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- 【コラム】マネジメント力向上の好機を逃してはならない
企業の中でマネジャーが問題視されている。毎週、何社もの人事部門の方々とお話する機会があるが、マネジャーの問題についての話題が出てこない会社のほうがまれである。
マネジャーが育たない悪循環
ある会社では、ミドルがコミュニケーションを阻害していると経営トップが憤慨しているという。経営理念が現場まで伝わらないのは、マネジャーに原因があると考えているらしい。別の会社では、若手に対してキャリア開発研修を実施し、受講者からたいへん役立ったという声とともに、マネジャーにも同様の研修を受けてもらいたいという意見が多数、あげられたという。マネジャーこそ変わるべきだと部下たちは思っている。上からも、下からもマネジャーは問題視されている。
なぜ、マネジャーは問題を抱えてしまったのか。それはマネジャー自身の責任というよりも構造的な環境に起因している。
マネジャーは部下に仕事を任せられなくなっている。組織が拡大を続けた時代には権限委譲も機能したが、近年ではそもそも部下の人数自体が少なくなっている。部下を持たないマネジャーも多数、存在する。また、期待される成果のレベルが高く、難しくなっている。そのため、目標を達成するためにはマネジャー自身が動かざるを得ない。こうして、マネジャーはますます仕事を抱え込む。マネジャーが仕事を抱え込めば、部下に対するOJTが不足する。OJTができなければ、いつまで経っても部下に仕事を任せられない。つまり、問題が問題を生む悪循環に陥っているのである。
マネジャー養成は若手育成から始まる
OJTに期待することができなければ、それを研修で補うしかない。しかし、マネジャーの問題を解決するために、マネジャーを教育すればことが済むかといえば、そう簡単にはいかない。仮にマネジャーを十分に教育できたとしても、OJTが機能していなければ、マネジャーは部下をOJTによって教育できないため、次のマネジャーが育たないからである。
言うまでもなく、マネジャーは一朝一夕には育たない。若手からチームリーダー、チームリーダーからマネジャーへと経験を積み、学習を重ねることでマネジャーは育っていく。したがって、マネジャー養成のプログラムはマネジャーだけを対象とするものではなく、ビジネスの基礎能力レベルから体系的に積み上げられるべきものなのである。マネジャーだからマネジメント力(マネジャーに求められる能力)が必要なのではなく、マネジメント力を身につけた人がマネジャーになりうるのである。
マネジメント教育は複線型人事制度の前提条件
マネジメント職コースと専門職コースを分ける複線型の人事制度が普及しているが、コース決定に際しては十分な注意が必要である。組織運営が得意だからマネジメント職、専門能力が高いから専門職と安易に決めつけてはならない。
マネジャーは組織運営能力と実務遂行能力の双方を兼ね備えていなければならない。ここでいう組織運営能力とは、部下を育て動機づけようとするマインドを持ち、そのための適切な行動が取れる能力を意味している。一方、実務遂行能力とは、みずから戦略を立案し、プレーヤーとして実行できる能力を意味している。
組織運営能力は、資質によるところも少なくない。もともと対人コミュニケーションに優れた人は、組織運営に向いている。もしも、確立された事業を安定的に運営することがマネジャーの役割であるならば、組織運営能力に長けた人がマネジャーになることは理にかなっている。しかし、新たな市場を開発したり、新たな事業を生み出したりすることを、マネジャーの役割として求められるならば、組織運営能力だけでは不十分であることはいうまでもない。
一方で、実務遂行能力に長けた人は、仕事を抱え込みがちである。このような人には難度の高い仕事が集中し、部下の育成に割く時間がない。その結果、プレーヤーとしては優秀だが、人のマネジメントはからっきしだめと評価されてしまうことも少なくない。このような人は専門職コースの人材とみなされる可能性があるが、そのような制度運営を行っていては、いつまで経っても、組織運営能力と実務遂行能力の双方に長けたマネジャーは生まれない。
つまり、複線型人事制度を成功させるためには、十分なマネジメント教育がなされていることが前提条件となるのである。
20年ぶりの好機が到来している
なぜ、今がマネジメント力向上の好機かというと、新卒をはじめとする若手の採用人数が増加しているからだ。20年ぶりに部下の人数が増えるトレンドにある。この絶好の機会に、若手からマネジャーまでの能力開発を集中的に実施することによって、マネジャーが部下に仕事を任せられる下地を作ることができる。それによって、構造的な悪循環から脱却し、現場でのOJTを復活させうる可能性がある。この絶好の機会を逃してはならない。