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- 【コラム】組織を『エナジャイズ』するリーダー(3): 「憧れの最接近領域」の中でメンバーは結束する
プロ野球はあまり詳しくないのですが、先日テレビを見ていたら、WBCで今年2連覇の偉業を成し遂げたサムライジャパンについて、非常に良い話を聴いたので、紹介したいと思います。
ご存知の通り、今年のイチロー選手は初めの頃の試合で期待されていたような成果が出せませんでした。「世界のイチロー」と周囲の高まる期待がプレッシャーになっていたのでしょう。マスコミや国民が騒ぐほど、彼のプレッシャーと孤独は強まっていきました。ところが、原監督はずっと試合でイチロー選手を使い続けたそうです。
その理由は、イチロー選手は、決して調子が良かったとは言えないその時期でも、いつも淡々と誰よりも早く来て練習を開始し、誠実に野球に向き合っていたから。「世界のイチロー」これだけの大物選手が悩み、苦しみながら己と闘っている生々しい姿を、若手の選手に見せたかったのだそうです。イチロー選手も、途中で自分を降ろして欲しいと監督に頼もうとしたそうですが、その監督の意思を知って、試合に出続けたそうです。
そうすると周りのチームのメンバーにも変化が見えてきました。「世界のイチロー」にモノは言えないと、萎縮して話しかけにくく感じていた周りのメンバーも、イチローのファッションを真似してマウンドに出たり、「彼を孤独にさせてはいけない」と皆でムード作りをしたりしたそうです。
そして、ここぞと言うところでイチローはやはり決めてくれた。そして、チームを優勝に導いた。その瞬間、彼は自分自身が出した成果が自分だけの力にはよらないこと、周りの支えがあって初めて出せた成果であることを、心から実感し、感謝したはずです。WBCの優勝には、技術や戦略的な強さだけではなく、監督やメンバーのお互いへの信頼や強い絆が存在していたこと、その上で出せたしかるべき成果だったことを知って、今更ながらではありますが、感動しました。
状況が良いときには仲間を信頼することは、比較的簡単なことかもしれません。ところが、思うような成果につながらないときに、どれだけお互いを信じることができるかが運命の分かれ道だと言えるでしょう。苦しい状況の中で、メンバーの「世界のイチロー」に対する期待や羨望が、人としてのイチローへの信頼に変化していった。きっと、優勝できてもできなくても、「この人と一緒に何かができて幸せだ」と彼らは既に思っていたのではいかと思います。それが、感動を呼ぶ物語になったのではないかと思います。
私が好きな言葉に「憧れの最接近領域(Zone of Potential Confidence)」※というのがあります。「この人とだと何かできそうだ」と他人含みの自信やワクワク感を持てる状態のことです。このWBCのケースだと、そのような領域を、イチロー選手を中心としてチーム内に作り上げ、苦しいときもそのワクワク感と希望を失わせないようにしていたのが原監督でした。組織をエナジャイズするリーダーが果たすべきはこのような役割だと思います。優秀なトップパフォーマーが一人組織にいるだけでは成果は出せません。お互いを人として信頼し、苦しい時期でもその苦しみをともに分かち合えること、その過程でお互いが成長できることが重要だと感じました。
WBCは、特殊なドリームチームに思えるでしょうか?いいえ、あなたのチームもきっと学べることがあるはずです。
参考)※『仕事を楽しくする思考法 プレイフルシンキング』上田 信行著/宣伝会議出版