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楠田祐氏(中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)と語る2014年人事の課題(後半)

[2014.01.22] 楠田祐氏 (中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授)

中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授の楠田祐氏と弊社代表取締役社長 松丘啓司の対談の後半を掲載します。対談のテーマは「2014年人事の課題」です。今回はグローバル人材や経営幹部の育成について語られています。(以下、敬称略)


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(左 楠田祐氏 右 松丘啓司)

>>前半の内容はこちら

グローバル化が加速する国の共通点

楠田:ところで、昨年1年、経済がどうだったかを、新聞を読み返したり、企業を訪問していろいろ聞いたりしてみた。その中で、大企業がどうやって利益を出したかについてわかったことがある。それは下請けや取引先、いわゆる購入先の値段を叩いたということだ。もう1つは、利益が出ているにもかかわらず労働分配率が上がっていない。このようなことが数字を見ただけでわかってしまう。
その会社が良くなっているわけではない。大企業は利益が出たから今年は給料を上げましょうとなるが、本体や親会社だけ給料をあげたら、下から文句が出るからまずいのではないか。下請けを叩いたり、購買先を叩いたりする社会は良くないのではないのかと思っている。
上半期から感じていたことが下半期に出たのが、偽装問題やリコール問題。末端のユーザーからそういった声が出るというのは、結果的に下請けや取引先が手を抜いていたことが、本社・買う側からするとブラックボックスになっていたということではないかと、誰もが感じてしまうのではないだろうか。そういう社会になったことは、たいへん残念。
ここに関して、人事がどう関与すればいいのかは難しい問題であるが、日本の産業全体の傾向ではないかと思う。

松丘:人口が減少していくため、国内マーケット、総需要は減少していく。国内産業はグローバル化にむかうしかないと思うが、本当の意味で、自分たちはグローバル企業になろうと思っている会社は少ないのではないだろうか。

楠田:それはいい質問だ。1つの会社の中で複数の人に聞くと、グローバル化を本気にやろうとする人と、やらない理由を論理的にいう人の2種類が存在する。その理由を僕なりに考えてみると、グローバル化が加速していく国には2通りあると数年前から見ている。
1つは英語圏の国。もう1つは、人口が5,000万人以下の国。ご承知の通り、韓国がサムスンをはじめとして携帯・テレビで世界一になった。韓国は非英語圏で人口が5,000万人くらいである。それから、北欧。北欧はオランダでも1,600万人くらいしかいないのではないか。近年、北欧の会社が世界一になったところはいくつもある。今はマイクロソフトに買われたが、一時はノキアが世界一になった。最近では、IKEA、H&M、みんな北欧のブランドである。
非英語圏でも内需のないところは海外へ進出した。グローバル化というのは冷戦終結とインターネットの融合により進められるようになった。冷戦終結に関して言えば、ソビエトが崩壊し、東西ドイツが統合してから間もなく4半世紀が経つ。21世紀になってこれだけインターネットなどが出てくれば、内需のない国々は冷戦が終結するやいなや、一斉にグローバル化を加速した。
そこで日本についてもう一度考えてみると、どうやら1憶2千万人も人口がいて、非英語圏であることから、これからはグローバル化だろうと考える人も社内にいるが、いやいやまだまだ内需があるだろう、とグローバル化に同意しない理由を論理的に言うドメスティックな人も結構いる。取締会や経営会議においても、こういった議論をやっていると、よく聞く。
今年2014年に大卒で入社した人が定年する2060年の日本の推定人口は、多く見積もって8,900万人、少なく見積もって8,200万人とのこと。5,000万人にはほど遠い。まだ内需があると思う人がいても不思議ではないが、グローバル化とは日本企業だけがグローバル化するのではなく、世界中から日本にも入ってくるため、国内企業が結構やられてしまう可能性があると思っている。


海外対応の人材育成では不十分

20131217Mr.Matsuoka_Taidan4.jpg松丘:国内需要は急速に減るわけではないため、今やらなくてもいいや、今のままでもなんとかやっていけるという気持ちがあるのだろうけれども、それでは下請けを叩き続けないと利益が増えていかないことになる。そのやり方に早晩、限界があるのは、誰の目にも明らかだ。本当の意味で必要性にかられて、グローバルで稼いでいかないと生きていけないというような危機感がないと、それこそゆでがえるみたいになってしまう。
とはいっても、グローバル化に対して企業は確実に動いて行く。多くの会社はその方向を目指していると思うが、人を育成することが本当に深刻な経営課題であると考えるところにまで至っていない会社が多いのではないかと思う。
グローバル人材とは、外国語ができるとか、他国の文化を理解しているとかいった海外向けの対応も必要だが、それだけではなく、国内外にかかわらずどこに行っても通用する力を磨くことが重要だと思う。自分のベースとなる強みを持っている人は、グローバルでも通用するし、国内でまったく違う事業に行っても、それなりに力を発揮できる。
また、マネジメントに関しても、文化の違いはあったとしても、マネジャーに必要とされる基本的な行動や能力というのは、外国でも日本でもそんなに変わらないと思う。実際に欧米のグローバル企業におけるマネジャーのコンピテンシー定義を見ると、日本の会社に求められていることとほとんど違いがない。

楠田:どこに行っても通用するコンピテンシーについて、もう少し説明してもらいたい。

松丘:人それぞれ持っている強みは違う。たとえば、物事を前に進めていく行動力が強い人もいれば、他者との関係を作ることに強い人もいる。行動力のある人は、国内でも海外でもそれを活かせるし、関係構築力の高い人は海外でも人付き合いが上手だ。
また、マネジメントの基本は、部下の力を引き出して成長を促し、業績につなげていくという行動だ。そのためには1人ひとりの強みは何か、部下はどのような価値観を大切にしているのかということを理解して、モチベーションを高めていくことが必要になる。そのような働きかけは、グローバルに限らず必要だ。
これまでの日本企業では、経験があるからマネジャーになっているとか、業務上優秀だからマネジャーになっているとかいう人が多い。しかしこれからは、経験があるからというだけでは、マネジャーとして務まらない時代になってきているのではないか。


自分を理解することの意義

20131217Mr.Kusuda_Taidan.jpg楠田:松丘さんの話を聞いて幾つか思ったことがある。人をマネジメントする力というのは、本を読んだりして外発的に学ぶことも必要だが、自分が持っている価値観を内省して内発的に磨くことも必要だろう。
自分の強みが何かを知るべき。しかし、これは早く知れば知るほどいいのか、それとも40歳位になってから気付けばいいのか、すごく悩む。どうして悩むかというと、学生から社会人になった20代は、自分の行きたい業界ややりたい仕事を一生懸命やる。そうすると、こういったことは後回しにしがち。自分を知ることが必要だと押し付けられても、ふーんとなる。そういった打ち込んだ経験を活かしながら、30歳くらいからやればいいと思うが、それについてはどうか。

松丘:それはそう思う。いわゆるカッツモデルというのがあるが、若いうちはテクニカルスキルの比重が高く、経験を積めば積むほど、テクニカルスキルは小さくなる代わりに、ヒューマンスキルやコンセプシャルスキルといったコンピテンシーの比重が大きくなってくる。若い頃は、スキルアップをしていろんな知識を身に着けて、それによって仕事を1つ1つ覚えて幅を広げてということが成果に直結してくる。会社としても外発的な動機付けで、スキルアップをすれば1つ上の等級になれるといったことでモチベートすることができる。
しかし、スキルアップは永遠に際限なく続くものではないし、本人がスキルを身に着けるだけではなく、周囲に影響力を及ぼして活躍するようだんだん求められてくる。自分のテクニカルスキルを上げるだけでは、それ以上の成果は出せなくなるタイミングというのがあるのではないか。その1つに経験5年目、30歳前くらいのタイミングというのがあると思う。その頃から考え始めても十分だろう。

楠田:おっしゃる通り、20代は自分のやりたいことをやってみて、30歳になって少し棚卸して自分の価値観や強みはなんだろうと考えてみる。そういうステップが丁度いいのかもしれない。そういうことを人事がきちんと社員に対してやってあげる場があると、その後のキャリア形成にとても素晴らしい影響を及ぼすのではないかと思う。
僕の世代にはそういった機会はなくて、たまたま僕が53歳のときにエニアグラムをやる機会があった。それから、54歳の時に360度評価を20人位の著名な大学の先生や企業の社長、人事部長にやってもらって、出てきたデータとコメントを見てなるほどと思った。
楠田さんは誰とでもすぐ仲良くなるのがうまいなど、みんなそういったことを書く。結局、あの時にエニアグラムや360度評価をやってみて、今の人生、今の働き方を決めた。毎日いろんな企業に行くが、行きたくない所には行かない。会いたくない人には会わない。会社の経営をやっていたときは、数字を作るために、嫌な人にも売りに行かなければならなかった。嫌いな会社にも営業しなければならなかった。
今は僕を嫌う人には会わないし、僕が行きたくない人には会わない。だから全然、ストレスがない。結果的に自分の価値観だけで生きている。

松丘:それは幸せなケースですよ。


経営幹部のディベロップメントが必要

楠田:松丘さんが言った中ですごく思うのが、日本の管理職登用とはどちらかというと、試験で選んできたということ。試験とは過去問、暗記ものが中心。もう1つが過去の実績。過去の実績というのは、未来形ではない。ピープルマネジメントなんて、特に未来に対してマネジメントできるかどうかが非常に重要なので、試験と過去の実績だけで決めていくというのはやめた方がいいと僕は思う。
結局、登用してできない。できないから研修やった。研修やってもできないと、人事はやることはやったから、あとは野放し。そうすると若い人たちが、ああいう上司になりたくないと。この悪い循環が日本全体に及んでいる。

松丘:その点に関して、評価制度を昨年くらいから見直そうとする機運があるように思う。制度自体は、過去の成果主義やコンピテンシー導入とかいった大変革ではないけれども、給与査定や昇進昇格のための材料にするための評価から、人材育成による業績向上のためのマネジメントの一環として評価を位置付ける方が重要だと考える会社が、少しずつ増えてきているような気がする。

楠田:そこの制度の見直しと、人材開発の体系の見直しにフォーカスされてきていると思う。もう1つは、上層部に対するディベロップメントというのも増えてきた。
これまで日本では、執行役員や取締役って一丁あがり的なイメージだった。高度成長時代はそれでよかったが、今じゃそれではどうしようもない。執行役員なんてさらに機能してもらうために、ディベロップメントしていかなければならない。そういう意味で、Off-JTもやるし、360度評価も定点観測していくし、さらに機能させようとするところが増えてきたかな。

松丘:
弊社でも幹部向けのキャリア研修が増えてきた。幹部には、部下のキャリア開発を支援できるようになってもらうことが必要だが、本人たちが自分のキャリアについて考えたことがない。自分はどういう価値観を持っているのかと、自分に対面して考えたことがないため、実際にやってみると新鮮な気づきがあるようだ。

楠田:日本企業の執行役員になるような人は、入社以来24時間365日働いてきたため、イノシシのように突っ走ってきた。そのため、自分のキャリアについて考えたこともないまま来ている。しかしよく考えたら、自分のキャリアを部下に語れない人には、部下もついてこない。
研修で気づかされていること自体、情けないと思うけれども、その情けなさの裏には、それだけ企業戦士として頑張ってきたという自負があるわけなので、執行役員に対して会社は、1泊2日位で、自分のキャリアについて考えてもらう時間をとることが重要だと思う。それがないと執行役員になったままバーンアウトしてしまう。

松丘:目には見えないが、パラダイムシフトが起こっている気がする。楠田さんが言われたように、過去の管理職は過去問ができればよかった。経験を積んでこういうときはこうする、ということを理解していればよかった。
しかしこれから先は、過去問ではマネジメントはできないため、未来志向で自分はどうなりたいのかから始める時代になっている。そういったことを薄々、感じている会社が方向転換をしようとしているのではないかと思う。

プロフィール
楠田 祐
中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授
(戦略的人材マネジメント研究所 代表)
東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。2009年より年間500社の人事部門を5年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業の顧問を担う。
主な著書
「破壊と創造の人事」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)2011年
「内定力2015 ~就活生が知っておきたい企業の採用基準」(マイナビ )2013年

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