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「人と組織とキャリアを考える」第2回 人事構造改革のフレームワーク

[2012.10.02] 中田 研一郎

変化する外部環境に対応した経営戦略を新たに策定した場合、人事戦略もこれに連動して変更する必要性が出てきます。しかしながら人事の構造を元のままにしたままでは、新しい人事戦略を適用することは困難なので、人事の構造を全体として改革することが必要になります。私はこの改革を数年かけて完成させましたが、その際に一番苦心したことは人事の構造とは何かを明確にすることです。

構造改革というとすぐに制度改革の議論に走ることが常ですが、真の構造改革を行うためには、まず人事の構造がどうなっているのかを知ることが先決で、いたずらに他社とのベンチマークに基づき目新しい制度を導入しても定着しません。

私は、人事構造改革のフレームワークは、次のように4層から構成されていると考えています。

第2回の図.png

第1層の人事マネジメント理念は、その会社の創業の理念を人事の側面から反映したものです。いわばその会社のDNAともいうべき企業文化の原点となるもので、国の仕組みで言えば憲法に相当し、普遍性と永続性が必要です。したがって、これは企業の根っこに相当しますので、頻繁に変更すると社員に対する求心力が希薄になる恐れがあります。

第2層のポリシー層は、採用、配置、評価などの各々の人事業務における基本方針で、経営戦略と密接に連動して決定されるべきものです。

ポリシーとは「何をどうする」と述べることで、例えばソニーの報酬と評価に関して定めたポリシーは「社員が会社に約束(Commitment)をした内容につき、どれだけの貢献(Contribution)をしたかによって報酬(Compensation)を決定する」というCキューブ(3乗)チャレンジとして単純明快に表現しました。

これが明確に表されているときに、ポリシーがあると言えます。逆に、「貴社の何々に関するポリシーは何ですか」と聞かれても、ワン・センテンスで答えること容易でない場合は、ポリシーが明確ではないということです。

人事評価に関する細かい業務の説明はできるが、評価の基本方針という柱はよく分からないというという状態では、社員は人事評価を自分のモチベーションにつなげていくことが困難になります。人事の諸制度のポリシーが、社員の間で共有されるようにしておくことが必要です。

第3層の人事制度や人事業務は、第2層のポリシーを具体化したものです。第2層と第3層の間には概念的な整合性が必要です。それが欠如した制度の設計変更をすると、第1層と第2層の人事理念やポリシーとの関係が明らかではないので、表層的な改革に止まってしまう恐れがあります。

変革をするには前提としてポリシー改革が不可欠ですが、多くの会社は3つ目の実践層である制度やプロセスを変えることにもっぱら注力しているのではないでしょうか。その最たるものが成果主義給与制度で、これを導入したがる会社が少なくありません。

しかも、自分ではつくれないからコンサルタントにつくってもらうことが多いため、会社のポリシーとの整合性が極めて不明確になる恐れがあります。逆にいうと、理念とポリシーが明確であれば、制度の設計はさほど混乱なく行うことができるでしょう。しかし、制度を作ってもポリシーは生まれません。また理念的に整合性のないポリシーが複数存立していると社員は混乱します。

最後の第4層は、第3層の人事制度や業務プロセスを効率的にサポートする人事情報システムインフラで、経営にスピードが要求される今の時代には、このシステムインフラを整備することは必須です。

経営の合理化やスピードアップのために、日本の企業は過去数10年に亘り、企業内コンピュータシステムを導入しましたが、その多くは中央集中型システムでした。それが、グローバル規模でネットワーク時代を迎え、1人1台のPCを持ち、業務がEメールベースの分散型となっていった時、企業内システムには大幅な変革が必要とされました。

それまで多くの大企業が使っていたのは、長く使い続けた「つぎはぎ」だらけのいわゆる「スパゲティ状態」のシステムで、個々のシステムのメンテナンス情報すら最早存在しないようなシステムも含まれていました。

ソニーでは当時、国内に12の工場があり、それらがすべて法人化されていたので、12通りの異なる人事情報システムがありました。システムがワンプラットフォームではない結果、相互にデータの交換ができず、システム間をつなぐ「渡り廊下」を沢山つけなければなりませんでした。

メンテナンスコストだけで年間数億円使っていましたが、業務改善や付加価値にはつながりませんでした。そのため、この人事情報システムを全部捨てて、ERPを活用して1つのプラットフォームに統一ましたが、その際には、どういう設計思想に基づいて、それを具体に落とし込むのかを考えて新しく統合的人事情報システムを設計することが重要になりました。

設計思想はシステムそのものではなく、企業人事の理念やポリシーを踏まえて初めて明らかになります。情報システムというものは企業にとって血管のようなもので、一番上の理念層からインフラ層まで、全社的な組織構造を検討対象にしないと構造改革はできません。

第1層と第2層の理念とポリシーは、改革を推進する「改革のドライバー」で改革のエンジンの役目を果たします。2つを合わせて改革のビジョンとなりますので、変革を担うリーダーは、まずこれを明確にして社員全員で共有されるようにする必要があります。

第3層と第4層は改革を可能にする道具として、「改革のエネイブラー」として位置づけられます。抽象的なビジョンを具体的な人事制度やシステムインフラの落とし込むことによって初めて実践行動となります。

人事の構造改革は、第1層から第4層までのすべての階層にわたって新しい時代の変化に対応したものに変革していくことです。

人事の改革と言っても、対象が膨大過ぎて何から手を付けていいかわからないということが往々にして起こりますが、上記のような4層構造に分析して考えると、やるべきことが整理されて見えてきます。

ミクロとマクロ

人事マネジメントにおいては、社員(ミクロ)と会社組織(マクロ)の両方を扱います。社員については、終身雇用と年功序列に代表される、古いシステムを支えた会社と個人の相互依存関係に代えて、自由と自己責任に基づく社員の自律性の向上(Self-Drive)を目指し、会社組織については経営戦略と密接にリンクした人材配置・育成(Strategic Control)を追求していきます。経営者の観点からは、それらの双方の目標を同時に且つ最小のコストで実現することが目標となります。

ミクロ

急激に変化しつつあるグローバル環境に適応するだけでなく、変化を自ら創出していく必要があるという時代背景を踏まえると、人事マネジメントのミクロの観点である社員については、自由と自己責任に基づく自律性の向上(Self- Drive)が課題となります。前述の人事構造改革のフレームワークの第2層のポリシーを決めるうえで、自由と自己責任の考え方は不可欠の視点と言えるでしょう。

自由と自己責任の原則に基づくとは、個人の意思を尊重して、「自分のキャリアは自分で開く」という自律的なキャリアのデザインを促進し、目標に向けた主体的な自己開発をする社員像を、社員の間で意識として共有することが目標となります。

また、業務の遂行においても「自発的なチャレンジ」の実行を奨励し、社員が
・自分なりのビジョンとマイルストーンを設け
・企業家精神を発揮することを醸成・尊重し
・チャレンジをレスペクトする社内環境
を構築していく必要があります。

マクロ

人事マネジメントのマクロの観点である社員組織については、経営戦略とリンクした人材配置・育成(Strategic Control)が課題となります。人事マネジメント理念は前述の人事構造改革のフレームワークの経営戦略に具体的な形で立案されますが、それを更に組織戦略に反映する必要があります。

すなわち、自社の競争力のあるビジネスを更に強化し、競争劣位のビジネスを整理するという経営戦略に基づいて、短期的には現在の事業の選択と集中によるニーズに合わせて、既存の人材ポートフォリオの組み替えを行う必要があります。また将来、強化すべき事業領域と重要度の低い事業をビジネスのライフサイクルの観点からの整理することも必要になります。

同時に、中長期的な戦略の視点からは、新しいビジネスの柱を担う人材の育成と確保が必要です。育ってくる人材の中から優秀な人材を抜擢するという従来的手法以外に、一部のポテンシャルの高い人材を意図的に育成のためのローテーションを行って、経営幹部として育成することも大事です。

次回は「人事制度の変革をしていく上で企業のDNAをどのように生かしていけばいいのか」ということについて考えてみたいと思います。


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