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【東京大学・中原淳准教授と語る】リーダーシップの未来(最終回)(続き)

[2010.12.06] 中原 淳 (東京大学 大学総合教育研究センター 准教授)


 コミュニケーションをルーチン化したいという誘惑に打ち勝つ力


中原:企業の役員会とかって、コミュニケーションという観点から見た場合、どうすか?意思決定の前提を問うような発言とか、簡単に言うと、本質的なコミュニケーションは存在するのでしょうか?

楠田:報告と、やるかやらないかの議決が多いですね。

中原:そうすると、組織をどうしようか?というような問いはどこで話されるのでしょうか?

松丘:会社によっては、役員が合宿をしてそういうことだけを話す機会を持つこともあれば、今年は中期計画の年だから、中期計画を立てるための会議の中でやる、といった具合でしょうね。そういうことをものすごくやる会社もあれば、それほどやらない会社もありますね。

中原:面白いですね。役員会のコミュニケーション分析とかすればいいですよね。誰がどのくらい発言していてとか。

松丘:あとは、会社の枠組みみたいなものがしっかり決まっているところだと、役員会に行く前に既に根回しされていることも少なくありません。

中原:決まっていますよね。そうだと思うんですよ。ここ(東大)も大組織ですから。資料を作っている僕の立ち位置からすると、そこで話し合われていることはもう決まっているよという感じです。

楠田:株主総会みたいなセレモニー的なものもまだ多いですよね。日本の取締役会は。

松丘:さっき話した、決めるための会議と、決めることが目的ではない対話の場は、同時にはやりにくいと思います。取締役会はどちらかというと形式的な場でしょうし、経営会議みたいな経営執行の場では、どんどん決めないといけないので、当然、意見は活発な方がいいのでしょうが、あまりクリエイティブに思いを語るという場ではないですよね。

中原:ないですよね。だからそういう場はどこかで持たないと。僕が思うには、取締役会にしても職場でのコミュニケーションにしても、意図的に何もやらなければ、必ずディスコミュニケーションの方向に向かうんです。この忙しい中ではみんな、作業をルーチン化したがるものです。だから、結局、それとあらがう力をどこで確保するのか、という話だと思うんですよ。

 社会学者のローレンス・ピーターは、人は必ず無能になるまで成長すると言っていましたよね。それと同じで、コミュニケーションも必ずディスコミュニケーションの方向に向かうんじゃないかと思います。ここで問われていることもそうですよね。価値観とか信条とか、本当は大切なことも、必ずどんどん埋没していく。

松丘:そういう会社のシステムが作られれば、そのシステムの言語に従ったコミュニケーションで仕事が繋がっていきます。コミュニケーションが全くないというのわけではないですが、どちらかというと機械的なコミュニケーションというか、うわべだけのコミュニケーションで進んでいきます。その方が早くて楽なんですが、発展性がないですね。

中原:でも、それを言っているのが組織学習で、要は生まれた知識とかやり方をどうやって組織の中で制度化していくか、逆に言うとルーチン化していくか。ルーチン化するから、もっと自動的にどんどん早くなっていくし、みんなあえて、逆に情報の共有とかを多く必要としなくなるわけですよね。それは経営学でもその領域があるわけだから、すごく重要な分野だと思う一方で、その作られたものをアンラーニングする力というか、この価値観とか信条をもう一回、問い直すという作業は、どこかで確保しなければならない。

 しかし、それを組織学習の中でやるのはしんどいですよね。職場の中で仕事がくるくる回っている中で、未来はどうするんだという話をしても、まだこっちの方が先だという話になりますので、やっぱりどこかで機会を作らなければいけないと思うんですよね。要は一言で言えば、バランスなんですね。

楠田:確かに経営はバランスですね。


 管理職の役割はマネジメントとリーダーシップのハイブリッドへ向かっていく


中原:お二人とも経営なさっていますよね。実際のところ、大変ですか。

松丘:ベンチャー企業の場合は、大企業と大変さの質が違うと思います。私たちのようなベンチャー企業の場合は、極端に言うと何もないわけです。コミュニケーションの基本的なフォーマットというのがないし、当然、制度もシステムもない。社員も新卒から採用したわけじゃないから、皆、異なるバッググラウンドを持っていて、その中でぐちゃぐちゃやりながら、なんとなく形ができてくるといった、そういう類のニュアンスですよね。

楠田:走りながら作っている感じがありますね。

松丘:逆に、大企業の場合は、ある程度のフォーマットが既にあるところからスタートします。

楠田:歴史がある会社というのは、できあがっているんですよね。

中原:そして書類が大量にありますよね。

松丘:どちらが大変かというのは一概に言えないと思いますが、大変さの種類が違います。

中原:ベンチャー企業の場合は、逆に言うと、今、自分で食っていく分を稼ぎながら、ぐちゃぐちゃしている方の整理をして、組織ルーチン化していく方向に、基本的には向かわないと生産性が落ちちゃいますよね。大企業の方はコチコチに固まっちゃっているので、それを一旦解きほぐす機会というのがやっぱり必要でしょうね。全然、性格は違うけれど、どちらも結局は必要なんですよね。

楠田:やはりバランスが重要ですね。では、そろそろ、まとめに入りましょう。

中原:そうするとリーダーシップ開発というのが、こういう前提とか価値観とかのベクトル合わせという話だとするならば、一方で、マネジメントという言葉とリーダーシップという言葉があった時に、マネジメントの方は粛々とやる力じゃないですか。それはそれとしてやっぱり重要なんだけれど、多分、それにあらがう力がリーダーシップの方で、その機会はどこかで確保しなければいけないんでしょうね。

 今のリーダーというかマネジャーには、両方の力をどう獲得して、職場をまわすかということが求められているのでしょう。夢ばかり語ってマネジメントできないのも困るし、マネジメントだけできてリーダーシップがないというと、ほんとルーチンな作業になってしまうと思うんですよね。

楠田:リーダーシップとマネジメントのハイブリッドみたいな。使い分けるということですかね。

松丘:そうですね。使い分けるというのは重要だと思うんですが、大企業の人というのはなんだかんだいって、マネジメントについては、自分達が思っているよりもできていると思うんですよ。マネジメントというのはシステム化やルール化ができる部分も少なくないので。

楠田:マネジメントされながら育ってきていますからね。自分がする時には、自分がされてきたことの経験の裏返しだから。

松丘:いろんなナレッジやノウハウやシステムはもう組織の中に既存している。

中原:文章になって、ツールになって仕組みになっているので、逆に言うとエラーが起こりにくいようになっていますよね。

楠田:牽制できるようになっているんでしょうね。

松丘:そこに、さらに新しいコンプライアンスだとかいろんなマネジメントしなければならないものが加わって、さらに複雑になってきている面もあるので、当然、それは学び続けなければいけないと思うんですが、中小企業とかベンチャー企業に比べると、大企業は相当、できているんです。だから、うちのマネジメント力が足りないとか言っている内容を詳しく聞いてみると、どちらかというとマネジメントよりリーダーシップの話だったりとかすることが結構、多かったりします。

中原:そうですか。そういうのをコンサルテーションしながら見抜いていく力というのが、すごく求められるような気がします。その定義が曖昧でかつ、多分、人事でやっていらっしゃる方も、元々、事業ラインから来られた方もおられると思うので、外側の知性がすごく求められていると思います。

松丘:おっしゃる通りです。同時に、私たちには知性だけでなくて、そのねらいに実際に役立つプログラムが用意されているかどうかということも当然、求められています。

中原:あとは、さっき言ったように、結局のところ外から介入していく場合に、継続的なフォローを担っていくというのはやっぱり難しいと思います。その時に何らかの仕掛けだったり、組織の中でフォローしてくれる人だったりが必要でしょう。丸投げでリーダーシップ開発はできない。丸投げでラインの人にリフレクションさせるのは難しいと思いますね。

松丘:そうですね。そこには人の行動変容だけではなく、組織を変えていくという意味もあると思います。ある程度、時間がかかることを認識した上で、一人の人がずっと見ていなくても、きちんと組織的な機能としてフォローできるようになっていないと元に戻ってしまいますね。

楠田:このあたりで対談を終わりにしたいと思います。リーダーシップ開発を取り巻く課題と解決策について、いろいろとヒントが得られました。お疲れさまでした。

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