャリアパラダイムのもとで育ったバブル以前世代(正ピラミッドの世代)が、企業内人口の過半数で、かつ中枢を占めていたからであろう。時代の変化を感じつつも、新しいパラダイムを確信することはできなかったし、それは現在においても十分に確信されているとはいえない。

その一方で、若い人々のキャリアに対する考え方をかく乱する要因も増加している。バブル以前世代の選択肢にはなかった外資系企業やベンチャー企業での成功者がマスコミでもてはやされる。転職市場も拡大し、キャリアという言葉で煽り立てる。かつてのような長期展望を持てなくなった状況で、これらの情報が氾濫することによって、若い人々のキャリア開発への不安感は高まっている。

意識変革の好機
企業は社員のキャリアに対する意識変革に取り組まなければならない。かつてのような他律的な考え方では、企業を取り巻く変化に対応できないことはいうまでもない。たとえ将来が不透明であったとしても、自律的に課題を見つけ出し、みずからの意欲を高めて、組織の未来を切り開いていけるような人材を企業は求めているはずである。

20年を経て、企業内におけるバブル以降世代(逆ピラミッド世代)は約半数を占めるに至った。この世代はもはやマイノリティではなく、その比率はこれから年々、増えていく。企業はこの好機を活かして、キャリアのパラダイム変化を組織に浸透させるべきである。具体的には、以下のような価値観を、(特に逆ピラミッド世代に対して)明確に示すことが必要であろう。

・市場価値は結果である。
自分の市場価値を高めることをキャリアの目的としてはならない。市場価値を目的とすると、どこまでも「もっと市場価値を高められる仕事があるのではないか」と青い鳥を追い求めてしまう。市場価値を目的としている限り、いつまで経っても市場価値は高まらない。市場価値は自分自身が成長した結果、得られるものだからである。そのため、キャリア開発で重視すべきものは、自身の成長である。

・キャリアを作るのは自分自身である。
成長できないことを、「会社が魅力的なキャリアパスを示してくれないから」と会社の責任にしてはいけない。今日、5年後、10年後のキャリアを保障できる会社は存在しない。キャリアは今の仕事の結果、拓けてくるものである。仕事のプロセスや成果が顧客や周囲に認められることによって、より重要な仕事を任される機会が生まれる。キャリアはその結果として、形成されていくものである。

・内なる軸を重視する。
「自分ならでは」のものを作らなければ自律的キャリア形成はできない。ただ、会社の期待に応え、役職ポストを目指すだけでは、「他律」である。他律的なキャリア形成では、変化に対して受け身になってしまう。自分自身の内なる動機や価値観を表現してこそ、他の人にはない「自分ならでは」の存在価値ができる。それは自分発であるがゆえに、受け身ではない。

・転職のハンディキャップを理解する。
転職するということは、これまで培った社内の暗黙知や人脈を失うことである。新たな環境で自分自身の成長を目指すことは、試練によって鍛えられるという効果はあるかもしれないが、成長のスピードを落とすというリスクがあることを認識しなければならない。多くの場合、自社内にほど、成長機会はある。ただし、自社の風土が自分の内なる軸を表現することを拒絶しないことが前提である。

これからの人材戦略
このようなキャリアに対する意識変革を行うための代表的な方法は、多くの企業が取り入れている年齢別の節目研修であろう。社員に立ち止まって自分自身を考える時間と手助けを提供するという福利厚生的な意味合いで節目研修を開催している企業も少なくないが、それだけではなく、企業は節目研修を積極的な意識変革の場として有効活用すべきである。

その際、どのようなメッセージを社員に伝えるかは、企業の人材戦略に依存する。これから求められる人材戦略は、かつてのように5年後、10年後の人材ポートフォリオを描くことではない。不透明な将来においても、非連続的な変化に対応できる人材をどうやって輩出するかが重要である。そのために、企業は新たなキャリアパラダイムに対する明確な考えを確立する必要がある。

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