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個人の「守り」が引き起こす不祥事 ~「個の自立」と「個を活かす経営」:その(2)~

[2006.12.22] 松丘 啓司  プロフィール

昨今、大企業において不祥事隠し問題が頻繁に発生しています。メディアの論説では、大企業病の症状であるとか、過度な利益追求の弊害であるとかいった原因が述べられていますが、筆者は「依存モデル」の人事システムのほころびにも大きな要因があるのではないか、と考えています。

不祥事を隠してしまう理由の根底には、個人の「守り」の意識があります。守りの意識には、自分自身に対する守り(保身)と同時に、自分の属する組織に対する守り(忠誠心)も存在しています。会社への依存度が高い人にとっては、会社あっての自分であるため、会社を守ることは自分自身のアイデンティティ(存在意義)を守ることでもあります。つまり、保身と忠誠心はいわばコインの裏表のような関係にあるといえます。

企業で働く人が、組織に対して帰属意識を持つこと自体はけっして悪いことではありませんが、社会のルールに反してまで守りを優先させるということは、みずからのアイデンティティを失うリスクに対する恐怖心の大きさを物語っているように感じられます。今日、「依存モデル」の人事システムが不完全なものになってしまったことによって、社会人人生の後半戦にいる人々にとっては、ますます会社への依存心を高めざるを得ないという逆説的な結果が生み出されてしまっています。途中で列車を降りるという選択肢が以前にも増して狭められたことが、知らず知らずのうちに終点までしがみつこうとする気持ちを強めてしまっているようです。

不祥事隠しへの対応として、「緩んだたがを締めなおす」というような企業側のコメントを目にしますが、これには過去の成功体験が脳裏にあるのでしょう。善意に解釈すれば、過去には問題があれば直ちに共有されるのは当たり前のことだったのかもしれません。しかし、過去と今日の大きな違いは、「依存モデル」の人事システムが十分に機能していたことによる、絶対的な安心感の有無です。そのような安心感を欠いた今日、緩んでいるから締めるといった信賞必罰的なニュアンスには、逆に守りの意識をさらに強めてしまう危険性を感じてしまいます。もはや過去に戻ることはできないため、新しいマネジメントのあり方が模索されなければならないのです。

企業は、問題が常にオープンにされる風土を作らなければなりません。そのためには、人材の同質化によって生産性を高めていくという、かつての人材マネジメントを改めなければなりません。同質的な集団では、個々人の価値観が均質化し、内部でのコンフリクトも起こりにくくなります。その結果、内部のルールが外部のルールに優先するといった事態が生じるリスクも高まってしまいます。

一方で、個々人の多様性を尊重する人材マネジメントのもとでは、異なる価値観を持つ人の間でのコンフリクトが発生しやすくなるため、組織的な隠蔽なども起こりにくくなります。「依存モデル」の人事システムは、社員の同質化を求めるものでしたが、新たな「自立モデル」の人事システムは、一人ひとりの違いを活かすことによって、組織力を高めようとするものといえます。不祥事隠しの問題は、「個を活かす経営」が求められていることの、現象面からの一つの証左であると思います。(つづく)

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