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- 【コラム】楠田祐氏(中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)と語る2015年人事の課題(後半)
中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授の楠田祐氏と弊社代表取締役 松丘啓司の対談(「2015年人事の課題」)の後半をお届けします。今回のテーマは、「タレントマネジメント」です(以下、敬称略) |
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楠田:次のテーマはタレントマネジメント。私は国内外のタレントマネジメントシステムベンダーから呼ばれるケースが非常に多く、アメリカまで出張にも行きましたし、タレントマネジメントカンファレンスでの講演や、パネルディスカッションの司会を随分とやってきました。そこでわかってきたのが、システムを導入するまでにすごく時間がかかっているということです。次から次とタレントマネジメントシステムベンダーが出てくるので、コンペばっかりやっていることがその原因の1つ。もう1つは、人事部と情報システムの言葉がかみ合わないこと。システムを導入する時に人事と情報システムで打ち合わせをしますが、情報システムに人事の言葉がよく理解できず、人事は情報システムの言っている専門用語がなおさらよくわからない。そのため、タレントマネジメントシステムのベンダーもすごく苦労している。
さらに、タレントマネジメントシステムベンダー自身が、人事の非基幹システムにどう入り込んだらよいかが理解できていない。だから、最後の秘境なんじゃないかなと思いますね。
外資系ベンダーの日本法人社長やマーケティング部長をやっている人のキャリアを見ると、外資系の汎用機メーカーにいたり、基幹系システムソフトの営業やマーケティングからスピンアウトして流れてきたりしているケースが非常に多い。タレントマネジメントシステムは基幹系システムではないので、大企業の人事にどのようなソリューションを提供すればよいかがよく理解できていません。
導入はしたがうまく運用できていない企業もあります。運用がうまくいっていない会社には大きく分けて2つのタイプがあります。1つはシステムを導入したが、動いていない会社。その理由としては、欧米のタレントマネジメントシステムはM&Aをしてくっつけたパッチワークシステムが多くあるため、ユーザーインターフェイスが非常にわかりにくかったり、データーベースが一元化されていなかったりする。そのため、買った後に人事も使い方がわからず、現場もよくわからない。そんなこと買う前にわかんないかと思いますが、これが1つ。
それからもう1つが、コア人材を発掘するというねらいで入れているけれども、コア人材の定義がバラバラなので事業部長とかが勝手に定義して、これ本当にコアなの、という状態になっている。タレントマネジメントシステムを人事だけが使うのであればまだいいかもしれないけど、現場も含めてサクセッションプランをやる時に、コア人材の定義や制度やルールなしにスタートしたところはぐしゃぐしゃになっている。タレントマネジメントシステムベンダー自身がそこまでコンサルできないので、早く売っちゃおうみたいな風潮がすごく増えてきているかなと思っています。そういう中でエムアイアソシエイツでは、アセスメントも持っていると聞いていますが、タレントマネジメントシステムとうまく融合できるようなものでしょうか?
松丘:タレントマネジメントシステムは給与計算システムのように既存業務をシステムに置き換えるというものではありません。例えば、人を選抜することを考えた場合、今までのやり方をシステムに載せただけでは、何も変わりません。これまで固定化してしまっているコア人材の基準自体を見直していかないと、タレントマネジメントをやる意味がないと思います。
もう1つは人材育成です。システム化したからといって人が育つわけはなく、現場で1人ひとりの人を育成していかなくてはなりません。今まで上司は、自分がやってきたようにやれば部下が勝手に育つ、みたいに思われているところがあり、1人ひとりに応じた育成があまりなされていません。なされていないものは当然システムには載りません。
前者については、自分の会社や事業や組織にとって、ポテンシャルがある人材は誰かを判断する基準が明確になっていない上に、そもそも人材像と言った時に10人に聞くと10人とも違うことを言ったりして、そこから揃っていないということがあります。この点について弊社では、組織が求める人材像と個人が持っているさまざまなポテンシャルの適合度をみるツールを提供しています。その中には、求める人材像を定義するテンプレートもあります。人材像を定義するにあたっては、言語化が非常に難しいのですが、テンプレートに従えば比較的短期間でできます。
楠田:人材像を定義するテンプレートがシステムに含まれている?
松丘:はい。人材像をパラメータでシステムに登録することができます。実際には、ファシリテーションしながら、どういう人材が求められているのかを定義していくお手伝いをしています。
楠田:なるほど。
松丘:1人ひとりの人材育成という点では、弊社が提供しているキャリア研修やピープルマネジメント研修というのは、テーラーメイドの開発プラン作りそのものと考えています。キャリア開発は本人が会社の中でどのように成長していくかという道筋を明らかにすることですし、ピープルマネジメントは部下1人ひとりの成長を上司が支援していくことです。
いずれにしてもタレントマネジメントとは、どういう基準で何をやるかということ自体が定まったものはありません。これまでと同じやり方では何も変わらないので、もっとイノベーションを起こせるようなやり方に変えていくお手伝いをしたいと思っています。
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松丘:世の中の変化はすごく早くなってきていると思いますが、人事のあり方というのはすごくゆったりと変わっているように見えます。これがもっとスピードアップしていくためには何が必要でしょうか?
楠田:戦後70年間の日本の大企業の人事は、常に人口が増えていく、労働人口が増え続ける中での人事管理、人材マネジメントでした。人口減少は数年前から始まっていますが、特に社会人としての労働人口は、一昨年から急に減ってきています。これからの人事は人口が減少する中で、未来に向けて戦略達成するために人を配置する考え方ができなければいけないと思います。
そういう環境の中で、どのように人事のキャリアを形成すればよいかも考えなければなりませんが、人事がのんびりしちゃっている企業も少なくありません。就職氷河期に入社した30代半ばから後半くらいの人たちは総じて優秀なので、思い切ってやらせて育てていくという発想が必要です。人事はタレントマネジメント導入するだけじゃなく、人事の中でもコア人材を発掘して、ストレッチアサインメントをするということをどんどんやっていかないと、紺屋の白袴になってしまいます。
団塊の世代の人についてきた人事の人たちが、今、人事の役員や部長になっています。その中には、自分たちで気づいて自分たちが始めようとしている人たちと、団塊の人たちの再雇用が終わっちゃった時に、自分たちはこの先、何したらいいかわからないっていう人たちに分かれているように思います。
松丘:アドミニストレーションはしっかりやるけれども、変革を起こそうとあまり思っていない人も少なくないのではないでしょうか?
楠田:人事がいちばん変革エージェントにならないといけないけれども、変革エージェントの研修に人事が呼ばれていないっていう会社もあります。これ笑い話になっちゃうけど、本当にこういうことが起きています。タレントマネジメントのプール人材に、人事の人がプールされていない会社も実はあったりします。自分たちで一生懸命、タレントマネジメントシステムのアドミニストレーターをやっている。これじゃあやっぱり戦略人事にならないので。アドミ人事のままになってしまいます。
人事にはこれから、360度的なマインドが必要だと思っています。欧米型だの日本型だのという二元論はもう終わったと思うので、欧米にも学び、日本的なのも学び、当社としてはどちらがよいのかという左右を考えられること。それから、未来に対して考えられる人事というのは歴史も勉強していないとダメだと思うんですよ。日本の過去の賃金理論も勉強し、未来に対して2千何十年に日本の人口はこうなるというように考えられる。だから左と右と過去と未来という360度を学んで理解している人じゃないと、未来に対して考える力は養えないと思います。
人事は20代の後半になったら海外にトレーニーで出すとか、少しコアな仕事をアサインメントするとか、人事の中だけでもタレントマネジメントをするべきだと思います。単に、あそこに行ってくれという定期異動ではなくて、ここで何年経験したら次はそっちに行けるよ、というような先の先まで見せるような形の中で、未来に対して考えるような仕事もさせなければ、人事の人たち自身も育ちません。少しずつ、やり始めた企業もあるかなと思っています。
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まだまだ語り尽きない様子でしたが、このあたりで2015年の新春対談を終わりにしたいと思います。楠田先生、ありがとうございました。
また、読者の皆様にも最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
人事を取り巻く課題について、ヒントが得られましたら幸いです。
ご質問やご感想などございましたら、info@mia.co.jpまでお気軽にご連絡ください。
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<プロフィール> 東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を ◇主な著書 |