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楠田祐氏(中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)と語る2016年人事の課題(前半)

[2016.02.16] 

今年も中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授の楠田祐氏と弊社代表取締役 松丘啓司の対談を実施させていただきました。今回から2回連載でお届けします。前半のテーマは「次世代リーダー育成」です。(以下、敬称略)


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(左 楠田祐氏 右 松丘啓司)

 リーダー候補人材に早期チャレンジ機会を

楠田:経営姿勢に関して、日本の大企業が守りから攻めに入ったと感じます。1つはクロスボーダーのM&Aが経営の1つの手法として確立されたこと、もう1つは若手の早期選抜、早期登用が当たり前になってきたということ。若手がリーダーとして羽ばたいていくために人事としてどのような役割があるか、松丘さんはどのように考えていますか?

松丘:そうですね、守りから攻めに転じていくためには、リーダー候補人材に早期にチャレンジ機会を与えて成長させることが重要になります。そのため、個々人のポテンシャルを踏まえて、多様な成長機会を提供するためのタレントマネジメントのプロセスを確立することが必要ではないでしょうか。

楠田:部門内リーダーとしては成果をあげるだけではなく、その部門から脱出してもリーダーとして活躍できる人材を育てるには、経営目線でビジネスセンスを磨いていく必要性が高まっていると思います。

私自身、社会人MBAで6年以上客員教授をやっていますが、大学院に通うだけでなく、もっとたくさんの人が経営センスを磨いていく時代になってきたと思っています。そのため人材開発部門も、たくさんの人に機会を与えていくことが重要になってくるでしょう。

冷戦が崩壊して四半世紀以上経ちましたが、ヨーロッパの国、中でも北欧では冷戦の崩壊とともにグローバル化が加速しました。通信機器メーカー、アパレル会社、ファニチャー会社など、リテール系を中心に世界を席巻し日本にも上陸しています。彼ら自身は内需がないので、自国だけでなく世界で羽ばたいていくために、ビジネス感覚を持った人材の育成が相当されてきたのだろうなと思っています。

松丘さんのところでも経営シミュレーション研修をずっとやってきているそうですが、受講者はどういう人が多かったのですか?


 経営シミュレーションを活用した経験学習の有効性


松丘:経営幹部候補、管理職候補が多かったですね。日本でも2000年前後くらいから論理思考、問題解決、経営戦略、マーケティングなどのビジネススキルを企業内で教えることが一般的になってきました。ただ、専門知識を身につけることで企画を作れる人は育つかもしれませんが、経営者として意思決定をしていく感覚を育てることとは異なります。弊社でも経営シミュレーションを活用して経営意思決定を実践する研修を過去からやってきていますが、最近はもう少し若手層にもニーズが広がっていると感じています。

楠田:これまでそういう研修は、一部の会社の一部の人だけというイメージがあったけれども、ここ数年は確かに増えていますね。

特に大企業に雇用されている人たちの判断能力はすごく高いと思うんですよね。けれども、決断能力が少し欠けているなと色々な企業を訪問して感じる。やっぱり意思決定は決断能力だと思うので、判断しているだけでは進歩がない。そういう意味でも、先ほど松丘さんが言った通り、経営学、論理思考などを知識として学ぶだけではなく、それを使ってみるというのが重要だと思う。

松丘:そうですね。確かに決断能力は重要ですが、他の人の意見に耳を貸さずに、強引に決めすぎてしまうというケースもあります。反対にコンフリクトを恐れて、反論を抑えてしまうこともあります。そのような一人ひとりの意思決定の傾向は、経験をすることによってのみ自覚することができます。

楠田:それは、いわゆるエクスペリエンシャルラーニングですね。

松丘:実践をして、その結果から自分自身を振り返って内省し、そこからの気づきを次のアクションに活かしていくというのを繰り返すのが経験学習です。経営シミュレーションというのは基本的には経営の経験学習です。特に失敗体験というのは、現場ではなかなか実践できないので、研修の中でたくさん失敗してもらうことが大切です。

楠田:松丘さんのところではどういうシミュレーションシステムを使っているのですか?

松丘:経営シミュレーション自体はもう10年くらいやっていますが、最近、イタリアの経営シミュレーションの開発会社と提携して、日本の企業に提供する取り組みを始めています。ファシリテーションは日本語でも英語でも提供できますので、多国籍混合の受講者に英語で実施することもできます。

楠田:そのイタリアのシステムはどのような点が良いのですか?

松丘:1つは分析機能です。参加者はチームで毎期の事業計画の意思決定をしていくのですが、その結果は単純に財務諸表に出るだけではなく、なぜそういう結果になったのかをシステムでドリルダウンして、ビジュアルなグラフで分析することができます。

もう1つは、競争のメカニズムがうまくアルゴリズムで組み込まれている点です。情報を分析して事業計画を分析しても、実際にはなかなか意図したとおりにはなりません。その最大の要因は、自社だけがマーケットにいるわけではなく、他社も同じマーケットにいるということです。そのシステムでは自社の分析だけではなく、他社の分析もできるようになっています。

楠田:古くから財務諸表を読めるようにしましょうといった研修はあるけど、ほとんどは個人で取り組みます。チームでやるということは、リーダーシップの発揮の仕方や発言の内容を観察することによって、アセスメントもできそうですね。

松丘:そうですね、例えば事前にコンピテンシー診断を受けてもらって、そのレポートも踏まえて行動観察をすると、一人ひとりの特性がかなり分かります。

楠田:受講者は結構、熱中しそうですね。

松丘:熱中した結果すごく視野が狭くなって、周りが見えていなかったりすることに気づくこともあります。失敗して悔しいという体験が強烈に残るのが、経営シミュレーション研修ならではの良い所ですね。普通の研修ではそこまで悔しいってあんまり思わないですが。

楠田:人間って悔しさとかネガティブな感情から頑張ろうって思うことが、成長するきっかけになりますよね。

グローバル化すると、いろんな国の、いろんな育ち方をしている人とのビジネス競争になるので、日本のように入社して25年経って、そういう勉強するなんて言ってる場合じゃないね。そんなに社会経験がない若手だって理解できるってことですよね。選抜された一部の人だけがこういう研修を受けてリーダーになっても、周囲のフォロワーが理解していないと成果が出ないのではと、最近すごく思う。

松丘:そうですね。一部の人だけだとその人が浮いてしまう恐れがありますね。

楠田:この10~15年って、そういう状況だったように感じる。一部の人だけが選抜でいい研修を受けて、他の人たちは漏れてしまっていたよね。莫大な費用をかけて一部の人が研修を受けるのも重要だけど、もっと多くの人が学習し、アセスメントしたりしながらリーダーになっていくと、その中にフォロワーシップというものも成り立つようになり、組織が強くなるんじゃないかなと思う。企業側の教育予算の中で、こういうものを始めていく必要性はあるなと感じますね。


<プロフィール>
楠田 祐
  中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授
  戦略的人材マネジメント研究所 代表
  K's HR Label 代表

 東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を
 10年経験。2009年より年間500社の人事部門を6年連続訪問。
 人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。
 多数の企業で顧問も担う。

◇主な著書
 「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)2011年は、
 Amazonのランキング会社経営部門4位(2011年6月21日)を獲得した。
 最新の著書は「内定力2016~就活生が知っておきたい企業の『採用基準』」
 (出版:マイナビ)

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