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楠田祐氏(中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)と語る2014年人事の課題(前半)

[2014.01.15] 楠田祐氏 (中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)

今回から2回連載で中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授の楠田祐氏と弊社代表取締役社長 松丘啓司の対談を掲載します。対談のテーマは「2014年人事の課題」です。今回は、主にダイバーシティについて語られています。(以下、敬称略)


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(左 楠田祐氏 右 松丘啓司)


シニア、女性、グローバルが3大課題

楠田:昨年を振り返ると、4月1日からの法律の改正で、正社員が60歳定年を迎えた時点で、希望者は全員65歳まで再雇用されることになった。この階層の社員が多い企業は、再雇用人数の増加に伴う職務開発の課題を抱えている。急な職務開発は難しいため、さまよっている感がある。
先陣を切って職務開発を手掛けている会社をベンチマークしながら、仕事を作っていくのではないかと思っている。たとえば、サントリーは2013年4月に定年を60歳から65歳に変更した。このような会社がこれからも出てくる。
アメリカ合衆国には、定年退職がない。日本も近い将来70歳定年になる。中小企業では定年を設けていないところもあるが、大企業すら定年退職がなくなる時代が来るのではないかと考えさせられた。
2番目は、女性活躍に力を入れ始めた企業が多いことだ。この5~10年前までの女性活躍と違うのは2点ある。1点目は量より質にフォーカスし始めたこと。2点目は管理職を増やそうとする企業が増えたこと。
男女雇用機会均等法が始まって27、8年。それから何度も女性活躍がうたわれてきた。ここにくると、ただ人数が多ければよいということではなく、パフォーマンスの上がる質の高い女性にどのように活躍してもらうかというディベロップメントの課題と、管理職・執行役員を含めた上層部の女性を増やすことをきちんとやっていこうという課題が増えてきた。
3番目はグローバル人材。外国人採用も含めたもの。この1年はものすごく加速したと思っている。
松丘さんは、僕の言った2点目の女性活躍について、早くからダイバーシティというテーマで取り組まれているが、昨今の移り変わりについてどう考えているか。


女性が変わるべきか、会社が変わるべきか

松丘:7,8年前に女性活躍と言われていたのは、どちらかというと両立支援、家庭も仕事も両立できるように支援するための仕組み作りが中心であったが、大企業に限ると、考えられるような制度は出尽くした感がある。しかし、両立支援はできたとしても、本当に女性の力を活かしきれているかというとそうではなく、仕組みは作ったがその上で成果を出していくというタイミングにきていると思う。
活かしきれていない理由の1つは、会社は女性だけでなく、男性とのコミュニケーションの中で仕事をするため、女性だけに変われというのも難しいという点にある。会社の中での旧来の物の考え方、コミュニケーションの仕方が女性管理職を増やしていく際の障害になっている。
つまり、女性だけが変わるのではなく、会社も変わる必要がある。ダイバーシティ&インクルーシブネスと言われるが、単に多様な人を採用するだけではなく、多様性を受容する企業風土への変革が求められている。
個々の企業では、男性が大半を占める管理職のコミュニケーションのあり方を見直していこうという動きが少しずつ出てきている。

20131217Mr.Kusuda_Taidan1.jpg楠田:昨年、ヒアリングした会社で、事業部長が500人いる会社があった。その中で女性の事業部長は何人いるかと聞くと、たった2人。別の会社では、600人中0人だと。自慢話じゃないのだから。
1986年に男女雇用機会均等法が始まって以来、かなりの数の総合職の女性がその2社に入っていたはず。当時、入社した男性の多くは事業部長になっているが、女性は皆無。
両立支援ということでは、いわゆる昔からある30代のM字カーブ、ライフイベントによって30代前半で仕事をやめるということはほとんどなくなり、どちらの会社でも寿退社はもう死語になっている。大企業では、制度が充実してうまく利用されていると思うが、上層部の部長・事業部長クラス以上に女性はほとんどいない。
日本企業の多くの女性部長を見ると、ライン部長の多くは独身女性で、担当部長は結婚しているが子どもがいないことが多いと聞く。子どものいる人達は、なかなか管理職になろうとしなかったか、または辞めていった。なれなかったのかもしれないが、結果的に残った人達がそういう人達だったのかもしれない。これからは結婚して子どものいる人も事業部長になれるような社会を作っていかなければならないと思う。
政府は2020年までに企業の中の女性管理職を30%にしようと言っているが、どう考えても無理な話。2020年に昇格する人が3割ならいいけれど、全体の3割を女性にしましょうというのはあまりにも乱暴ではないか。
ここで私の言いたいことは、ただ目標数値だけを掲げるのではなく、結婚して子どもがいる人でも、ラインの部長や事業部長として活躍できる人をどうやって作っていくかを議論する必要があるということだ。

20131217Mr.Matsuoka_Taidan3.jpg松丘:楠田さんが挙げた1点目のシニアの話にも絡むと思うが、これから企業の中における40歳以上の社員の比率はどんどん増えていく。その一方で、役職ポストは限られている。過去の企業の人事の仕組みというのは、役職者がメインで、そうでない人たちはその他という扱いだったが、これからは逆転する。
今までその他だった役職者以外の人達がメインとなってくるので、それを前提としてその人たちを動機付けて、力を発揮してもらう仕組みを作る必要がある。それと同時に、ライン管理職の方はマネジメントのプロにならなければならない。だから今まで以上にマネジメントのプロを育てる仕組みが必要となってくる。
女性であれ、男性であれ、マネジメントのプロとなる人材を早期に選抜して計画的に育成していかなければならない。そのプロセスの中で、女性管理職比率を意識して実現していくことが必要だ。


ピープルマネジメントは女性の方が向いている

楠田:僕が以前から思っているのは、ピープルマネジメントは女性の方が向いているのではないかということ。2013年、僕は60になったが、小学校の同窓会に行くと、当時の女子がみんな、楠田君はこうだったよね、ああだったよね、と言う。僕自身は女子が誰とどういう遊びをしていたのか、全然、記憶にない。
社会の中でも企業の中でも、女性の方が男性の行動や言動をよく観察しているなと感じる。僕は確かに、男性のことも女性のことも職場の中で観察していなかったなと思った。目標管理の面接の直前になると観察したりするが、年に2日くらいしか部下をみてないなと。
女性がこれからの管理職としてライン側にいるのはすごく良いと思う。ピープルマネジメントがうまい人というのは、フルタイムでなくてもできる。10時~4時でもできる。技術職、専門職になるとその時間にいないといけないし、営業だとその時間にお客に会わないといけないけれど、支社長や支店長はその時間にいなくてもできると思う。ライン管理職に女性を選抜していくのは大賛成だ。
日本の女性管理職が増えない根本の理由について、もう少し松丘さんの仮説を聞かせてもらいたい。

松丘:現時点での管理職というのは男性が中心で、その人たちの価値観でコミュニケーションが行われている。男性管理職は、自分たちでは成功体験やいろいろなことを共有しているので、相手の違いを理解しようとする必要がない。
先程、楠田さんが言われたように、女性の方が一般的に優れている点、つまり相手のことを理解したり、周囲に気を配ったりする能力は、本当はマネジメント上、たいへん重要だが、オールドタイプの人たちはそういうことをあまり重視していない。自分では普通にコミュニケーションしているつもりでも、女性社員からすると伝えたいことを聞いてくれない、となる。
あの人たちは自分たちのことを全然、わかってくれない、わかってくれないから自分のこと話すのをやめておこう、と思ってしまう。それで距離を置いてしまう。ましてや自分がその人と同じような姿になるのはとても想像ができない。
女性管理職は男性管理職の仲間になって、男性管理職のように振る舞う必要があると思われている限り、女性管理職は増えないだろう。女性管理職候補が、自分らしい管理職の姿をイメージできるようになり、実際にそうなれることが必要だ。


経営の本気度が見透かされる

楠田:松丘さんの話を僕なりに言うと、日本の大企業の中の人材マネジメントというのは、24時間365日働けますという人たちだけが上にいく。例えば、男性が1か月入院したら、昇進昇格はないという会社が未だにある。だから365日働かないとだめだということになる。多くの会社が女性管理職を増やそうとする際、いまだに女性を男性化しようとしている。
もう1つあると思う。それは、女性活躍推進室とか、ダイバーシティ推進室とかいう組織があるが、その女性室長の次のキャリアが人事部長じゃない。つまり、人事部の傘下にあるその組織は、決してコアでないってことが、結果的にわかった。

松丘:会社の本気度が見えるということ。

楠田:僕はここだと思う。だからそれをやった人が、次に人事部長になって、執行役員になるというキャリアの道がない。アリバイ作りであったことがばれてしまう。

松丘:社員からすると、何かが大きく変わるのかなと期待したけれど、がっかりしてしまう。

楠田:なんだ、もうやめるんだ、みたいな。あれは一時的なキャンペーンだ。もうキャンペーンは終わっちゃった。バーゲンセールと一緒。そういったことがすごく多いと感じている。これからやるには、その人は人事部長候補になっていかなくては無理なんじゃないかな。

松丘:経営が元々それくらいにしか考えていなかったということ。

楠田:そうだね。昨年6月の株主総会が終わった時に、企業の人事部長にどんな質問があったかと聞くと、共通していたのが、どうして登壇者の中に女性いないのかという質問。では来年頑張りますと答えるしかない。おそらく今年の株主総会は、外から女性執行役員を呼んできて、赤いワンピースを着せて壇の一番端に座らせるんじゃないかと思っている。そういうアリバイが好きなのだ、日本企業は。

松丘
:でもそれもアリバイだとすぐばれる。

楠田:ばれるね。それも定点観測しているが、外から女性の執行役員を連れてくるのは、だいたい社長。社長が下りるとその執行役員も退く。そういうのが、とても多く見受けられる。ものすごく本気度が低い。
あともう1つ、高齢化社会について昨年、面白い話を聞いた。2012年の上半期に日本における赤ちゃん用と高齢者用のおむつの市場規模の比率が逆転したとのこと。これはまさに少子高齢化社会。それはもっと加速するのではないかと言われている。
それを考えただけでも、高齢者の活躍、働いている女性の活躍ということに本当に取り組まないと、日本のパフォーマンスは低下してしまう。若年層から60歳までの社員だけでは維持できないので、本気で取り組まなければならない。   ― 後半へ続く ―
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プロフィール
楠田 祐
中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授
(戦略的人材マネジメント研究所 代表)
東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。2009年より年間500社の人事部門を5年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業の顧問を担う。
主な著書
「破壊と創造の人事」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)2011年
「内定力2015 ~就活生が知っておきたい企業の採用基準」(マイナビ )2013年

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