経営・人事コラム

人事コラム バックナンバー

【東京大学・中原淳准教授と語る】リーダーシップの未来(第1回)

[2010.11.08] 中原 淳 (東京大学 大学総合教育研究センター 准教授)

11月から3回にわたって、東京大学 大学総合教育研究センター 准教授の中原淳先生と弊社代表取締役の松丘啓司の対談をお届けします。テーマは、企業におけるリーダーシップ開発についてです。なごやかな対談の中で、エム・アイ・アソシエイツのリーダーシップ開発の考え方と中原先生の鋭い視点やキーワードが重なり合って、面白い内容になりました。司会は、戦略的人材マネジメント研究所代表で中央大学大学院 戦略経営研究科 客員教授の楠田祐さんにお願いしました(以下、敬称略)。



(左から中原淳先生、楠田祐さん、松丘啓司)

楠田:本日のテーマは、企業におけるリーダーシップ開発です。お手元にエム・アイ・アソシエイツのリーダーシップ研修のカリキュラムを用意していますが、話の流れは決まっていませんので、ご自由にお話しください。


 リーダーシップ開発の重要な目的は「職場の変容」


中原:最近、リーダーシップ開発のニーズはすごく増えていますね。

松丘:増えてきたと思います。かつては、企業の中でリーダーシップについて教えられることは、あまりなかったと思います。ただ、去年、私どもがお客様に対して行ったアンケート調査では、リーダーシップ教育の必要性は非常に高く感じているものの、部長クラスでリーダーシップ研修を実際に何かしら行っている会社は少なく、何もやっていない会社が6割以上ありました。役員クラスとなると、本当にやられている会社は10パーセント強くらいしかなくて、どちらかというとミドル以下が中心でした。

楠田:いわゆる管理職になる時ですね。でも、リーダーシップって、新入社員からでも必要がありそうですよね。

松丘:新入社員からリーダーシップ教育を行っている会社はそれほどありませんが、3年目くらいから開始する会社はたくさんあります。たとえば、セルフリーダーシップというような言い方で、組織のリーダーではないけれども、自分自身がリーダーシップを周囲に対して発揮していくような、動きが求められています。

中原:リーダーシップ研修のカリキュラムに決まった内容はあるものですか?

松丘:世間でこれと決まった定番はありませんが、欠くことのできない要素はあります。私たちのリーダーシップ研修のベースにはリーダー自身の内の軸、つまり自分自身の価値観や信条があります。そもそも自分はどうしたいのかという内の軸をしっかり持っていないと、変化に対して受身になり、自分から変化を起こすリーダーになれません。その一方で、自分の内の軸に凝り固まってしまっても発展性に欠けます。そのため、他者の異なる観点を柔軟に取り入れていくために、コミュニケーションという要素も欠かせないと思います。

中原:そういう価値観とか自分の軸といったものって、普段の仕事を繰り返していたら、なかなか内省する機会や時間もないですよね。そういう機会は、定期的に作ることが重要と思います。仕事をする中で、個人の中で最もブレてはいけないもの、いわゆるアンカーを、しかるべきタイミングで見定める必要がありそうですね。

楠田:研修で、どこかにこもって考える時間を与えないと、職場の中ではとてもできないですよね。

中原:そうですね。けれども、研修の場で、これだよねと軸に気づいた後で、実際、職場に帰ったら、やっぱり多忙な業務が待っていますよね。そこでリーダーシップ研修でやった内容を、職場での実践にどうやって繋げていくか、という課題も重要だと思います。

楠田:そうですね。

中原:もうひとつの視点としては、リーダーシップは、個人で作るものなのか、という議論もあると思います。もし、リーダーシップが複数の人間によって担われる現象であるとするならば、介入単位は複数の人間、すなわち職場になることもあるのではないでしょうか。その場合、職場の複数のキーマンが一緒にチームの価値観に気づくとか、どうやってそれを実現するかというビジョンを作るとかいったことが、今後、重要になると思います。

松丘:ちょっと前に、ある会社の経営層の役員の方々10名くらいが集まって、リーダーシップ研修をやりました。そういう機会はすごくいいですね。経営チームとして、会社の価値観を共有するようなことが、その場で実践できました。

中原:英雄型の一人がリーダーシップを発揮するというモデルから、だんだん共有型リーダーシップとか、分散型リーダーシップといわれる方向に変わってきていると思います。そうだとすると、職場の複数のリーダーがボトムの人を巻き込んでいく必要があると思います。そうすると、その巻き込む側の人達が、きちんとどこかで内省をしていて、何をするかを決めて、腹をくくっているということが重要です。

楠田:今の中原さんのお話だと、創業者がすごいカリスマ型のリーダーだったとしても、組織の中にはまた違ったリーダーがいて、リーダーシップを発揮していかないといけないということですよね。

中原:たとえば課長がいますよね。その課長を研修に呼んで2日間振り返りをさせたら、職場がぱっと変わることってありえないじゃないですか。職場にもっとインパクトをもたらすためには、課長を手助けしてくれる人が必要だと思います。

楠田:支援者、フォロワーと言えばよいのでしょうか?

中原:そう、支援者、フォロワーですね。そういう人が何人かいないといけないわけですよね。だとすると、その候補になる人達を一定期間どこかに集めて、研修してしまうと、課長一人が職場に帰ってから浮かないようにすることができます。ただ、その場合は、ごそっとみんな抜けたら職場はどうなるんだとか、開店休業になっちゃうとか、突発的なことに対応できないとか、といったことがいつも問題になります。

楠田:なるほどね。あるときはAくんがリーダーで、Bくん、Cくんがフォロワーかもしれないけれど、あるときはBくんがリーダーで、Aくん、Cくんがフォロワーになる職場というのが日常的なのでしょうね。

中原:日常はそうですね。そうすると職場ごとに振り返りができる。インディビジュアルにリフレクションするんじゃなくて、コラボラティブにリフレクションし、グループでリフレクションし、ワークプレイスそのものでリフレクションするという形で、単位が複数になっていきます。その時に、やっぱり起こる議論としては、そんなに仕事を止められないとか、たくさんの人数で研修はやれないという問題でしょうね。


 リーダーは常に周囲から観察されている


松丘:私はリーダーシップ開発をやる時には、組織の上から行うべきだと思います。もう部長になったらリーダーシップ研修なんかいいやとか、リーダーシップ研修に限らず、今さら部長や役員に教育なんてと思われることもあるでしょうが、結局、上層部が変わらないと、いくらミドルが何かを学んで帰ってきても、結局、そっちに合わせてやっていこうと戻ってしまいますから。

中原:それは重要な視点で、リーダーってもともと観察学習の対象になっています。観察されて、他者から学ばれているということなんですけれども、まず、リーダーの振る舞いそのものが見られていますよね、あと、リーダーが何に対して注目しているのかというのも下の人は見ていますよね。そうだとするならば、今、言われたみたいに、本来、リーダーシップの開発でまず、最初に変わらなければならないのはいちばん上ですよね。だってその人を下の人は観察学習しているわけですから。下の人のリーダーシップ研修の機会を設けても、職場に帰って上が変わっていないと、研修でやった内容がすごく嘘くさく見えちゃうじゃないですか。

楠田:そうですよね、下の方が研修を受けて戻ってきて、何か違うことをしていると、上から「お前、何かっこつけてんだ」とつぶされちゃう可能性があるかもしれないですね。

松丘:教育とか研修とか言うと、何を今さらのように感じられるかもしれませんが、そもそも自分の組織のビジョンを考えるとか、いったいどういう会社にしたいのかを考えるというのは経営レベルの方の本業というか、役割だと思います。ところが、そういう機会があまりないのが現実ですね。

楠田:今まではなくてもよかったのかもしれないですね。多分、今の50歳を過ぎているような事業部長くらいの人達というのは、過去はリーダーシップ開発というより、マネジメントというか、管理の研修はたくさん受けてきていると思います。

松丘:研修という意味ではそうでしょうが、私は大企業の上の方々の若い頃には、リーダーシップを学ぶ機会が今よりも豊富にあったのではないかなと思うんです。会社に入って数年たてば、自分にも何人か部下ができるという状況で、その中で自分はどうやって部下から信頼される存在になろうかと想像したり、いろんな人を観察して、ああいう風になりたくないとか、こういう所を盗んでやろうとか、自然に考えたりしたように思います。

楠田:無意識に内省していたということでしょうか?

松丘:無意識の内に、自分のどういう強みでもってリーダーシップを発揮しようかということを振り返る機会が、今よりずっとあったんじゃないかと思います。最近、係長復活などを行った会社の事例がありますが、ああいうことは内省の機会を作るという意義があると思います。若いうちからリーダーシップを意識するというのはすごく大事だと思うんです。年をとってから自分がどういうリーダーシップを発揮しようかとは、なかなか考えにくいですから。

>>(続き)内省する時間の不足が招く悪循環

» 経営・人事コラムトップに戻る


お問い合わせ・資料請求
人材育成の課題
キャリア開発

キャリア開発

個人の働きがいと組織への貢献を両立するキャリア開発を支援します。

リーダーシップ・マネジメント開発

リーダーシップ・マネジメント開発

マネジャーに必要不可欠なリーダーシップとマネジメント力を養成します。

コミュニケーション開発

コミュニケーション開発

組織や仕事に変化を起こすコミュニケーション力を養成します。

組織開発

組織開発

ビジョンと価値観を共有し成果を高める組織創りを支援します。

営業力開発

営業力開発

お客さまと自社の双方に大きな価値をもたらすことのできる提案営業力、組織営業力を開発します。

経営力開発

経営力開発

ビジネスプランの立案に必要となる知識と実践的なスキルを養成します。

人事向けメルマガ登録

PAGE UP