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「人と組織とキャリアを考える」 第1回 人事マネジメントの目指すもの

[2012.08.22] 中田 研一郎

私はソニー株式会社に30数年勤務し、その間法務部、通商部、知的財産部などの法務渉外系の仕事を経て、最後は本社の人事部長を務めました。

その間、ニューヨークに3年,ドイツ、ベルギーなど欧州に6年間駐在し、また数多くの海外出張も経験しました。

退職後は青山学院大学、新潟大学、中央大学大学院等の大学で客員教授として人的資源論の講座を担当して今日に至っています。

大学での人的資源論に関する講義とは別に、エム・アイ・アソシエイツ株式会社の顧問として、数多くのセミナー等で企業における人材育成に関する講演も行ってきました。

ソニー退職後に行った講演は既に100回を超えていると思います。講演のテーマは人事に関することが中心で、採用から退職に至るまでの企業における人事に関することで多岐に亘っています。

講演会ではパワーポイントを使って話をさせていただいていますが、その資料もかなり蓄積されて、整理してみると数百枚に及んでいます。

青山学院大学での講義のために「ソニー 会社を変える採用と人事」及び「就職活動に勝つ」という本を角川書店から出版しました。

その後の新潟大学や中央大学大学院での講義や講演会でお話しした内容は、本で書いたこと以外にも沢山あり、記憶にはとどめているものの形にはなっていません。

そこで、この度今まで人事に関して自分なりに考えて行動し実践してきたことを、もう一度文章に再構成して、エム・アイ・アソシエイツのホームページで連載させていただくことになりましたので、よろしくお付き合いのほどお願いいたします。


 ソニーの人事部長に就任

2005年にソニーを退職してから7年になり、現在は主に大学でビジネスマンを対象に戦略的人的資源論を教えています。私は法務・知財が専門で、30数年の勤務で最後の5年が人事の仕事でした。

ソニーは本当にいい会社であったし、今もすばらしい会社であると思っていますが、残念ながら最近は業績が急速に悪化したことで社会に注目されています。今のソニーを見ていると、如何に経営理念と経営戦略を維持発展させていくことが大事であるかということを改めて思います。

私が人事部長になった当時のトップメネジメントの考え方は「ソニーを20世紀型企業から21世紀型企業にするために、様々な改革をしなければならない。その重要な柱の一つは人事であり、グローバル企業に生まれ変わるために人事の構造改革をするべきだ」ということでした。

私は人事について全くの門外漢でしたが、人事部長になった時には、過去のしがらみがないという点では変革をしやすい立場でありました。CEOが望んでいる人事構造改革を直接担当できるのは企業人としてまたとない機会だと考えました。

そして、複数の経営コンサルタント会社のトップ・シニアコンサルタントと契約し、週に一回人事の主要課題について一日中ディスカッションをするというセッションを半年行い、ソニーの人事の現状を踏まえた上で、あるべき人事の姿の本質と世界の最先端の人事の動きを集中的に検討していきました。

企業経営というのは、人材、知識、モノ、資金、権利などの経営資源をいかに効率的に動かして利益に結び付けていくかということで、それを支えているものが経営理念、実現するために経営資源を使って企業組織を動かしていくのが経営戦略です。

この経営戦略が時代に合わなくなると業績が悪化していきます。私が人事部長に就任したときの会社の経営戦略は、競争戦略では選択と集中、スピード経営、(過去の延長線ではない)非連続な変化、成長戦略ではビジネスを新たにつくる創発、そしてグループ戦略では組織の統合と分極ということでした。

当時のグループ社員数は、日本が5万人、海外が12万人で計17万人、輸出比率が75%という、まさに海外にウエイトを置いた企業でした。

そのグループをどう統合していくのかが人事部の大きなテーマで、それに対して出した改革のポリシーは、変化に迅速に対応可能な人事基盤をつくる、組織と個人の絶えざる自己変革をおこすような仕組みをつくる、社内の自由競争のある人材マーケットをつくる、またシステムを充実しポータルを中心とする企業内人事情報システム改革を実施するというようなことでした。


 人事戦略と経営理念、経営戦略との連動

 人事マネジメントが目指すものは、ビジネスの中で高い付加価値を生んで会社の利益に貢献する社員を育成し、その集合体としての組織を効率的に運営していくための手法を確立することにあります。

業界や会社によって儲けの仕組みであるビジネスモデルは異なっていますので、人事マネジメントの手法もそれに応じて当然異なってきます。

また外部環境の変化によって、昨日まで有効であったビジネスモデルが通用しなくなることも珍しくありません。21世紀に入って、ビジネスにグローバル化の波が押し寄せ、経営環境の激変が起こっていますので、人事マネジメントもそれに対応して変化することを求められています。

今の時代は、経営環境の変化をいかに先取りし、それを経営戦略や人事戦略に反映するかが問われているのです。

第1回の図.png

人事の諸施策を戦略的に遂行するためには、人事戦略を経営理念と経営戦略に連動させることが不可欠です。企業によって企業理念が異なり、業界における自社のポジションも異なるわけですから、それに連動すべき人事戦略も企業によって当然異なってきます。

具体例をあげると、例えば経営理念が、「グローバルなマーケットでビジネスをする」となっていた場合、中国に企業進出するという経営戦略を立てたとしましょう。

そうすると中国では、模造品が作られるリスクがあるので特許や商標、意匠などの知的財産権の申請をして権利形成を行い、同時に、中国の知的財産権分野の専門家の育成も社内で始めるという人事戦略に連動させるということになります。

10年ほど前から成果主義という人事戦略を数多くの日本企業が採用し、一種のブームになりましたが、グローバル化の進展に合わせた制度改革という側面と、「皆が導入しているから自社もそろそろ検討しよう」というような、日本の会社特有の横並びのトレンド志向の面も多分にあったのではないかと思います。

しかし、トレンド志向で行った成果主義は、その会社の経営理念や経営戦略と整合性を確保できない点が多く、事後的に修正や反省が起こり、現場はモチベーションが下がる等かなり混乱したのではないでしょうか。

このように、変化する外部環境に対応した経営戦略を新たに策定した場合、人事戦略もこれに連動して変更する必要性が出てきますが、人事の構造を元のままにしたままでは、新しい人事戦略を適用することは困難なので、小手先の制度改革ではなく人事の構造そのものを全体として変革することが必要になります。

私は、この変革をソニーで数年かけて完成させましたが、その際に一番苦心したことは、まず人事の構造とは何かということを徹底的に検討することでした。

次回は「人事構造改革のフレームワーク」についてお話ししたいと思います。

以上



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