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ロジカルスキルだけでは創造的なリーダーシップは生まれない(後半)

[2009.08.17] 松丘 啓司/佐々木 郷美

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 4.ロジカルスキルだけでは創造的なリーダーシップは生まれない

 (佐々木)創造を生み出す仕事の仕方とは一体どんなものなのでしょうか。単純にクリエイティブであればよいということではないですし、突拍子もない発想をすることとは訳が違いますよね。


 (松丘)ビジネスにおける創造の源泉は2つあると思います。一つはリーダーの思い。もう一つは異質なもの同士による化学反応です。まず、リーダーがこうありたい、こうしたいという思いがないと、未来を自分から切り開き、変化を起こすことは難しいものです。また、創造的なものは常に異質なものとの相乗効果から生まれます。同じようなことを考え、同じように振舞っている人の中では創造的なものは生まれません。異質なものとの関わり方、活かし方を理解する必要があります。

 過去10年くらいのリーダー教育は、次世代の幹部候補にロジカルシンキング的な経営戦略を教えるといった内容が主でした。もちろん、それらが必要ないというわけではありませんが、それさえ身につければ創造性が増すという誤解もあるのではないでしょうか。ロジカルなスキルやテクニックだけからでは創造は生まれないという説明が不足していると考えます。


 (佐々木)松丘さんは、スキルやテクニックだけでは創造的な発展がなかった、という経験は何かありますか?

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 (松丘)そうですね・・・前職でずっとコンサルティングをしてきた経験からすると、戦略のフレームワークや理論はアイディアを論理的に説得するためには必要ですが、アイディア自体はそこから生まれないと思うのです。戦略は仮説と検証を繰り返してゆきますが、検証の段階ではフレームワークは有益です。仮説の正しさを正当化するためにです。しかし、仮説段階では、フレームワークが情報整理の手助けにこそなるものの、そこから新たな考えは出てこないと思います。


 (佐々木)経営戦略を立案するには、そもそも経営者や幹部候補自身が、「リーダーとしてどのような状態を生み出したいか」という強い思いを持っていることが大前提ですね。


 (松丘)しかし、リーダーの思いが独りよがりであると、逆に間違った方向に進んでしまいます。リーダーの強い思いは重要ですが、周囲と調和させる力も同時に必要なのです。異質のものが調和する中から新しいものが生まれてくるわけですから、調和させる力がなければ創造的な仕事はできないものなのだと思います。


 5.現状では、リーダーシップ研修がマネジメント研修と混同されている

 (松丘)佐々木さんはいろいろな企業でリーダーシップ研修に携わっていますが、現在の企業におけるリーダーシップ教育の課題は何だと思いますか。


 (佐々木)リーダーシップ研修の受講者には、"うちのチームをこう変えなくては"、"メンバーをこのレベルまで引き上げなくては"と意気込んで参加される方が多いです。組織の問題点を解決するためにリーダーシップが必要であり、メンバーのレベルを上げることがリーダーに求められていると思われているようです。受講者の皆さんに理想のリーダー像をお聞きすると、"経験にのっとった説得力のあるアドバイスをしてくれる人"という意見が返ってきます。

 定められたゴールに向かってメンバーをペースセットする、的確なタイミングで確実なフィードバックを与えるのがリーダーシップだという感覚が、上司たちを観察する中で染み付いているのではないかという気がします。そのため研修では、受講者の皆さんにリーダーシップの定義自体を入れ替えてもらうところからスタートします。


 (松丘)リーダーというより、どちらかというと優秀なマネジャーがリーダーのイメージになっているということでしょうか。


 (佐々木)そうですね、部下マネジメントの領域だと思いますね。どうやってメンバーにやる気を出させ、自分で考えるように行動させるか。それももちろん大事なのですが、メンバーを所与の目標に対して向かわせる、という考え方から抜け出せていない気がします。

 リーダーとメンバーが関わり合うことによって、リーダー自身の戦略も変化したり、当初の想定とは違う新しいビジョンが出現したりすることこそが真のリーダーシップであると考えています。


 (松丘)私が思うのは、リーダーシップ開発は、何か一つのスキルや能力ではなく、全人格的なことに関わってくるということです。研修でコミュニケーションスキルや考え方を学んだだけでリーダーシップが身につくものではないのです。しかしながら、研修を提供する側からすると、現場に持ち帰って欲しいスキルを受講者に提供すれば、あとは本人の努力で何かやってくれるだろう、と期待したり、またそうせざるを得なかったりという事情があります。

 本当は、研修を受けて終わりではなく、その人がどういう職場でどういう経験をすれば、考え方や行動を変えていくことができるのか、という全体を見た上で学習をデザインしなければならないわけです。そのためには、人材開発部門の役割が研修提供の枠を越えなければならないと思います。


 (佐々木)特にリーダーシップ開発においては、受講者が取り組まなければならない課題は千差万別です。ある特定のスキルを取得すればOKというわけにはいきませんね。


 6.研修を通じて、「メンバーの心に寄り添う」リーダーを育成する

 (松丘)リーダーシップ研修の講師をしている中で、印象に残った受講者の反応やシーンはありますか。


 (佐々木)松丘さんのお話にもありましたが、リーダーシップは単なるコミュニケーションスキルではありません。ですから、研修後に受講者から「このコミュニケーションスキルはすごく役に立ちますね」と言われるとむしろ心配になってしまいます。(笑)スキルの習得以前に、リーダーとしてのあり方を見直さなければならないことに気づいてくれると、講師としては嬉しいですね。

 リーダーがメンバーと関わり合う存在になるためには、リーダーが「メンバーの心に寄り添う」ことが大切です。これは単に相手の話を聞くという以上の行為です。しかし、実際には「自分は聞くことすら十分にできていなかった」と気づく受講者は多いですね。

 グループ内で受講者同士がボールを順番に回し、ボールを持った人だけが話す権利を持ち、それ以外のメンバーはひたすら相手の話を聞かなければならない、というワークショップを実施することがありますが、相手の話を遮らずに聞き続けることがいかに大変なことかを痛感されるようです。

 また、自分ではコミュニケーションが得意だと思い、日頃からメンバーと積極的に関わるよう心がけていたけれども、それが返って周囲を威圧していたことに気づいてくれた受講生もいらっしゃいます。

 真のリーダーシップに気づき、自らの行動を変えていくことができる人たちをどれだけ増やせるかが、我々にとって今後のチャレンジだと思っています。

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(おわり)

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