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「キャリア自立力」と「マネジメント力」は両輪である

[2008.01.01] 松丘 啓司  プロフィール

日本企業には「染物屋経営」から「個を活かす経営」への転換が求められている。
染物屋経営とは、既存事業の運営に必要な人材を新卒一括で採用し、長い年月をかけて育成していく(会社色に染めていく)という、これまでの日本型人材育成のシステムを指す。このシステムは現在、2つの意味で大きな問題を抱えている。

第1に、システムの前提条件自体が変わってしまっている。かつて、20年、30年という長い期間、社員のモチベーションを維持することに貢献した、終身雇用・年功序列の人事制度に基づいたキャリアの保障は、いまや失われている。また、右肩上がりの経済成長期における組織の拡大再生産によって機能した、現場におけるOJTが困難になってきている。特にプレイングマネジャー化などによって、マネジメント経験の不足したマネジャーが増大している。それらの結果として、若手層の疲弊や社内コミュニケーション不全といった問題が、実に多くの企業で顕在化している。つまり、システム自体が、いわば制度疲労を起こしているのである。

日本型人材育成システムが抱える第2の問題は、そもそも既存事業の運営に必要な人材の育成だけでは企業の成長が望めないことだ。国内経済は既に成熟段階に入って長い。今後の人口減少はさらにマイナスのインパクトを与え続ける。中国やインドなどの急成長は、日本の存在感を相対的に低下させる。このような状況で必要なのは、既存事業をうまく運営できる人材よりも、新たな価値を創造できる人材である。そのような人材は、既存の組織に必要な人材を育成するという発想からは生まれてこない。

したがって、今後、求められるのは、個々人の有する潜在力(ポテンシャル)をいかに活かすかという観点での人材育成である。そのために、個人は自分自身の潜在力を理解し、主体的にキャリア形成を図る自立力を高めなければならない。また、自立した個人を活かすために、マネジャーは多様な人材の成長と活躍を促進するためのマネジメント力を持たなければならない。しかし、これらはどちらも、これまでの人材育成において十分にカバーされてこなかった領域である。

過去の企業はキャリアコースをある程度の確度で保障することができた。それによって個人は、自分自身の将来をイメージできた。何を学習し、何を経験すればよいかも容易に理解できた。しかし、上述のように企業がキャリアを保障できなくなった以上、個人が会社生活におけるキャリアオプションをみずから発見し、キャリアイメージを描けるようになることを、企業が支援しなければならない。これは、キャリア自立の支援といえる。そのような支援を行うと退職者が増加するのではないかと危惧する人も少なくないが、実際はむしろ逆である。キャリア自立の遅れた企業、すなわち多くの人が会社に依存した状態では、自立した優秀な人材から辞めていく。

また、かつての日本企業のマネジャーに求められた能力は、役職ポストの権限をいかに前任者よりもうまく使いこなすかというものであった。つまり、過去においては、自立した個人を活かすという意味でのマネジメントはあまり必要でなかったといえる。自立した個人は、権限行使によって思ったようには動かない。部下視点に立って、部下の成長と意欲向上を促そうとするマネジメントマインドと、人材マネジメントの当たり前の行動が伴わなければ、自立した個人を束ね、活かすことはできないのである。しかし、マネジャーがマネジメントの基本を学ぶ機会が、非常に不足しているのが現実であろう。

キャリア自立力とマネジメント力がなければ、現在の問題も解決しなければ、将来の成長も期待できない。これら2つの力の開発は今後の人材育成における、いわば両輪と考えられるべきものである。

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