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ミドル・シニア層向けキャリア研修の動向

ミドル・シニア層向けキャリア研修の動向

[2009.03.17] 田島 俊之  プロフィール

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直近の1~2年間でミドル・シニア層に対するキャリア研修の動きが変わってきている実感がある。めまぐるしい変化が続くこれからの時代に有用なミドル・シニア層向けキャリア研修の動向を探ってみたい。

ここ1~2年の動き

まずは、私が2年前に書いたコラムを整理してみよう。
(ご参考:2年前の特集記事  http://www.mia.co.jp/special/2007/06/post-10.php
ポイントは次の通りである。


  • ・日本は人口問題が急速に進んでおり将来の働き手確保の観点からもシニア活用が期待される

  • ・2006年の高年齢者雇用安定法施行により一部企業に積極的な動きが出てきているもののまだまだ総論賛成・各論反対の企業も多い

  • ・企業はもっとシニア層活用に向けて従来の制度の延長線上の施策ではなく全く新しい発想の施策(働き方・報酬体系など)を模索すべきだがまだそこまでには至っていない

  • ・シニア層個人の意識は漠然とした不安を感じながらもハッピーリタイアメントを期待しており老後生活も何とかなるという甘い考えを持っている人も多い

まとめると、「シニア活用の必要性については社会全般には理解されており一部先進的な企業では積極的な動きがでているものの、多くの企業では実際どのように対応していけば良いのか各企業の事情の違いも含めて模索中である。また個人のリタイア前後の働くことに関する認識もまだまだ低い。」と言ったところであろうか。

しかし、私個人としてはここ1~2年間の中で特に昨年の夏以降にシニア層向けキャリア研修に関わる動きに変化が出てきているという実感がある。

ひとつは、シニア層向けキャリア研修が確実に増えてきているということである。ニーズは各企業様々であるが、大きく分けると「雇用延長に伴うキャリア活用とノウハウ伝承」というポジティブな視点に基づくものと「厳しい経済状況下での会社施策に対するモチベーション維持向上」というややネガティブな視点をポジティブな視点に変えていくものの両方がある。企業の状況も二極化ということだろうか。

二つ目は、シニア世代層のみならずミドル層への拡がりである。従来は50歳代中心であった研修に40歳代後半から場合によっては40歳代半ばの年代層が加わってきている。あるいはミドル層のみを中心としたキャリア研修にマネジメント研修やリーダーシップ研修の要素を盛り込んだものへのリクエストもある。

さらに、キャリア研修のカリキュラムにパーソナルファイナンスの要素を盛り込む企業も増えてきている。このニーズも企業様々であるが、「リタイア」を少なからず意識しだしたミドル層やシニア層にとってはキャリア・ライフを考える上で大きなインパクトになっているのではないだろうか。実際、2日間の研修前には「今までがむしゃらに働いてきたので60歳定年後は働かずにゆっくりしたい」「気に入った仕事があれば再雇用で1~2年程度働いてもいいがその後は悠々自適に暮らしたい」という甘い幻想を持っていた50歳代の人たちが、研修後は極力長く働く必要性を実感しそのためのキャリア開発として今から何をどうして行けば長く働くことができるのかを真剣に考えるキッカケになったという感想も多く寄せられている。

社会の視点

日本にとって人口問題は大きな課題である。
生産年齢人口の伸び率は実質GDPの伸び率と相関があるそうである。シニア層世代の活躍による経済への貢献も大きなウエイトを占めていくことになるだろう。

以前読んだ新聞記事に少子高齢化問題や世代間移転の分析のために年齢別の「一人当たり平均労働所得」から「平均消費額」を差引いた「ライフサイクル余剰と不足」を分析するというものがあった。20代半ばから60歳までの経済的に自立できる期間に「ライフサイクル余剰」が生み出され、20代半ば未満や60代以降の年代の経済的に自立できない期間に「ライフサイクル不足」が発生する。これらの数量化されたデータを元に世代間移転に関する課題を分析し様々な施策に結び付けるのだそうだ。

その中の施策の一つとして紹介されていた「長寿国にふさわしい定年延長を図ることも「ライフサイクル余剰」期間を増大させることになる」という内容が私の印象に残っている。まさに今後益々シニア層世代の活躍が日本経済へ与える影響も大きなウエイトを占めていくことになるだろう。

企業人事部の視点

ミドル・シニア層のキャリア開発に関わる人事部の課題は大きく二つあると思う。
一つは、キャリア開発そのものの課題。「新しいキャリアの枠組みをどこまでどう拡げてもらうか?」「過去のキャリア資産をどう活かしてもらうか?」「後進へのノウハウ・智恵の伝承をどう実現するか?(特にホワイトカラー)」「役職定年や雇用延長に伴う職種・報酬に関わる制度変更のなかでどうモチベーションを維持してもらえるか?」・・・・・等々の課題である。ミドル・シニア層活用に対する企業の考え方が反映される部分である。

二つ目は、パーソナルファイナンスについてのサポートである。一部の大企業を除いてほとんどの企業は終身雇用・年功序列型賃金制度の影に隠れて社員のパーソナルファイナンスについての教育を一切やってきていない。しかし、いまや中高校生から自分自身の将来設計に必要なパーソナルファイナンス知識修得がなされる時代である。自身のリタイア後の生活設計に必要な考え方や最低限の知識修得はほとんどこの分野の研修を受けてこなかったミドル・シニア層には必須の研修ではないだろうか。

前述したようにパーソナルファイナンスの視点でより具体的なリタイア前後の生活イメージが見えてくると当然これからのキャリアについても真剣に考えざるを得なくなる。その時に仕事内容や働き方・報酬体系に本人の価値観を少しでも反映できる仕組みが必要となろう。人事部は早急に従来の制度の延長線上の施策ではなく全く新しい発想の施策―――例えば、柔軟な働き方の選択・仕事内容の選択とそのためのサポート体制・それらに見合った報酬体系など―――を実現すべきではないだろうか。

ミドル・シニア層個人の視点

2年前のデータからは「シニア層個人の意識は漠然とした不安を感じながらもハッピーリタイアメントを期待しており老後生活も何とかなるという甘い考えを持っている人も多い」ということが読みとれた。それでは現在はどうであろうか?私には企業の視点が変化してきている割には個人の視点はあまり変化していないように思える。未だに自分達が目にしてきた団塊世代の諸先輩の残像を追っているように見える。漠然とした不安がより具体的な不安や現実的な問題として浮かびあがってきているはずであるが、未だにリタイア後の生活に対して甘い幻想を抱いている人たちも少なくない。あるいは具体的な対策行動にいたっていないというところだろうか。

これは前述したように研修の現場でも実感できる。いたずらに危機意識をあおるつもりはないがパーソナルファイナンスの視点をもつことでかなりリタイア後の実感が沸くのだろう。研修前と研修後では発言内容が違ってくる。そういう意味では、パーソナルファイナンスの視点を織り交ぜた研修はかなりミドル・シニア層に対しては意味があると思う。

キャリア選択の視点

本来、キャリア選択は人生の選択と大きく関わっている。学生時代の就活に始まり社会人生活の中では常に選択を迫られてきたはずだ。特に「リタイア」を少なからず意識しだしたミドル層やシニア層にとっては自身のキャリアを自覚的に選択することは人生の後半戦を左右する重要な選択である。

今まで企業の定年を目処に働き詰めに働いてきた・・・・・しかし、リタイア後も働く必要性がはっきりしてきた。同じ働くなら自分を活かす、働き甲斐を感じる働き方をしたいのは誰しも同様であろう。もしも今までの働き方が「明日の糧を得るために今日を働く」のであったならば、今後もその繰り返しでは先が見えてきたミドル・シニア層世代には苦痛でしかないだろう。今からリタイア後までの10年15年のキャリアを今までと同様にただ会社のため、家族のため、成果のためにだけに働くのでは人生の多くの時間を苦痛で過ごすだけに終わってしまうか、あるいは会社の価値観に埋もれたままこれから人生を楽しもうというリタイア直後に燃え尽きるかのどちらかの危険性が高い。繰り返しになるが企業は自社のミドル・シニア層に対するキャリアの選択肢をもっと増やすべきであろう。それを若手中堅世代もじっと見つめている。

一方、個人にとっての大切なキャリア選択の視点は、自らの価値観や培ってきたキャリア資産を活かせる働き方の選択であり仕事内容の選択である。自身の動機と結び付いていればさらにベストであろう。会社のため、家族のため、成果のためにだけに働くのではなく、そこにプラスして、働くこと自体を楽しむ、仕事の厳しさをも含めて仕事そのものを楽しむ、後進に何かを伝えること自体に喜びを見出す、という視点も必要ではないだろうか。

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