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【東京大学・中原淳准教授と語る】リーダーシップの未来(第1回)(続き)

[2010.11.08] 中原 淳 (東京大学 大学総合教育研究センター 准教授)


 内省する時間の不足が招く悪循環


中原:自分のことを内省する機会とか、チームの価値観に対して意識する機会というのが、時間のことだけをとってみても、昔の方が余裕はあったでしょうね。スピード化、複雑化、仕事がそういう風に変わってきている中で、なかなか時間が持てない、というのはやっぱりあると思っていますが、リフレクションだとか、そういう振り返りの時間だとか、こういう価値観に対して考える機会というのがないから、さらに忙しくなっていく。

 にわとりと卵の関係もあると思うんですよね。戦略がないから忙しくなるということと同じです。ビジョンが描けないから、あれもやらな、これもやらな、それもやらな、という感じで忙しくなる。デフレスパイラル状態のようになっていくと、やっぱりよくないと思います。でも実際に、そういうものは過去、研修の体系とかに組み込まれていたんですか?

松丘:いや、過去はどちらかというと、研修というよりも実践の場で身につけていくものだという考え方が強かったですね。

中原:我が国の労働時間は長いですからね。今、40代後半から50代の方をヒアリングすると、つくづく思いますね。日本企業の長時間労働はすさまじいな、と。人生のほとんどを職場で過ごしている。プライベートな時間からパブリックな時間まで、全部ひっくるめて職場というのが単位になってみんな生きていた。それはワークライフバランスの観点からすると疑義もあるでしょうね。ネガティブですね。しかし、一方で、組織の観点からするとポジティブな観点もあった。

楠田:家族以上に職場の人たちと一緒にいる時間の方が長かったかもしれませんね。

中原:そうですね、その中にリフレクションする時間とかチームの中の価値観をみんなで見出す時間だとかが容易に組み込まれていたような気がします。だから、逆にずれないですよね。でも、今ってやっぱりコンプライアンスもあるし、ワークライフバランスも喧伝されていますし。

楠田:働き方が多様化してきている?

中原:多様化してきているというのもありますし、時間がまず持てていない。一言でいうとそれなのかなと思います。あと、時間がなくなっているから、昔はできる人にもできない人にも仕事を振っていたけれども、今はできる人にしか仕事は集まらないから、できない人はだんだんできるようにならないという問題もあります。

楠田:そうすると、フォロワーはリーダーを観察しにくくなっているということもあるかもしれないですね。そういう意味では、リーダーはきちっと部下を観察して、注意力をもって目をかけたりしないといけない。

中原:企業の営業職の方に、この春にインタビューした時にすごく印象的だったのですが、今、上司と話すいちばんの機会ってどこだと思います?電車の中だと言うんです。上司と1対1で話をするタイミングって、もはやオフィスの中じゃなくて電車の中になっていて、その電車の中でもメールとかチェックしていたりするわけでしょ。そうすると、ちゃんと話すってことはなかなか難しいかもしれないですね。


 ロジカルであろうとするほど失われるコミュニケーションの本質


松丘:時間的なこともベースにあると思うんですけど、たとえば社内で打ち合わせをする時のスタイルもすごく変わってきていると思います。

楠田:社内の打ち合わせのスタイルとはどういうことですか?

松丘:私が社会に出た頃って、打ち合わせの時にこういうパワーポイント資料が出てくるなんてことは当然ありえませんでした。こういう資料なしに、みんなでうちの会社をどうしていこうか、この事業はどうしたらいいかとか、そういう「どうしたいのか」という所からスタートしたんです。今は、綺麗なフレームワークにまとまった分析資料があって、ロジカルなところからスタートしてしまう。そういう違いも大きいと思います。

中原:春に聞き取り調査を行ったときにおもしろいなと思ったのは、「みんな、情報共有は進んでいますか」と訊くと、進んでいます、と言うんですよ。間違いなく。ところが、ポイントはどんな情報を共有しているのかということで、要は仕事の中で本来、共有しなくてもいいような瑣末な進捗報告はしているんだけれども、うちの組織がどうあるべきかとか、これをどうみんなで成し遂げるかとかいったビジョンや、あるいはもっと深い、仕事の前提になるものは情報共有されていない。

 これを十把一からげにして、あなたの会社は情報共有が進んでいますか、と訊くとみんな進んでいると答えるんだけれども、深いところに関してはみんな問わないようにしているんですよ。それをやると会議が長くなるから、あえてみんな問わないんだけど、そこは全然、てんでばらばらだという話がよく聞かれました。

楠田:情報がITによって得やすくなった分だけ、余計なものも含めてボリュームが多くなっちゃっていて、いっぱい情報を持っていて共有しているような気持ちになっているんだけれども、優先順位をつけるとろくでもない情報で、重要なものは結構、抜けていることが少なくないですね。

中原:なんでやるのか、ということと、なぜ私たちがやるのか、ということが伝わらないというか、その部分が所与の前提であえて聞かないでおこうと。逆に、そんなことを毎回毎回、会議でやっていたら全然、話が進まないと思うんですけど、折に触れてはやっていかないと危ない気はします。

楠田:逆に、今の若い人達って何のために働くのか、何のためにこの仕事をやるのかという説明がないと動かないということもあるだろうし、ダイバーシティになると外国人とかも入ってきて、特にちゃんとそういうことをしないと辞めてしまうという話もよく聞きます。

松丘:コミュニケーションが言葉だけでまわってしまっている組織は少なくないと思いますね。たとえば、「なんで今月、売上が上がらないんだ」と訊かれると、売上が上がらない理由を因数分解して、市場がどうなったとか、競合がどうなったとかいった論理的な問題解決に終始してしまう。

中原:今、言ったことはすごく典型的だと思うんですが、大学でもそんな会話があるんですよ。大学では売上の会話はないけれども、売上を上げるのはそもそも妥当なのかという問いもあるじゃないですか。売上ひとつの会話にしても本来、皆さんが前提にしていることはあまりに多いんだけれども、その前提に関して、じゃあ一枚岩になっているかというと、それが微妙に、バラバラにずれていることが現状なんじゃないですかね。次から次へと仕事は増えていくわけですから。

 それをリーダーシップの開発といえば、リーダーシップなのかもしれませんし、フォロワーシップというカテゴリーをつければフォロワーシップなのかもしれませんけど、結局のところそういうことを振り返ったり、問い直したりする時間をどこかで確保するしかないんじゃないかと思います。

(※第2回は11月22日(月)にアップ予定です。)

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