経営・人事コラム

人事コラム バックナンバー

バブル世代の自立化を急げ(2回連載:第1回)

[2005.11.01] 松丘 啓司  プロフィール

大卒社員ピラミッドの大きなコブ

多くの大企業でバブル世代に対する今後の対応が問題視されている。バブル世代とは、日本がバブル経済の絶頂にあった1990年前後(1988~92年頃)に新卒で企業に入社した世代を指す。現在の年齢では30代後半から40歳あたりの世代である。
この時期、企業は争って新卒学生を採用した。たとえば91年卒の就職希望大学生は30万人弱であったのに対して、企業の求人数は80万人を超えており、圧倒的な売り手市場であった。企業側は採用基準を下げても採用目標を達成しようとした。その結果、この世代の採用数が、次に続く団塊ジュニア世代(現在の 30代前半の世代。人口はバブル世代を上回る)よりも数割増になっているといった企業も少なくない。大卒社員のピラミッドを描くとバブル世代が突出したコブになっているのである(図1参照)。
そのバブル世代が、今後、数年間で一斉に40代に突入していく。そのことが企業に及ぼすさまざまな影響は、ここ数年、日本企業が苦慮してきた団塊世代の問題以上に大きいといっても過言ではない。多くの企業がバブル世代の問題に気づきながらも、十分な手を打ち始められていないのが現状であるが、対策を開始するのは早ければ早いほどよい。

tokusyuu_14.gif


「人生の正午を越えようとするバブル世代」


バブル世代が40代に突入することによって、企業はポスト不足や人件費増への対応を余儀なくされるが、既に多くの企業では、制度面である程度の備えを終えている。キャリアコースを複線化し、ラインマネジメントの人数を組織的、制度的に絞りながら、年功給の要素を限りなく排除するための取り組みを、企業は何年もかけて行ってきた。そうした企業の側から見た、いわばハード面の備えには取り組まれてきたものの、当事者であるバブル世代の人々の内面的な備えは十分にできていない。そこに、大きな問題がある。
40歳はユングが言ったように「人生の正午」である。いつの時代にあっても40歳の峠を越えた人々は多かれ少なかれ、残りの人生のことを考え始める。新しいことに果敢に挑戦するよりも、どちらかというと現在の延長線上での終着駅を思い描くようになる。つまり、知らず知らずのうちに保守的になっていく。
バブル世代を保守的にする要因は、単に40代になるということだけではない。企業人がチャレンジ精神を発揮するために不可欠な2つの前提の欠落を、バブル世代は強く意識するようになるからだ。そのことを経営者は重視しなければならない。2つの前提とは、「将来目標」と「金銭的安心感」である。


バブル世代と団塊世代の大きな違い


戦後の日本型人事制度は、この2つを終身雇用・年功序列、退職金・年金の保証によって担保してきた。社員は、会社で働くことによる将来のキャリアイメージを持ち、また、退職後も含めた収入・資産形成の見通しがあったからこそ、40歳を過ぎてもチャレンジ精神を発揮し続けることができた。しかし、いまや企業は社員に対して、2つの前提を十分に保証することは難しい。
ここ数年、団塊世代を襲ったリストラは突然の予期せぬできごとであったため、当事者たちに大きなショックを与えた。しかし、不幸中の幸いは、それが企業人としてのキャリアの晩年期に起こったことである。つまり、企業人としての将来目標を失ったとしても、それはもともと遠い将来の目標ではなかったし、退職金や年金にしても、現在の30代の人々に比べると、ずっと見通しが立つものであった。
それに対して、バブル世代は一部の人々を除いて引退までの明確なキャリアビジョンを描けずにいる。ましてや定年まで勤め上げれば引退後の生活が保証されるというファイナンシャル面での安心感は乏しい。かといって、家庭とローンを抱えながら、転職や独立をして残りのビジネスライフを自分で切り開こうとするリスクをとれる人もごく一握りだ。そのため、将来に対する不透明感を抱えながらも、今の仕事を続けることが選択されざるを得ない。
バブル世代にとっては、すぐにリストラの不安があるわけではない。引退といってもはるかに先の話で実感が湧かない。そのような不透明感と楽観が混在したような状態で40代を迎えることになる。時がたつにつれ、人生の選択肢がますます狭まる現実が見えてくる一方で、将来への不安感が高まっていく。その結果、おのずと会社にしがみつこうとする意識が強くなっていく。その意識は仕事に対する姿勢にも表れる。つまり、リスクをとっても新しいことにチャレンジしようとする意欲が減退していってしまうのである。

「企業家精神のフタ」を作ってはならない

このように会社にしがみつこうとする一大保守層が40代というまさに会社の中堅層に生まれてしまう恐れのあることが、企業にとって最大のリスクだ。これは人件費が嵩むといったすぐに目に見える問題ではないが、日本企業にとっては、はるかに重大な影響を及ぼす。新たな価値を生み出すための起業家精神に、いわば「フタ」をしてしまうことになりかねないからである。
大きな企業に属している人はなんとなく感じているかもしれないが、バブル世代とその下の団塊ジュニア世代には、ある種の世代ギャップがある。バブル経済をわずかではあるが経験したこの世代は、「最後の旧人類」といってもよいかもしれない。バブル世代と団塊ジュニア世代は、上下に接した世代でありながらも、互いの異なる感性に気づいているように見える。
いずれにせよ、今後の企業の中核となっていくのは、バブル世代以下の世代である。そのバブル世代が「起業家精神のフタ」になってしまっては、組織全体の創造力や活力は大きく低下してしまう。逆に、バブル世代がチャレンジ精神を発揮できる組織では、団塊ジュニア以下の世代のモチベーションをも引き出すことができる。すなわち、バブル世代の活性化が組織全体の起業家精神を高めるための鍵となるのである。

企業家はバブル世代の自立化を支援すべし

バブル世代がリスクをとってチャレンジできるようになるためには、前述のように「将来目標」と「金銭的安心感」が前提となる。しかし、これら2つを企業が社員に対して保証することはもはや困難だ。保証できないとするならば、社員はみずからキャリアデザインとファイナンシャルマネジメントを行っていく力を身につけなければならない。つまり、会社にぶら下がり、会社任せにするのではなく、「自立」しなければならない。企業側はそれを個人任せにするのではなく、社員の自立化を最大限に支援しなければならない。旧来の企業と社員の関係を変えていかなければならないのである。
バブル世代が団塊世代と違うのは、時間の余裕がまだまだあるということだ。30代後半の若さがあれば、新たなキャリア目標を立て、それに対して適応するスキルを身につけることもできる。ファイナンシャル面についても、30代後半から少しずつ取り組めば、引退までに十分な資産を形成することが可能だ。もちろん、目標を達成するまでには長い年数が必要であるが、目標に向けて「自立化」に取り組み始めると、1年も経たないうちに、自分の変化が実感できるようになる。それが、余裕や自信につながる結果、リスクをとれる気持ちのゆとりが生まれるのである(図2参照)。

koramu-11_2.gif

人事部の役割が重要

社員の自立化を支援するうえで、人事部の果たすべき役割は重要だ。従来、社員のキャリアデザインは会社任せ、ファイナンシャルマネジメントは個人任せで、人事部が社員の自立力を向上させるための支援を行うといった取り組みはほとんど行われてこなかった。しかし、企業が社員のキャリアとファイナンシャルを保証できないとすると、自立化を支援するのは企業の社会的責任(CSR)の一環でもあるといってよい。
社員があまり自立すると優秀な社員は、会社を辞めて転職や独立をしてしまう恐れがあると不安視する声も聞く。しかし、そのような人材に対しては、企業側は優秀人材が活躍でき、報われる仕組みを用意することで、社内に囲い込むための努力をすべきだ。むしろ、社外の自立した人材が活躍の場を求めて、集まってくるくらいの自立集団作りを目指すことが必要とされている。

次回は定量データを用いながら、バブル世代の自立化について述べます。

» 経営・人事コラムトップに戻る


お問い合わせ・資料請求
人材育成の課題
キャリア開発

キャリア開発

個人の働きがいと組織への貢献を両立するキャリア開発を支援します。

リーダーシップ・マネジメント開発

リーダーシップ・マネジメント開発

マネジャーに必要不可欠なリーダーシップとマネジメント力を養成します。

コミュニケーション開発

コミュニケーション開発

組織や仕事に変化を起こすコミュニケーション力を養成します。

組織開発

組織開発

ビジョンと価値観を共有し成果を高める組織創りを支援します。

営業力開発

営業力開発

お客さまと自社の双方に大きな価値をもたらすことのできる提案営業力、組織営業力を開発します。

経営力開発

経営力開発

ビジネスプランの立案に必要となる知識と実践的なスキルを養成します。

人事向けメルマガ登録

PAGE UP