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【東京大学・中原淳准教授と語る】リーダーシップの未来(第2回)(続き)

[2010.11.22] 中原 淳 (東京大学 大学総合教育研究センター 准教授)


 チームの価値観は外部の環境変化を読み解く手がかり


楠田:個人の価値観に加えて、チームの価値観についてはどう考えますか?

松丘:価値観というのは私どもの定義では、要するに何を大切にするのか、ということを決める基準です。その価値観が異なれば当然、何か選択の場面に出会った時にどっちを選択するのかが異なってきます。だからチームがどっちに向かって行くのか、というのはチームが何を大切にするのかという価値観によって違うということです。こっちに行くか、あっちに行くかが違うということは、要するにビジョンが違うということですね。

中原:この価値観も、時間によって外部の環境が結構、変わっていく時に、本来、ずっとぶれないで持っていないといけないものと、ここはちょっと変えないといけないというものと、つまり、変えるべきものと守るべきものとがあると思うんですね。だからこの価値観を作るというのは、おそらく作り続けなければならないものですから、定期的に価値観を問い直す機会を持つことが必要なのかなと思います。

楠田:価値観を問い直すとは?

中原:市場環境がすごく安定しているのだったら、残り10年はこれで行こう、といった話になるかもしれませんが、今、民間だったら何年くらい先を見据えて事業を構築するんですか?

松丘:5年くらいですかね。もちろん、もっと短いスピードが要求されますが、それなりの事業を作り上げようとするとやっぱり時間はかかりますよね。だから5年先くらいをビジョンとしては見ながら、戦略としてはもっと短くといった感じじゃないかと思います。業界によっては10年先、20年先を見るところもあるとは思いますが。

中原:大学だと一般的には5年から6年先を見据えて計画を立てますね。でも、それでも予想するのは結構、難しいですよね。かなり変わりますもんね。

松丘:将来の環境の予想というのは、そもそもできないと思うんですよね。もちろん、いろんな情報をきちんと集めて、しっかり考えるということは重要だと思うんですが、環境自体がどう変わるかというのはわからない。なので、環境分析に頼っていると先も見えないし、あるいは逆に、環境に振り回されてしまう。

 だから、重要なのは自分たちがどうなりたいのかということとか、どういう会社を作っていきたいのか、あるいはどういう社会、世の中に貢献していきたいのか、そういうところのイメージを持つということだと思います。そういうイメージを持っていてはじめて、この環境変化は自分たちにとって重要な変化だとか、この環境変化はそんなに気にしなくていいとか、そういう判断ができるのだと思います。

楠田:なるほど、価値観と環境とはそういう関係にあるのですね。

松丘:また、一方でいろんな価値観がありすぎで困るという問題もあると思います。

楠田:いろんな価値観がありすぎて困るとは?

松丘:たとえば、どの会社も経営理念を浸透させるぞとトップが言っています。トップは経営理念が浸透しないのはミドルの責任だといったことを言い、一方でトップとミドルの間にいる本部長くらいの人からは、今年度はこういう行動方針でやってくれ、と言われたりして、ミドル自身は自分の価値観を大切にしているという中で、じゃあ、何を優先していけばいいのか、よくわからなくなってしまうということです。

楠田:トップが言っていることと、組織のリーダーが言っていることが連携していないということですか?

松丘:完全に一致することはあり得ません。

中原:皆が右向け右になってしまえばそれは軍隊のようだし、危ない組織でもありうるじゃないですか?みんな元々、違いはあるんだけれども一緒にやりうることは何かということを探していくのが、おそらく価値観を探るとかということだと思うんですよね。それにはやっぱり時間がかかるので、対話ってやっぱり重要だよねと思った人が、職場でそういう雰囲気を作るとしたら、半年や1年はかかると思います。

楠田:ある日、突然にはできないですよね。

中原:それは無理ですね。いきなりは変わらないので、一つひとつ変えていかないとだめなんだと思います。だから永遠に完成しない部分があるんじゃないでしょうか。リーダーシップの開発に関しても、職場みんなでやるリフレクションに関しても、おそらく永遠に完成しない、常に未完なんだけれども放棄したらそのまんま、のような感じがします。


 研修後のリーダーの行動変容をどのようにフォローすればよいか?


中原:リーダーシップ研修を導入する会社は、なんという研修の名前で実施するのですか?

松丘:リーダー育成研修だったり、リーダーシップ研修だったり、あるいはモチベーション向上研修であったり、コミュニケーションなんとか研修であったりすることもあります。

楠田:モチベーション向上研修という場合もあるのですか?

松丘:どちらかというと若手対象の場合ですけどね。名前は結構、様々ですね。コミュニケーションの研修をしたいんですと言われて話を伺っていると、どうもそれってリーダーシップのことじゃないかといったことも少なくありません。

中原:入り口はとても多様なんですね。

松丘:そうですね。リーダーシップについて、何がリーダーシップなのかということ自体が共有されていないので、リーダーシップ研修ですと言っただけでは、人によって受け取り方が十人十色です。

中原:それは強く思います。不思議に感じるのは、学習目標がないのにまずタイトルは決まっていて、そこでやられていることが多様ということです。教育界の人はやるべき目標をいちばん最初に決めて、カリキュラムを設定します。そのカリキュラムに従って測定の基準を作るので、逆に言うと作った瞬間に測定のことを考えていると思うんです。

 各会社でやられているリーダーシップ開発というのは、それぞれ何を指し示しているのか、何を問題だと思ってやっているのかが、リーダーシップ開発というタイトルだけ聞いてもわからないんですよ。

楠田:何も測定せずに終っているということもあるのでしょうか?

中原:あるでしょうね。もちろん、測定することがいいことなのか、という議論もあります。探求するべきことが信条だとか価値観だとかいった場合に、無理に測定することに意味があるかという気もします。通常、リーダーシップ研修で求められる最終的なアウトプットは、職場がどう変わるかとか、仕事がどう変わるかとか、パフォーマンスがどう変わるか、ということになるのですか?

松丘:仕事のパフォーマンスとかアウトプットとかを測定しようとすると、特にリーダーシップは短期的に成果が表れにくいものだし、どれだけそこに因果関係があるのかというのは不明確です。無理に因果関係をつけすぎると、今度はすごく恣意的になってしまったりするので、結局、測定すべきことは一人ひとりの行動変容ではないかと思います。

中原:リーダーの行動変容ですね。でもそこはフォローした方がよい気がします。

楠田:そこをフォローする、というのは測定ということですか?

中原:測定というか、管理してぎちぎちにやるというわけではなく、たとえばせめて、研修を終えた後、その人が結局、何を変えて、何を変えなかったのか、ということをフォローするというのでも構いません。だから、結局のところ、そういう研修って、帰ってから何をするかということが、いちばん重要だと思います。

松丘:そうですね。ビジョンというのは、ずっと将来の話になりますので、そこに至るまでの行動計画を立てても、あまり意味がないと思います。基本的には研修が終って3ヶ月、長くても6ヶ月くらいの中で何をするのかが大事だと思います。

 ビジョンに向かっていくために、自分がどういう風に行動を変えていくべきかというのは、いわゆるコンピテンシー開発ですが、自分の考え方や行動のどの部分を強みとしてもっと伸ばしていくのかだとか、あるいはどの部分は意識的に改善していかなければならないのか、ということを明確にして、自分のやり方でフォローしていく計画を立てる、というのがアクションプランの内容になります。

中原:リーダーシップ開発でもそうだと思いますが、外側から松丘さんのように関わる人と、社内の人事の立ち位置にいる人がパートナーを組んでフォローまでやるというのなら、誰がどこまでやるかを握っておかないといけないでしょうね。ある2日間だけ研修を行っても、その後、何かのフォローや支援や介入をしない限りは、難しいと思うんですよね。

 たとえば、僕がリーダーシップ研修とかを受けたとすると、自分の仕事のやり方と向き合い、振り返るという機会があることで、すごく色々考えることがあると思いますが、帰ってきた瞬間にやっぱり忘れてしまうと思います。研修でどんなに考えても、忘れる気がするんですよ。ある種のリマインダーでもいいし、何かやったことを書けというのでもいいですし、管理するというわけではなくて、フォローするとか支援するとかの立ち位置で、何か組織の中でやることが必要と思います。



(左から中原淳先生、楠田祐さん、松丘啓司)

(※第3回は12月6日(月)にアップ予定です。)

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