経営・人事コラム

人事コラム バックナンバー

バブル世代が問いかける構造変革

[2007.02.01] 松丘 啓司  プロフィール

新たな組織モデル作りへのチャレンジ

1年前にここで「バブル世代の自立化を急げ」というコラムを書いた。今でもそのコラムには、多くの方々から継続的にアクセスをいただいている。また、ここのところ、さまざまなメディアにおいてもバブル世代論が取り上げられている。その多くが、バブル世代を面白おかしく揶揄するものである。たとえば、バブル入社組の世代が新卒採用時にいかに甘やかされて入社したかとか、会社の中で浮いた集団を形成しているとかいったような話だ。バブル世代には独特の世代特性があることには同感するが、本質的な問題は世代特性にあるのではなく、日本企業の構造的な課題がバブル世代問題に集約されていることにあると筆者は考えている。

1年が経ってバブル世代はより1歩、会社の要となるミドルマネジメントに近づいた。今後、数年間、バブル世代という大きな塊が、企業の中核に突入していく。一方、過去の10年間で、かつての日本型の組織モデルは大きく崩れている。役職ポストによってバブル世代という大きな塊を処遇することは、もはやどう考えても不可能である。同時に、企業の人材不足は続く。以前に言われた、団塊世代の次のリストラの標的はバブル世代という論調はすっかりと影を潜めている。つまり、企業はバブル世代に対して、過去の40歳代社員に適用してきたのとは異なる方法での活躍を促さなければならない。しかし、明快な解決策はまだ見出せていないし、それを確立するのは容易ではない。なぜなら、これはバブル世代対策という局所的な問題ではないからだ。この問題は、新たな組織モデル作りに向けての日本企業のチャレンジであると筆者は考えている。

組織ありきのマネジメントの限界

バブル世代が社会に出た1990年前後、大企業は既に大企業であった。事業モデルも確立し、日本社会の中での確固たる地位を築いている存在であった。新入社員は確立された会社に入るという意識を持っていたし、企業側もできあがった組織に新人を受け入れるという感覚を有していた。つまり、組織ありきの発想である。組織ありきのマネジメントは単純にいうと、役職ポストに役割と権限が付与され、そのポストについた人が与えられた役割と権限を行使するというものだ。人材育成は、その役割と権限を行使できる能力や経験を蓄積させるために行われるものであった。昇進や評価も役職ポストにくっついた物差しに基づいて測られる。個人の持つ特性は勘案されないわけではないが、あくまでも組織の尺度が先に立つ。

しかし、組織ありきのマネジメントは機能しなくなってきている。それは、言うまでもなく役職ポスト自体の数が減ってしまったからだ。たとえ、バブル世代の大きな塊がミドル層に突入するからといって、もはや役職ポストを増やすことはできない。それでは、グローバル経済の中での競争に対応できなくなる。組織ありきのマネジメントは、組織のピラミッド構造と年功序列の人事体系がセットになってこそ機能した。その両者が既に大きく変容してしまったことは論を待たないが、本格的な大波にさらされるのはこれからである。それが、バブル世代のミドル層突入だ。
個を活かす経営組織モデルへの転換

企業が組織ありきのマネジメントを維持できないとすると、個人ありきのマネジメントに転換するしかない。つまり、組織に応じた人材を作るのではなく、個々人の強みを最大限に発揮させる組織を作るという逆の発想である。しかし、組織の発祥はもともとそういうものであった。一人ひとりの持っている強みを重ね合わせることで、個々人ではなし得ない大きな事業を実現することに企業組織の存在意義がある。つまり、個々人の持ち味を活かすことが、組織本来の目的である。原点に立ち戻ることが求められているといってよい。

しかしながら、これにはコンセプトレベルからの転換が必要になる。まず、第1に人事の仕組みが組織ありきのマネジメントから脱皮できていない。ほとんどの人事部門は役職ポストの尺度から離れて社員個々人の強みを把握できているとは言いがたいし、ましてや個人のモチベーションの源泉となる価値観までは認識していない。つまり、役職ポストを与えるのではなく、どの仕事をどのような働き方で提供すれば、個々人のパフォーマンスが最大化するかを説明できる状態にはないし、それができるための方法論作りもこれからの課題である。

第2に経営リーダー層の意識が組織ありきのままである。組織のピラミッドを勝ち上がってきた成功体験が、意識変革を阻んでいる。多様性を活かすためのいわゆるダイバーシティマネジメントは、組織ありきの染物屋マネジメント(新人を会社色に染めていく経営)とは対極的なものである。そもそも個を活かすためのリーダーシップの発揮方法を学ぶ機会も、これまでほとんど存在しなかった。それはつまり、役職ポストの権限に頼ることなく、個人とチームのモチベーションを引き出すことのできるリーダーシップである。

第3に当のバブル世代の人々の意識も変わっていない。上司、先輩をロールモデルとし、組織に与えられるままのあり方を受け入れてきた結果、会社への依存心が依然として高い状態で維持されている。つまり、自立できているとは言いがたい。自立できていなければ、自分自身の強みや価値観を活かして自己実現していこうとする積極的な意志を持つことができない。仮に人事の仕組みや経営リーダーの意識やスタイルが変わったとしても、当の本人たちが変わらなければ効果がない。

これらの3つはいわば三位一体である。どれか1つを欠いても新たなモデルへの転換はうまくいかない。個を活かす経営組織モデルの構築は、バブル世代の問題がなくても不可欠なことである。日本企業に戦後の成長をもたらした経営組織モデルに代わる新しい安定的成長のメカニズムを作ることは、すべての大企業に共通の課題だ。バブル世代の問題はそれに正面から向き合うための好機である。

» 経営・人事コラムトップに戻る


お問い合わせ・資料請求
人材育成の課題
キャリア開発

キャリア開発

個人の働きがいと組織への貢献を両立するキャリア開発を支援します。

リーダーシップ・マネジメント開発

リーダーシップ・マネジメント開発

マネジャーに必要不可欠なリーダーシップとマネジメント力を養成します。

コミュニケーション開発

コミュニケーション開発

組織や仕事に変化を起こすコミュニケーション力を養成します。

組織開発

組織開発

ビジョンと価値観を共有し成果を高める組織創りを支援します。

営業力開発

営業力開発

お客さまと自社の双方に大きな価値をもたらすことのできる提案営業力、組織営業力を開発します。

経営力開発

経営力開発

ビジネスプランの立案に必要となる知識と実践的なスキルを養成します。

人事向けメルマガ登録

PAGE UP