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【東京大学・中原淳准教授と語る】リーダーシップの未来(第2回)

[2010.11.22] 中原 淳 (東京大学 大学総合教育研究センター 准教授)

前回に引き続き、東京大学 大学総合教育研究センター 准教授の中原淳先生と弊社代表取締役の松丘啓司の対談をお届けします。司会は、戦略的人材マネジメント研究所代表で中央大学大学院 戦略経営研究科 客員教授の楠田祐さんです(以下、敬称略)。


 イノベーションは聞くことから始まる


楠田:エム・アイ・アソシエイツのリーダーシップ研修のカリキュラムにあるエニアグラムは世の中で、スタンダードに使われているんですか?

松丘:これはいわゆる内的動機を探っています。別にエニアグラムじゃなくても、MBTI(注:Myers-Briggs Type Indicator, ユングのタイプ論をベースとした、国際規定に基づく性格検査)でも何でもいいんですけど、自分の内的動機からくる価値観、何を大切にするのか、というのは自分でもよくわからないのが普通です。それを何らかの言葉に置きかえて、自分で理解できるようにする必要があるんです。

 エニアグラムというのは、その点でわかりやすいと思います。動機や価値観といった目に見えないものを、わかりやすい言葉で表現するのに適しています。難しい言葉の心理テストだと、その言葉の意味自体が理解しにくいですので、研修で使うにはエニアグラムというのは非常にわかりやすいです。

中原:多分、2つの考え方があって、こういうテストをやる時に、客観的にその人の持っている能力や属性を測定しましょうという目的なのか、それともその後で振り返って価値観を探す手がかりにしましょう、という目的なのかによって、全然、違いますね。恐らく後者ですよね。

松丘:そうです。後者ですね。

中原:サーベイからのフィードバック内容を元にして、何らかのリフレクションをすると思うんですけど、そこで使われるフィードバック情報というのは、そこで働いている人達の属性に合った、わかりやすいものの方がいいと思います。たとえば、これがMBTIでも何でも構わないというのはそういうことなのかなと思います。ただ、いずれにしても何らかの手がかりをあげないと難しいですよね。

松丘:そうですね。人の価値観は表現しにくいものです。本当に自己理解するには、精緻な診断ツールでもいいんですけど、それって、結局、占いみたいなところがあって、あなたはこういうタイプだと言われると、その時は興味深いんですけど、あまり後に残りにくいところがあります。

 それよりも、自分の過去の選択だとか、過去の感情の動きだとかを自分で振り返ることの方が、その結果が自分の中に残る。そういうことも組み合わせていくんですが、それをやるにしても手がかりがないと、振り返った結果をどう表現していいのかよくわからないのです。

楠田:なるほど、そういう意図なのですね。ところで、このカリキュラムにある、議論モードから対話モードへというのはどういうことを学ぶんですか?

松丘:管理職に多いのは、要するにあまり相手の言うことをよく聞けない、相手の考えていることを聞けないと言う問題です。言葉だけをとらえて、すぐに自分で判断してしまって先に進めてしまうとか、遮ったりだとか、聞いているつもりだけれども本当は聞いていないとかいったことがあります。

楠田:なんか自分のことを言われているみたいだな(笑)。

中原:それは結局、職場に帰った後で、みんなの意見を聞き、調整しつつ、結局のところ、チームで共有すべき価値観を、あなた自身がエバンジェリスト(注:キリスト教における福音伝道者の意。何らかのアイデアを啓蒙する役割を果たす人物。)として聞いていかなければならないので、この種のスキルというか活動が重要だよね、ということですね。



松丘:2通りありまして、1つは今、言われたように、リーダーにしかチームの価値観を書き換えるということができないので、それをやっていくのはあなたの役割ですよ、ということです。もう1つは、相手の異なる価値観による異なる観点に気づくことによって、自分自身の観点が広がるということです。

 論点という言葉がありますが、どんなに問題解決能力を身につけても論点がずれていたら全然、意味がないというのと同じで、観点自体が適切な観点、より深い観点、広い観点からリーダー自身が見ていないと、結局、一定の枠から抜け出せず、考えが深まっていかないということです。そのために、相手の異なる観点に気づくことが必要なのです。

中原:そうですね。今日、たまたま、画家の千住博さんの本を読んでいました。画家は本来、描くのではなく見るのだと書いていて、要は、画家の仕事は本当は描くことなんだけれども、描くためには、見ないといけない。ビジョンも同じ発想で、リーダーの場合は見るのもそうなんだけれども、聞くこともすごく重要なのかなと思います。

 なぜなら、そのビジョンを掲げた時に、掲げるだけじゃダメで、それを実行しなければならないわけだから、それを多様なステイクホルダーに合わせて翻訳していくためには、もともと聞いていなければならないということがありますから。でも、聞くことってすごく難しいですよね。私もまったくできない人間なので。聞こえてるけど、聞けてないみたいな(笑)。

楠田:なるほど。同じです(笑)。

中原:それで聞けていなくて、後から処理がブレイクダウンした時に、聞かなきゃいけないとたいへんですよね。だったら、最初から聞いておけばよかったみたいな。そうそう、ついつい「要するに」って言っちゃうんですよね。

楠田:「要するに、こういうことだろう」と。

中原:先日、広告代理店の方から聞きましたが、イノベーションが生まれる職場の上司というのは「要するに」と言わないと。本当は、イノベーションや新しい考えというのは、その人がどういう思いで作って、それがどこの場面で利用されるかっていう長いストーリーを聞かなきゃいけないんだけれども、そういうのを全部差し押さえて、要するにこれだろっと言ってしまうと、イノベーションたりえない。

 たとえば、iPodって既存技術の集まりなんですが、iPodを生んだ人が上司にこれ作りたいとパッと出して、要するにお前の作りたいのは携帯型音楽プレイヤーだろう、と言われた瞬間に、それで終わりじゃないですか。そんなものあるよ、で終っちゃうと思うんです。

楠田:音楽をダウンロードするだけだろ、みたいな(笑)。

中原:でも本当は、iPodの持っているものって、流通の仕組みと連携して、音楽の流通の仕組みを全部、変えようということなんですが、その話はすごく長くなりますよね。そのストーリーとしてのイノベーションに耳を貸さず、要するにという風になった瞬間に、じゃあ携帯型音楽プレイヤーだったらもういらないよね、という話になるからイノベーションはつぶされるというわけです。

楠田:イノベーションをつぶされたその後に、部下達は何も言ってこなくなりますよね。もう言ってもどうせつぶされるなと思うと、どんどん疲弊していくかもしれませんね。

中原:そうですね。本来、重要なことって、背後にいろんなストーリーやその人の思いとかがあるのかもしれないですけど、でも聞けないよね、ということが実感をこめて言えます。

松丘:実際の企業の中ではどんどん決めていかなきゃいけないこともあります。その一方で、イノベーションのようなことも求められています。たとえば会議は30分、議題を決めて、結論を出すみたいに、そういうスピードをもって進めていくというのも重要なんですが、その中からはイノベーションが生まれないですよね。そこを使い分けるというのが結構、難しいと思います。私も会議を使い分けましょう、と言っていますが、実際にやるとなると難しいですね。

中原:難しいですよね、わかります。でも、いちばんいいのは長期間、職場を離れることですね。気持ちとして離れるのか、物理的に離れるのかは問いませんが。そういう機会に意識合わせをしよう、長い話をしよう、ということをやらない限り無理ですよね。

>>(続き)チームの価値観は外部の環境変化を読み解く手がかり

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