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新人・若手向けメンター制度の効果を生み出すために

[2008.11.07] 松丘 啓司  プロフィール

メンター制度はなぜ形骸化するのか
ここ数年、新人をメンティ対象としたメンター制度を導入する企業が増えている。入社前のイメージと仕事の現実の差がもたらす否定的な心理状態(いわゆるリアリティショック)から抜け出せず、結果的に離職に至るといった事態を防ぐための解決策として、メンター制度を導入する企業も少なくない。

職場でのコミュニケーション不足はさまざまな企業が抱える問題であるため、メンター制度という人工的な仕組みを通じて、先輩・後輩間のコミュニケーション機会が増えるのであれば、それだけでも意味のあることである。しかし、メンター・メンティ間の関係は、そもそも「仕事の場面では比較的稀にしか生まれないもの」(キャシー・クラム)であるがゆえに、制度として意図的に作り出されざるを得ないという原点から逆説的に考えると、メンター制度を組織に根づかせるのは容易なことではない。

筆者自身、長く外資系企業に身を置く中で、90年代のはじめ頃から何度もメンター制度の導入と形骸化の繰り返しを経験した。メンター制度はそれなくして会社が運営できないものではないために、なくなるときはいつの間にか自然消滅していく。メンター制度が形骸化を起こすことの要因として、3つの問題が考えられる。すなわち、(1)時間軸の問題、(2)目的の問題、(3)教育の問題である。

数年がかりでメンタリングチェーンを構築する
メンター制度の結果を急ぎすぎてはいけない。メンター制度が真の効果を生み出すには、ある程度の年月を要することを覚悟する必要がある。

メンター制度の真の効果は、メンタリングを受けて成長したメンティ自身がメンターになることによって発揮されてくる。そのようなメンターは、メンタリングの恩恵や意義を実感しているため、主体性を持ってメンタリングに取り組むことができるからである。そのような自発性が生まれることによってメンター制度は持続する。

このような機能するメンタリングチェーンを構築するためには、新人のメンターとして、できれば2~3年上の先輩を当てる設計にするのが望ましい。より年上のメンターを設定することにも別の意義はあるが、できるだけ短期間でメンタリングチェーンを構築するには少し年上の先輩の方がよい。また、そのことによる若手メンターの育成効果も期待しうる。

メンター・メンティ双方のキャリア形成を目的とする
メンター制度の目的が曖昧なまま導入されたために、メンタリングの場がメンティからメンターへの悩み相談に終始してしまったり、あるいは逆にメンターからメンティに対する一方的な説教の場になってしまったりする事例も少なくない。そうなると、メンター・メンティの双方がメンタリングから学ぶ機会が狭められ、結局、メンター制度は持続しなくなってしまう。

メンター制度の本来的なねらいは、メンター・メンティ双方のキャリア形成(仕事を通じた自己の成長)を促進することにある。そのためには、メンターとメンティがそれぞれの年代におけるキャリア課題を認識していなければならない。そのうえで、メンターはメンティのキャリア形成を能動的・受動的に支援するとともに、メンターとメンティの双方がメンタリングを通じて、みずからのキャリア形成について学ぼうとする積極的意識をもつことが重要である。

新人期における最重要のキャリア課題は「仕事の法則」を実体験することだ。新人には、与えられた仕事をこなしながら学んでいくことが求められる。その際に、周囲からの期待に応え、さらにその期待を超え、それによって信頼を得ていくことで、次第に重要な仕事を任せられ、仕事の幅が広がっていくという法則(振り返ればキャリアがついてくること)を実感することが重要である。メンティは壁に突き当たっても、それを乗り越えるためにメンターを活用するという意識を持つ必要がある。

一方、入社3、4年の若手にとっての重要なキャリア課題は、仕事において自分らしさを発揮していくことである。単に与えられた仕事を期待以上にこなすだけではなく、その人ならではの持ち味や強みを加えることによって、周囲に影響を及ぼし、頭角を現していく時期である。この年代の若手が新人のメンターになることによって、自分のこれまでを振り返ると同時に、自分が現在、置かれた組織の環境について考える豊富な機会を得ることが可能になる。それは若手メンターが自分自身のキャリア形成について考える有意義な機会となる。

教育プログラムを組み込む
メンター制度を導入し、あとはメンターとメンティの自主性に任せるだけでは、十分な効果は担保されない。特に新人・若手社員の場合、仕事に対するスタンスや対人関係構築の能力が十分に備わっていないことが通常であるため、事前の教育なしに効果的なメンタリングを行うことは容易ではない。そのため、メンター・メンティの双方に対して、メンタリングに必要とされる知識・スキル・意識を高めるための事前教育をしっかりと行うことが必須といえる。
具体的には、以下のような内容のトレーニングセッションをメンター制度に組み込むことが重要である。
・対メンター・メンティ双方:メンタリングの目的・意義に対する基本的理解、メンター・メンティ間の相互理解の促進など
・対メンター:メンターの役割理解、メンティに対するキャリア支援方法、メンティの心のプロセスを理解した接し方など
・対メンティ:新人期におけるキャリア形成のあり方、壁を越えるための心の能力の高め方など

教育プログラムを組み込むことによって、メンター・メンティ双方がメンタリングに対して積極的な意義を見出し、その機会をより効果的に活かすことができるようになる。また、新人・若手に対する教育制度とメンター制度をリンクすることによって、メンター制度の位置づけが強化され、持続性が高まるという効果も期待できる。それによって、メンター制度を従来のOJTやOff-JTでは得られない、ダイナミックな育成の場にすることが可能となるのである。

(「人材教育」2008年11月号掲載の筆者論文に加筆・修正を加えた)

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