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これからの人材マネジメントに必要な視点(2)

[2008.12.16] 田島 俊之  プロフィール

 前回、これからの人材マネジメントには短期視点と長期視点の同時実現が必須であるということ――つまり、今ここの成果を生む人材を活かすことと将来の成果を生む人材の開発育成を同時に成すこと――と、人材開発には組織内に人材の成長を強く願うリーダーが存在する必要があることを述べた。今回はその実現に向けての具体的なポイントについて考えてみたい。


人材開発アーキテクチャの視点を持つ 

 アーキテクチャは単に設計思想ということだけではなく、何のための設計か、その実現のために何をどう創り込むかという想い・思想までを含む概念と捉えられる。人事システム構築や人材育成システム構築への想い・思想ということである。そこには人の成長を想い組織の成長を想う人事部長の志があるはずである。

 バブル崩壊以降の失われた10年の間にこぞって成果主義を導入した企業には人材開発アーキテクチャの視点はあったのであろうか?また、人事システムの抜本的再構築ではなく見直し手直しを繰り返した企業には見直し手直ししていい所としてはいけない所をきちんと理解していたのだろうか?

 ではこれからの時代を乗り切るための人材開発アーキテクチャの視点とは一体何であろうか。各社それぞれの課題や思想はあると思うが、私はその思想の根底に社員一人ひとりの動機をドライブさせることができる仕組みを盛り込むことだと思っている。成果主義の崩壊は、上位20%の成果実現層の業績が下がったからではなく、成果主義導入前に組織的な支えになってきていた60%の中間層のロイヤルティを下げてしまったことが大きな要因である。成果主義の崩壊により組織的な対応が意味を失っている現状では益々「個」に注目する必要がある。今一度、その60%の上下どちらにも展開する可能性のある中間層の動機をドライブして成果実現層へ近づけていかなければならない。いくらマネジメント研修やコーチング研修を実施し、社内イベントでコミュニケーションを図っても肝心の社員一人ひとりが芯からモチベートされていなければそれらの施策は全て付け焼刃に終わってしまう。組織・風土づくりはもちろん人材の開発育成システムなど人材開発の枠組み全体が「個」の動機をどれだけ誘発できるかという視点から構築されている必要があると思う。

 最近、インナー・ワーク・ライフ(T.M.アマビール&S.J.クラマー「知識労働者のモチベーション心理学」)の視点が仕事へのモチベーションを高めるうえで注目されている。これは個人の身の回りに起こる職場での出来事は全て個人の「認識」と「感情」の相互作用によって解釈されて「モチベーション」に作用し何らかの「行動」に結び付くという考え方である。「認識」とはその個人が持つ仕事の意味とか価値観、物事の考え方や捉え方の癖であり、「感情」とは単純に好き・嫌い、嬉しさ・悲しさ・怒り、幸福感・挫折感・不安感などを指す。「認識」と「感情」は外部からの刺激に対して一瞬にして相互作用し「モチベーション」に影響するが、逆に「モチベーション」を上げるためには「認識」と「感情」をコントロールすれば良いということになる。しかし、「認識」は個人の価値観や物事の捉え方の癖などに影響されるし、「感情」は自然発生的に湧いてくるもので、両者ともそう簡単にコントロールできるものではないだろう。しかし、私は、ここにこれからの人材マネジメントに必要な視点があると思っている。仕事の成果を創出するためには「モチベーション」が高い状態での「行動」と「モチベーション」が低い状態での「行動」(あるいは「行動」に至らない状態)にどれほどの差があるかは明白である。つまり、組織・風土、人材の開発育成システムなど人材開発の枠組み全体をインナー・ワーク・ライフの視点を以って構築することが重要なポイントとなる。

人事部長の役割と現場連携

 新たな時代に必要な人材マネジメントは成果業績達成という短期的視点と将来の強い組織を構成する人材育成という長期的視点の両面を実現するシステムであると述べた。また、人材開発の本質は人の育成システムにあると述べた。これからの人事部長の役割はこれらの仕組みを構築しその仕組みの上を人が繋がっていくようにフォローし続けられるストリームを創ることであろう。ここで重要なポイントは人材育成への志・思想を次代へ継承できるようにフォローし続けることである。何故なら今ここで活躍している(成長してきた)人こそがこれから活躍できる人を育成することができるからである。

 具体的に人事部長がやるべきことの第一は、人材の開発育成を10年単位程度の時間軸で捉え今の人の成長が次代の人の成長へ繋がっていくシステムを再構築していくことである。人事部長としての人材開発アーキテクチャの視点を盛り込んだ全体構想づくりである。
第二にその仕組みを現場で動かし続けるための運用のサポート体制を整えることである。組織が専門分化しまた複雑化していくなかで組織内のコミュニケーションはもちろんチーム間の連携などよりきめ細かいサポートが必要となるだろう。人事部員がもっと現場へ出向いてサポート体制を築くべきである。全体構想を理解した人事部と現場の連携が重要になる。
第三に現場での人材育成リーダーの養成を急がなければならない。人材開発アーキテクチャの視点を盛り込んだ全体構想を現場で実践できる人材育成リーダーである。この人材育成リーダーは人材育成への志・思想を次代へ繋げていく役割はもちろん他に次のようなことも実践する。成果主義の浸透は少数精鋭体制を推進し結果として先ほど述べた60%の中間層への良質な仕事経験の機会を減らすことになってしまった。ロミンガー社の調査でも明らかなように、人を成長させる一番重要な要素は仕事そのものを通じての経験学習である。成長できる仕事経験の減少を仕組みでカバーする企業ごとの経験学習モデルを構築し、現場の一人ひとりの成長のステップに合わせた順序やタイミングでその経験学習モデルを運用するのも人材育成リーダーの重要な役割になると思う。

 これらは全て人事部が現場に出て行き現場を強力にサポートしていかなければ実現できないことである。

 以上述べてきたように、これからの人材マネジメントは、人材開発の枠組み全体が「個」の動機をどれだけ誘発できるかという視点から構築されていることが重要なポイントとなるだろう。その上で人の動機に呼応できる組織・風土、しっかりとした人材開発アーキテクチャを盛り込んだ人材開発育成システム、全体構想を創る人事部と現場における育成をサポートする仕組み等々が実現し、そして何よりその組織内に人の成長を強く願う人材育成リーダーが多数活躍している状態こそが、そこに集う人の成長と組織の成長を両立できるのではないだろうか。

以上

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