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「よかれと思ってやったのに...」というマネジメントのパラドックス(1):明確な目標を打ち出すと、メンバーがモチベーションを低下させる

[2009.05.13] 小林 知巳  プロフィール


 マネジメントにはパラドックス(逆説)がつきもの?

 日々組織の運営に携わっているマネージャーの多くが、「マネジメントは思い通りにいかない」と感じているのではないだろうか。さまざまな意志や思考をもった人々の集団のマネジメントには、いたる所に落とし穴が潜んでいる。よかれと思って行ったことが、思惑とまったく異なった結果を生んでしまうことも少なくない。

 たとえば「情報共有を進めたら、人間関係がかえってギスギスしてきた」、「情熱を込めてビジョンや目標を打ち出したのに、皆しらけてしまった」、「チームの結束力を高めようとしたら、周囲とのいがみ合いが増えてしまった」などなど。振り返ると苦い記憶がよみがえる読者もいらっしゃるだろう。マネジメントには、パラドックス(逆説)がつきまとっているようにも見える。なぜなのだろうか?

 これから、主なケースごとに要因を考えていくが、「マネジメントの施策の結果は、その時々の組織状況に依存する」ということが共通して見いだせる教訓だ。そのため、一般的に見て正しいと思えることが、その時点の組織(組織を構成するメンバー)にとって、正しくないということが往々にして起こりうる。

 したがってマネージャーには、重要な施策を打つ前に、「今自分がマネジメントしている組織はどのような状況にあるのか」を、五感を研ぎ澄ませて察知することが求められる。組織状況を見極めた上で、組織が施策を受け入れるための土壌をととのえる作業を、必要に応じて先に行う必要があるのだ。

 本連載では、マネジメントのパラドックスの例をもとに、各々について組織状況を見極めたマネジメントのあり方について考えていきたい。まず今回は、「明確な目標を打ち出すと、メンバーがモチベーションを低下させる」という例を取り上げよう。


 個人別の売上目標を設定したら、部門の雰囲気が急に冷え込んだ

 あなたは、ある企業の事業部門のリーダーだとする。これまで、部門全体の売上目標は設定してきたが、個人別の目標はつくっていなかった。そこで今年度は、個人別に明確な売上目標をもたせることにした。もちろん、メンバーひとりひとりがやる気と責任をもって目標達成にまい進することを期待してのことである。あなたは、各人ごとの実績をもとに、公平に目標数値を配分した。

 しかし、期待はあっさりと裏切られた。部門全体に急速に冷ややかな雰囲気が広がったのである。ある中核メンバーは「こんな目標無理にきまっている」と公言してはばからない。別のメンバーは他人と自分の目標を比べて「なぜ、彼より自分の方が大きな目標を背負わなければならないのか?」と、詰め寄ってきた。言葉をつくして理由を説明しても「彼は楽をしている。不公平だ」の一点張りで納得しない。結局、前向きな態度を示したメンバーは、ごく一部にとどまった。

 なぜ、このような事態になってしまったのだろうか?

 ひも解く鍵は、その時の組織状況 -言い換えれば多くのメンバーが抱いている心情や認識- にある。

 このケースにおける組織状況を想像してみよう。たとえば、次のようなものが挙げられる。

 ・多くの者が上司(マネージャー)を信頼していない。
 ・個々のメンバー自身が自立していない(依存心が高い)。
 ・自分の処遇や置かれている状況に不満をもつ者が多い。
 ・目標未達や業績悪化などが続き、一種の「負けぐせ」がついている。
...など。

 こうした状況にある場合には、個人目標管理のような、業績へのプレッシャーを高める施策に対して、前向きな気運は生まれにくい。なぜなら、施策の対象者に期待する意識 -目標に対する責任感や達成への熱意、そして「きっとできる」という自信- が、その裏にあるネガティブな側面へと容易に反転してしまうからだ。責任感は責任転嫁へ、達成への熱意は反発へ、そして自信は諦めへと変わっていく。


 組織状況を見極め、施策を受け入れる土壌をつくる

 そうだとすれば、このケースでは、個人目標管理という施策を打つ前に、何をすれば良かったのだろうか?たとえて言えば、草木を植える前に土を耕すことが必要だった可能性がある。

 具体的には、次のようなものだ。日頃からきめ細かいフィードバックを行い、「上司は自分をバックアップしてくれる」という信頼感を築く。自分たちが手掛けている事業や仕事の意義を共有する。処遇についての疑心暗鬼を解消する。小さな成功や前進を称賛し「やればできる」という自信を持たせる。等々。

 こうした一見地道な行動の集積によって、組織内に少しずつ前向きな意識がはぐくまれる。そして、個人目標管理というマネジメント施策を受容し遂行する土壌が形成されていく。場合によっては、施策を実施しなくても、メンバーは自発的に目標を追及しはじめるかもしれない。

 一方で、本ケースのようなプレッシャーを高める施策をショック療法のように使用し、それを契機に組織の状況を変えようとする試みも見られる。しかし、受け入れの土壌が痩せている組織に急激に圧力を加えると、混乱や反発を招き、施策は根付かずに枯れてしまう可能性が高いと考える。

 次回以降、組織状況に依存するマネジメントを行う際に、どのようなことに配慮すべきかについて、さらに他のパラドックスのケースを題材に考えていこう。

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