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思考・行動特性(コンピテンシー)から見る最近の若手社員の傾向

[2011.10.11] 佐々木 郷美 (マネジャー)

弊社では、思考・行動特性診断といって、個人の思考・行動上の傾向(いわゆるコンピテンシー)を測定し、フィードバックするアセスメントサービスを行っている。この診断からわかるのは、その人が内発的に駆り立てられ、大切にしがちな、変りにくい性格的傾向に近い思考・行動上のクセであると同時に、ある仕事や組織環境によって作り上げられる傾向でもある。これら2つの側面が複合的に影響し合って、思考・行動の発揮度合いは決定される。従って、この診断を使って自社の人材の全体傾向を把握する時、人事担当者にとって気づきとなるのは、そもそも、どういう資質を持つ人を採用しているのか、という採用の視点と、どういう人が育ちやすい組織風土が存在しているのか、という育成や風土の視点である。そして、採用戦略は勿論、どの層の何を重点的に強化すべきか、人材育成施策の見直しにも役立てることができる。

私がこのアセスメントサービスを行っている中で、企業の若手社員に、業種や職種を問わず、最近、よく目にする共通パターンがあることに気づく。今回は、その傾向について考察してみたい。勿論、これは全ての会社にも当てはまるとは断定できないし、若手だけの特徴でもないかもしれない。一般化はできないものの、自社の社員の傾向と比較して、課題認識を深めていただく参考にしていただけると、嬉しく思う。


 打たれ弱い

思考・行動特性診断は、仕事で成果を上げるのに必要な思考・行動特性(コンピテンシー)を3つの領域から見ている。その1つが「行動領域」と言って、自分を取り巻く環境がどのような状況にあっても、行動を持続するために必要な思考・行動特性群である。その領域の中でも若手の「困難に立ち向かう力」(逆境や困難な課題を前にしても、臆することなく、果敢にチャレンジして、克服しようと努力する力)という思考・行動特性項目が極端に低いケースを最近よく目にする。このことは、間違いを恐れ、リクスを避けようとする傾向や、厳しいフィードバックや指導から自身を高めていこうとする気概が不足している傾向を示している。

このことは、企業の中での若手の仕事はまだ作業レベルのものが多く、間違いを指摘されてそれを直すところから始まっていることも多いので、ミスや失敗がないことが仕事のゴールになってしまっている実態を表している可能性もある。しかし、本来、自分から発案し、企画、推進するタイプの仕事では、まず、やってみて失敗する経験からでないと学べないことも多い。この間違いを避ける傾向があまりに強く凝り固まってしまうと、誰かの指示を受けて動く、作業レベルの仕事の快適さから脱せなくなってしまい、上昇志向がなく、リーダーやマネジャーなどの責任ある役割を担いたがらない若手になってしまう恐れがある。そうならないためにも、少しずつ自分主導の仕事の領域を増やし、仕事の中でチャレンジすることの面白さを体験していく必要があるだろう。


 自分で考えることが苦手

仕事で成果を上げるのに必要な思考・行動特性領域の2つ目に、「選択領域」がある。これは、自分の置かれた状況や他者との関係の中で、適切な選択を行う思考・行動特性群である。その中で、「課題解決力」(目の前の課題に対して、自分の経験を活かしながら、原因を把握し、解決に向けてチャレンジしていこうとする力)と「機転・機敏」(不測の事態や突発的な問題に直面しても、自分が置かれた状況を敏速に察知し、臨機応変に対応する姿勢)という項目に課題がある傾向もよく目にする。

前述の行動領域の傾向と関連があるが、若手の場合、細分化されたタスクの一部を受け持っている感覚で、仕事の全体像を見ていないため、目の前の仕事の「課題」に気づいてすらいない可能性がある。そのため、課題を改善し、克服しようとしないばかりでなく、シナリオ以外の状況が発生するとパニックにもなってしまう。新人ならともかく、今後、中堅として1つ上のステージでの活躍を期待するためには、「自分なりに課題を見つけて、解決する、対応する」、これら思考・行動特性を強化することは必須である。そのためには、自分の仕事にはどんな意味があるのか、会社にどんな貢献をもたらし、顧客にとってどんな価値を提供しているのか、問いかけたり、疑問を持ったりしながら、仕事に取り組む習慣を身につけねばならない。


 周りにあわせてしまう

仕事で成果を上げるのに必要な思考・行動特性領域の3つ目として、「関係領域」がある。これは、他者に信用される人間関係を築くために必要な思考・行動特性群がある。全体的にこの関係領域は他領域に比べると、若手社員の発揮度はおしなべて高めの結果になることが多い。その中でも、特に「柔軟性」(接する相手の目線やリズムに合わせ、融通を利かせた対応をする力)が突出して高いケースを近年よく目にする。

この傾向は、先の「自ら課題を考え、解決する力」をあわせて持ち合わせていれば、本来、強みとなりうる特徴である。しかし、やや危険性かもしれないと感じるのは、自分の軸を持たないまま、相手に合わせて表面的に対応を変えるだけの行動が強化されていないか、という点である。組織に適応する上では大切な行動ではあるが、他領域の思考・行動特性とのバランスを持って発揮される状態を目指すことが重要である。

このように、ある層に共通する特徴を把握することで、仕事の任せ方を工夫したり、焦点を絞った教育・育成施策を打ったり、採用基準を見直したりすることが可能になる。上記のように、ある年に採用された人材は「関係領域」が高い人ばかりという思考・行動特性上の偏りを発見した場合には、そのことが仕事の成果にどのような影響を与えているか、採用の段階で目に見えやすい対人上の特徴に目が行き、他の重要な強みを持ちうる人材を見落としていないか、などといったことを分析することもできる。

最後にお断りしておきたいのは、単独の思考・行動特性が低いからと言って、そこに課題があるという単純な解釈はできないという点である。今回のコラムでは、詳細の説明は省いているが、このような診断の分析は、コンピテンシー全体のバランス、思考・行動特性項目相互の関係性、企業ごとに求められる人材像、事業環境や職種の特徴などもあわせて見て、総合的に判断しなければならないということを付け加えておきたい。

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