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創造的企業変革のための必須要件

[2006.04.01] 松丘 啓司  プロフィール

創造的企業変革のための処方箋

90年代の失われた10年を経て、日本企業は負の遺産を捨て去り、効率性を高めるという意味での変革能力を飛躍的に向上させた。その結果、今日の日本企業の利益は過去最高水準にまで達している。次の課題は何か。言うまでもなく、さらなる成長戦略を描くことである。それには、新たな需要を生み出すための、新たな価値創造能力が不可欠となる。新たな価値を生み出す源泉は「人材」に他ならないが、問題はいかに価値創造を効果的にマネジメントするかという点にある。これまでと同じ人材を、これまでと同じようにマネジメントしても、ブレークスルーが容易でないことは明らかである。つまり、日本企業(特に大企業)には、これまでとは違った意味での自己変革が求められているのである。それは、組織の創造性を飛躍的に高めるための企業変革であり、その際にダイバーシティ・マネジメントが重要な処方箋となる。

組織力による差別化

伝統的な日本の大企業は、ある意味でダイバーシティ・マネジメントの対極にあるともいえる人材戦略を採用し、成功を収めてきた。ダイバーシティ・マネジメントが個々人の強みを出発点とするのに対し、伝統的人材戦略では、まず「組織ありき」である。確立された組織に、社会人未経験の新卒社員を採用し、長い年数をかけて育て上げていくという仕組みだ。先輩社員からの伝承と現場での研鑽によって蓄積された、他社にはない独自の技術力が差別化の源泉となる。同期入社組みに、出世を競わせることによって、長期間のモチベーションを維持させる。会社としての一体感を生み出すカルチャーが形成される一方で、外界の変化への機敏な対応力を保持するために、継続的な「改善」を推奨し、自己変革のメカニズムを内在化することも怠らない。こうして、強い組織力が作りこまれてきた。歴史を持つ日本の勝ち組大企業の多くは、このような強い組織力を競争力の源泉にしてきたといってもよかろう。その強みは一朝一夕に獲得されないため、簡単には追随されない。しかし、強みの反面、問題も抱えている。

「染物経営」の限界

筆者は、このような組織力を強みとする経営を「染物経営」と呼んでいる。まったくの白地の新入社員を「会社色に染める」ことによって、他社にはない、会社独自の人材を作り出していくことが、人材マネジメントの根幹にあるからだ。では、染物経営の弱点とは何か?

1. 時間の問題
新卒社員を会社色に染めていくには、明らかに時間がかかる。また、毎年の同期入社組みがレンガ造りの家のように組み立てられているため、大きく変革するのも容易ではない。つまり、変化のスピードにも限界がある。

2. 偶発性の問題
社員が同じ色に染まりやすい。その結果、アウトプットが予定調和的に一定の枠内におさまりがちとなる。つまり、予想外の価値創造が起こりにくい。社外から経験者を採用する場合も、足りないスペックを埋めるという発想になりやすく、新たな化学反応を起こすために、異質な人材を投入するという視点を欠きがちとなる。また、異質人材を入れても、活用しきれないケースが少なくない。

3. 意識ギャップの問題
新卒をはじめとする若手の意識が大きく変ってきている。つまり、長い時間をかけて会社色に染められることを望まない。「自分らしさ」に対するこだわりを持ち、できるだけ早く人生の成果を挙げたいと考えるポテンシャルの高い若手人材にとっては、染物経営企業は自分が身を置く場ではないと映るだろう。つまり、染物経営のもとでは、Aクラスの人材の採用が難しくなっていく。

減少し続けるバブル以前世代

したがって、企業は(特に大企業であるほど)、異能人材を活用し、新たな価値を生み出していくための、広い意味でのダイバーシティ・マネジメント能力を身につけなければならない。もちろん、その必要性は、今に始まった話ではない。しかし、企業にはダイバーシティ・マネジメントを積極的に取り入れる土壌ができつつある。
最大の変化は、世代交代だろう。企業におけるバブル期以前の世代が約半分にまで減少した。バブル期以前(70年代~80年代)はかつての日本的企業モデルの成熟期といえる。その時期、ビジネスを志す人々の大半にとっては、新卒社員として名前の知れた企業に入ることがメインラインだった。というよりも、それ以外の選択肢はほとんどなかった。外資系企業やベンチャー企業への勤務、新卒入社した企業からの転職が特殊なことでなくなったのはバブル期以降の話だ。つまり、現在の40代、50代社員にとっては、確立した会社に入り、染物経営のもとで切磋琢磨することは当たり前の感覚だ。その感覚がこの先の10年間で、企業の中からおのずと薄れていく。それと同時に、企業は多様性をマネジメントする能力を身につけなければならなくなっていく。この変革は目には見えにくいものの、非常に大きな経営転換といえる。
女性活用がダイバーシティ・マネジメント力を高める

現在、多くの日本企業が取り組み始めているダイバーシティ・マネジメントのテーマは「女性活用」である。外部の幹部人材や異質職能人材、シニア世代、外国人など、ダイバーシティ・マネジメントのテーマは多々あるが、既に社内に大勢存在する女性社員に経営や価値創造活動において、より重要な役割を担ってもらおうとするのは、第一歩としては合理的だ。しかし、女性活用にはさらなる意味がある。それは、女性活用が、企業のダイバーシティ・マネジメント力を高める効果があるということだ。つまり、女性活用はダイバーシティ・マネジメント自体を推進する「手段」としても重要なのである。
組織内の多様性が増すことによって、人と人とのコンフリクトはおのずと高まる。視点や発想のコンフリクトの結果として、仕事の成果の価値が高まることはむしろダイバーシティ・マネジメントのねらいである。しかし、コンフリクトが人間関係のコンフリクトを引き起こすと、逆に仕事のパフォーマンスは低下してしまう(*参照1)。染物経営の中で勝ち上がってきた男性管理職の大多数にとっては、人間関係のコンフリクトを緩和しながら、視点や発想のコンフリクトをうまく利用して成果を生み出すという、マネジメントスタイルにはなかなかうまくなじめない。
一方で、「仕事でも自由に交流し、情報を交換する。意思決定プロセスに相手も引き入れようとして、アドバイスを求める。命令するよりも提案する」(*参照 2)といった女性ならではのマネジメントスタイルや、「分権的傾向、フラットなビジネス構造、チームプレイ、横断的な関係、柔軟性」(*参照2)といった女性に有利な組織構造は、ダイバーシティ・マネジメントにとっては適したものなのである。
つまり、女性活用は企業の創造的自己変革のための促進剤となりうる、戦略的な意味合いを持った経営課題と考えるべきである。

* 参照1.
Karen A. Jehn, "Workplace Diversity, Conflict, and Productivity: Managing in the 21st Century"
* 参照2.
ヘレン・E・フィッシャー「女の直感が男社会を覆す」(草思社)

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