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自己成長につながる学習サイクルとは何か?

[2009.04.06] 佐々木 郷美

「変わりたい病」に注意
今やちょっとした勉強ブームである。「○○術」とタイトルの付く書籍や雑誌、セミナーや講演会が巷に溢れている。「何かを変えねば」「変わらなければ」という半ば脅迫に近い危機感が漂っているように思う。例えば、皆さん、この半年間で読んだ本、受講した講座、セミナー、通った学校、取った資格類をリストアップして欲しい。その中で、実際に学んだことを実際に行動に移したり、仕事の中で活用したり、他の人と共有して内容を深め、進化させたものはどれくらいあるだろうか? また、それぞれの学習を通して、自分がどれくらい成長したと感じられるだろうか?

当然のことながら、学んだことは行動に転換されなければ意味がないし、成長につながらない。しかし、ありがちなのは、情報に触れた瞬間は「ハッ」とさせられ、「こんな風に活かそう」と思っても、その意識と行動がなかなか持続しない。→数ヶ月後、再び成長感がない自分に気付き、更に新しい情報やテクニックを求める、というパターンだ。あるいは、本を読んだり、セミナーに行ったりという勉強自体が目的になってしまい、「知った」「分かった」だけで、何か成し遂げたような自己満足に陥ってしまうケースもある。

自己啓発や能力開発に関する情報やツールが氾濫する中、真の自己変革と成長感に結びつくのはどんな「学び方」なのだろう。「学び」が持続するには、勉強が目的化しないためには、何が必要なのか、自分自身の反省も含めて考えてみたい。

自分の価値観やビジョンを考えてみる
まず、「何のために、なぜ学ぶのか」という目的の設定の仕方にポイントがある。学習や勉強以前に、そもそも自分は仕事や人生で何を大切にしており、どこに進もうとしているか、価値観やビジョンなどの内なる軸が明確だろうか? それらがある人は、自分のビジョン実現のために学習するという目的が見えており、学習の動機が主体的なものになる。必要に迫られた切迫感や危機感だけでは、どんなに高度な学習だったとしても、意識が受身になるため、学んだことが活かされる確率は減り、仮に活用されたとしても真の成長感にはつながらない。

興味深い事例として、ウィリアム・R・ミラーという学者は、アルコール依存症の患者を更正させる場合、カウンセラーが患者本人の見たがらない現実を強制的に直視させると、深酒をする確率が高まることを発見した。一方、カウンセラーが聞き役に徹し、患者が自分にとって大切な価値観や将来の希望を見出すのを助け、変えるべきことは自分で選択するよう支援する方がずっと効果的だった。自己変革に関しても同じことが言える。自分のよく知っている弱点と徹底的に向き合うだけでは、逆にその弱みを強化させてしまう場合すらある。弱みを改善するため必死に何かを学ぶが、試すとやっぱりできない自分に気付き、ますます自分の弱みへの確信を深めるのだ。

したがって、不安に駆られてやみくもに勉強するよりは、立ち止まって、自分は何を大切にしており、どこに進もうとしているのか、見つめなおす時間を取っていただきたいと思う。そのような内面の自己を知る作業は、書籍の中や学校だけでは決して行えない。

振り返って、再び、アクションを考える
自分の価値観、ビジョンといった内の軸を持ち、主体的に学習の目的を設定することが大切であることを述べてきた。そうすることで、知識も行動に転換されやすくなる。もう1つ重要なのは、それら新しい知識やノウハウを試した後、うまくいった経験もうまく行かなかった経験もあわせて振り返る、自己省察(リフレクション)のプロセスである。その経験が自分にとってはどういう意味があったのか、何を学んだのか、振り返ることで初めて、「では、次に何に取り組めば良いのか」新たなアクションが見えてくる。それがないと学習は完結せず、勉強自体が目的となって終わってしまう。次から次への新しい情報、アプローチを探していくだけで、学習のレベルが深まっていかないことになる。

自分の価値観やビジョンがはっきり見えていなければ学習の意味がないかと言えば、そんなことはない。新たな知識や情報を吸収する過程で、自分の軸が見えてくることもある。その際にも、やはり重要なのは、自己省察(リフレクション)である。

下記の図で示したように、「経験による学習」を提唱するデビッド・コルブ教授によると、真の学習は、経験と省察を繰り返しながら、ラセン状にレベルが高まっていく。しかし、学習の中には、同じレベルに留まってぐるぐる回っているだけのものもある。ビジネスを取り巻く環境が激変している中、我々、仕事を持つプロフェッショナルに求められる自己変革のプレッシャーも大きい。しかし、それに押しつぶされてしまうと、氾濫する情報の中、同じところを猛スピードでぐるぐる回るような学習になりかねない。

図1


自己変容の軸となる価値観やビジョンをしっかりと持ちながら、吸収した知識は行動に転換し、その経験を振り返る習慣を身につけることで、自己成長につながる学習サイクルを身につけていきたいものだ。

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