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受講者をもっと「悩ませる」研修を

[2008.12.02] 小林 知巳  プロフィール

最近の事業環境の悪化に伴い、経営からの研修効果への視線は厳しさを増している。企業の人材開発部門は、研修の投資対効果の把握と向上に腐心してきたが、今後さらにその要請が強まるだろう。研修コースをふるいにかけ、効果の高いものに絞り込む動きが加速する可能性もある。
今、改めて「効果の高い研修とは何か?」が問われていると言ってよいだろう。
研修の設計スタンスを再考してみる好機でもある。

まず、問いかけをしたい。
皆さんは、次の2つのケースを読んで、どちらの研修の効果が高いと評価されるだろうか?

ケース①
受講者は、マネジメントの体系的な知識について講師から丁寧に説明を受けた。
知識を学んだ上で、上司役と部下役を交代で担うロールプレイを通じて、コミュニケーションや部下育成についての実感も掴むことができた。研修内容への納得感が高く、ロールプレイ時の講師のアドバイスも的を射ていると感じたので、研修後のアンケートには高いスコアをつけた。

ケース②
受講者は、ロールプレイを反復しながら、講師に繰り返し部下とのコミュニケーションの問題を指摘された。
さらに、事前のアセスメントによって、自分自身のマネジメントを部下から評価され、自己評価とのギャップをつきつけられた。「こうしたらよい」とのアドバイスはほとんど受けないまま、ひたすらマネージャーとしての未熟さに直面せざるを得なかった受講者は、次第に自分自身に、そして講師に対しても腹が立ってきた。
研修後のアンケートには、やや大人気ないとは思いつつも低いスコアをつけた。

もちろん以上の情報だけで、どちらの研修の効果が高いかを一概に判断することはできない。
この例をもとに考えたいのは、研修後の受講者評価をどのように解釈するか、である。研修直後における評価スコアの高低は、受講者の納得感が反映される場合が多い。
「今まで分からなかったことが分かった」、「新たなことに気づかされた」、「これからの方向性が見えた」などの感慨を抱くと、肯定的な評価がなされやすい。
一方で、「もやもやとしている」、「混乱した」、「これからどうしたらよいか分からない」などといった思いは、否定的な評価につながりがちである。

だが、納得感によって研修の本質的な価値は評価できないと考える。ケース②のように受講者の怒りや反発をかった研修の方が、思考や行動の変化を引き起こすことも十分あり得る。
怒りまで行かなくても、「今の自分に危機感を持った」、「自分は変わる必要がある」などの、今後の行動変化の兆しを示す感想で十分ではないか、との意見もあろう。しかしこの程度の感想では、多くの場合行動変化にはつながらない。自分を客観視する余裕が窺え、まだ「気づき」の段階にとどまっているからだ。

研修において「気づき」を与えることの意義が認識されてきているが、受講者の行動変化を引き起こすためには、気づきでは不十分だ。気づきを越えて、講者の内に矛盾や葛藤を引き起こすことを、研修設計においてもっと意識する必要があるのではなかろうか。

なぜなら、人は、今の自分を肯定している限り、成長することはできないからだ。そして今の自分と決別するためには、険しい葛藤のプロセスを経なければならないからである。

また、人は自分の内に深刻な矛盾を抱えてはじめて、その解決を自ら真剣に考えはじめる。
そうでもない限り、外からの答えを求めがちだ。安易に答えや方向性を与えることは、自分で考える機会を奪い、思考停止をもたらすことにもつながる。研修内容を「理解できた」、「納得した」という評価は、満足の高さを示すものではあるが、受講生に十分思考させることができなかった証左とも解釈しうる。

葛藤を抱えることを契機に、その解決のために自身で思考し行動することが、学ぶという行為だという認識に立つと、研修はあくまでスタートラインであり、学びの本番は当然その後である。
受講者の成長プロセス全体を視野に入れ、もっと自己矛盾や葛藤を引き起こす研修を考えていく必要があるのではないだろうか。

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