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ダイバーシティマネジメントとしての女性活躍推進 ~企業が戦略的に取り組むために~

[2009.01.06] 佐々木 郷美

近年、日本では、ダイバーシティマネジメントの一環として、企業内での女性の活躍を支援すべく、女性管理職を増やす目標数値を掲げたり、ワークライフバランス施策を積極的に導入したりする企業が業界・業態を問わず増えている。ある程度の規模の会社になると「女性活躍推進室」や「ダイバーシティ推進室」などの専門組織が設置されているところも珍しくない。しかし、これらの取り組みはすぐに目に見える成果が見える訳でもなく、他方で"女性優遇ではないか?""活躍することを女性自身も望んではいない"という声も上がることもあり、一体誰のための取り組みなのか、目的やメリットが見えにくくなり、活動そのものが目的化してしまうことも多いようだ。「今の時代どの会社もやっている」とブームに乗って始めるのは良いが、他社の事例を自社にそのまま適用してうまく行くほど単純には行かない。今回の特集では、ダイバーシティマネジメントが重視されるようになってきた背景を振り返り、企業内で推進するにあたってのポイントを考えてみたい。

なぜ、今、ダイバーシティマネジメントか?
 まず、「ダイバーシティマネジメント」が日本企業にとって重要な経営課題として取り組まれるようになってきた背景を確認しておきたいと思う。

ひとつには、企業にとっての人材の"量的"確保の問題がある。改めて強調する必要もないと思うが、日本の少子高齢化のスピードは先進国の中でもトップクラス。将来の労働力不足が避けられぬ問題として予測される。今後、人材の採用、定着に頭を悩ませなくてすむ企業はほとんどないだろう。総人口の伸びが期待できない以上、眠れる労働力として女性、シニア人材、外国人など、今までは十分活かされてこなかった属性の人材を潜在力として捉え、活用していこうと考える企業が増えているのも不思議ではない。また、個人のキャリア観も変化し、「女性は家庭に」「定年後は悠々自適に」といった固定観念に縛られず、一生通じて社会や組織に貢献すること、仕事の中で自己実現することを強く望む個人も増えてきている。組織に「個」を活かす力が備わりさえすれば、潜在的に戦力化できる人材の層も厚くなりつつある。

また、人材の"質的"確保の問題もあわせて存在する。情報化社会が進行し、市場がグローバル化する中、競争が激化する中、ホワイトカラーの生産性が企業の競争力を左右することも多くなってきた。そこで、本当に優秀な人材を確保したかったら、ボーダーレスに人材を採用せざるを得なくなる。求められる人材要件を見直すに迫られ、人材の多様化が進む企業も多い。極端な例では、シリコンバレーのベンチャー企業では、世界中から人材をリクルーティングするため、社員のほとんどが外国人という企業も珍しくはない。日本では同じことは実現されにくいが、IT企業中心に、優秀なエンジニアを求めてインド、韓国、中国といったアジア人材の採用が進んだのも、同じ理由である。言語の問題や法規制など、当面超えるべき障害や投資コストが大きいとしても、中長期的には、企業の競争力を高めると判断する企業は多いのだ。グローバル企業で先駆けて女性活躍推進が進んだのも、この流れが後押ししているし、最近では、同じ理由で、女性の離職率を下げることにより優秀な女性社員の流出を防ぎたいと真剣に考える企業は多い。

もうひとつ、ビジネス環境の変化として無視できないのが、顧客ニーズの多様化である。顧客が多様化に対応するため、自社の人材にも多様性を持たせる必要が出てきた。米国IBMがガーズナーの指揮の下、ダイバーシティ改革を推進した際、彼は「多様性は市場の問題としてとらえました。多種多様な文化が混在している市場をよく知るということです。」と語っていた。具体的には中小企業の経営者向け販路を開拓しようとしたときに中小企業の経営者に女性が多かったことで女性活躍推進が進み、障害者活用を進めることで障害者へのアクセシビリティの高い商品の開発で先駆けとなり、大きなマーケット開拓につながった。近年の日本でも、購買の意思決定に女性が大きな影響力を持つようになってきた流れを読み、電気機器メーカーや自動車メーカーの商品開発に女性社員が携わり、ヒット商品を世に出していったのも、「ダイバーシティ」が戦略的にビジネスの成果と結びついた成功事例である好例である。

今やほとんどの日本企業はこのような環境変化の影響を避けては通れず、「ダイバーシティマネジメント」に取り組むかが、中長期的な企業の競争力だけでなく存続自体を左右するようになりつつある。"女性のため"ではなく、"余裕がある会社"のための施策でもなく、企業の持続的な成長のため戦略的に手を打つべき命題だと言えよう。

そもそも、ダイバーシティマネジメントとは何か?
日本ではダイバーシティと言うと「女性活用」のイメージが強いが、ダイバーシティマネジメントとは本来、性差、年齢、国籍、学歴、職歴、雇用形態などの属性の異なる人材の有効活用だけではなく、一歩進んで、性格、価値観、ものの考え方や感性などが異なる多様な「個」の潜在力を引き出し、それを企業経営に活かすことを意味している。

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最近では、企業内の女性の活躍推進の文脈において「機会均等」より「ダイバーシティ」という言葉が使われることが圧倒的に増えているのは、まだスローガンの粋を超えない感があるものの、この目的観がシフトしつつあることの表れである。「機会均等」という意味では、キャリア機会に恵まれなかったマイノリティーとしての女性を擁護し、男女格差を縮めることは、確かに重要である。しかし、もっと重要なのは、女性の活躍が進むことで、より多様な視点を持つ「個」の発想、アイディア、ポテンシャルが引き出され、ビジネスの価値創出、イノベーションにつながることである。
したがって、「女性」は多様化すべき人材の一部でしかないし、そもそも"ダーバーシティ"(人材の多様化)そのものがゴールで終わってもいけない。本当のチャレンジは、多様な人材をどう"マネジメント"するかである。
 
まずは、現状を把握するところから
一言で「ダイバーシティ」と言っても、各社の事情は様々であるから、現状を正しく認識して、自社の戦略課題に結び付けて目的やメリットを明確にする必要がある。
 まずは、人材の"量"的確保という観点であれば、自社の社員構成(男女比や年齢別構成)、定着率・離職率、採用・教育コストなど、数値情報から定量的に現状を把握することで、課題が見えてくる場合がある。現在の社員構成が10年後、20年後にどのように変化するか?もう数年すると、シニア人材の技術伝承が課題になりそうだとか、バブル世代で介護問題を抱える人が増えそうだ、結婚を理由の対象者がある時期増えそうだと、という予測が立ってくる。すると、どの層に厚みや多様性を持たせることが企業にとって危機回避になるのか、「ダイバーシティマネジメント」を進める際の適切なターゲットや目標が明確になるだろう。

さらに、人材の"質"を高めたい、という観点であれば、自社の能力やポテンシャルを可視化し、現状を把握することも有効である。今後、戦力強化が必要になりそうな職種、職位に求められる人材要件を定義し、その要件を満たしそうな人材をどれくらい保有しているかつかむ。現場の勘だけに頼ると、どうしても「この職種は女性には無理だ」「このポジションには長年の経験が必要」などのバイアスを取り除くのが難しい。本当のポテンシャルを見極める意味では、統計処理された客観的なアセスメントなども活用し、参考にされることもお勧めする。

また、能力やポテンシャルだけでなく、モチベーションやキャリア志向性などソフトな面での社員の実態を把握することも、もちろん大切である。たとえば、自社の女性社員の中で、実際「いきいき」と仕事をしている社員はどれくらいいるのか?「ばりばり」働いているが燃え尽きそうになっている社員はいないか?「ぬくぬく」と居心地が良いだけで自社を選んでいる社員はいないか?「だらだら」と組織にぶら下がってはいないか?インタビューなどで、社員数や勤続年数などの表面的な数字の裏に隠れている、本音と実態を聴きだしてみよう。女性社員と一口に言っても様々である。本当に人材の"質"を高めたかったら、意欲ある社員から積極的に機会を与えていくとともに、ポテンシャルある人材がモチベーションを高く仕事に取り組める仕掛けも必要である。

また、「ダイバーシティ」を直接のビジネスに活かしたいという観点であれば、顧客のニーズはどのように変化しており、それは、将来的に機会、脅威となるのか?「機会」とするためには、自社内にどのような多様性を作り出さねばならないのか、経営陣を含めてしっかり議論される必要があろう。ここで面白いのは、顧客が「女性」だから、生かされるべき意見は単純に「女性」だという訳でもない。とある住宅機器メーカーで、主婦を顧客とするショールームの販売員に、男性社員を配置し始めたところ、売り場の雰囲気ががらりと変わって、評判が良かったという事例を聴いたことがある。これも功を奏した「ダイバーシティ」の一例であろう。均質な組織に多様性を持たせることで、硬直化した組織内の慣例や習慣を見直すきっかになったり、新しいサービスが生まれたりと、ビジネス革新につながっていくこともあるだろう。

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最後に、「個」の多様性を受け入れる土壌がどれくらい備わっているか、組織全体の意識の実態を把握しておくことも重要である。同じ属性や価値観の人間と働くことが楽でよい、と考える社員が多いと、当然ながらせっかくポテンシャル発揮が期待される人材にチャンスが与えられたとしても、現場でつぶされかねない。透明性のある評価制度や、人材配置の仕組みを整備したとしても、それが理想的な形で運用されなくなってしまう。人材の属性自体を多様化させるところまでは、ある程度どの企業も持っていくことは可能である。しかし、実際にそれを受け入れる土壌を醸成するには、さらに中長期で地道に取り組む必要である。今後の特集で、この多様性を受け入れる風土作りについても考えていきたい。

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