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人生も仕事もハッピーに充実させるためには?

[2008.05.21] 佐々木 郷美

 あなたは今、どれくらいイキイキと仕事をし、プライベートを含めた自分の人生を楽しんでいるだろうか?仕事でお疲れのビジネスパーソンが巷にあふれ、人生全体の満足度を高めるために、ワークライフバランスを回復せねばならない、と近年言われるようになってきているが、実際、何をどうバランスさせることを意味しているのだろうか?何を持って人は人生にバランスを感じるのだろうか?最近、私が読んだ『フロー体験 喜びの現象学 M.チクセントミハイ著/今村 浩明訳』は、このテーマに対して興味深い視点を提供してくれたので、少しご紹介したいと思う。

 誰しもが求める幸福感、充実感とは一体何なのか?著書の中では、それを心理学用語でフロー体験(人の意識が集中し、調和と秩序が保たれている状態。心理的なエネルギーの流れに無駄が無い状態)と定義している。一般的に、人がフローを経験するのはどういう時かと言えば、心配事なく、受動的にリラックスしている状態かと言えば、必ずしもそうではなく、難しい課題に挑戦し、それを達成するため意識を集中させて努力している、その瞬間にこそ充足感を感じる。このことは、我々一人ひとりも実体験を通して納得できる事実だろう。著書の中で興味深い調査を実施しており、ビジネスパーソンに仕事中と仕事以外の時間で、フローを感じる頻度と強さを答えてもらった。そこでは、多くの人は仕事において満足感やフロー体験を感じる頻度が圧倒的に高く、プライベートでリラックスしている時にフローを感じることがほとんどない、ということが分かった。また、ビジネスパーソンの仕事の不満の第一位は、仕事で成長感を感じられない、もっとチャレンジングな仕事をしたい、という項目なのだ。ここにちょっとした矛盾がある。多くの人がなるべく仕事の時間を減らし、もっと余暇に時間を費やしたいと願っている。しかし、単純に余暇を増やせば、人生全体の幸福感や充足感は高まるのだろうか?

 最近、仕事はつまらない変化のないものと考え、挑戦的な要素はないが楽で楽しいプライベートな活動に安らぎを求める傾向が、多くの人、ことに若い方々の間に多くなっているように私は感じる。キャリア研修で色んな企業にお邪魔していて気になるのが、20代、30代の前途有望な若手社員の方々が、自分に力も経験もあって全てが実現できるとしたら何をしたいか、と問いかけた理想の自分の将来のイメージが、のんびりと田舎暮らしをしたい、何もせずに"ぼおっ"としたい、というイメージに終始しがちなことである。LOHASが流行りでもあるので、決してそれが悪いことだとは思わないし、私自身も個人的には憧れはある。ただし、それが「最高」の状態か、というと何かが不足しているような気がしてならない。そのような声を聴くと、私たち、特に都市に住むホワイトカラーのビジネスパーソンにとって、いつの間にか、仕事と日常生活が大きく乖離するようになってしまっている実態を感じてしまう。
 

 比較のために、私は夫の実家が農家なので、農業の生活スタイルを例に取ると、どこからが仕事でどこからが家庭生活なのか、非常に線引きがしにくい。早朝起きて野菜を車に積み、子供を起こして一緒に市場に行く。その道中が家族の対話の時間になり、食事の支度と家事、畑仕事に地域の集合、深夜まで財務や経理をこなす。女性も子供も農作業を行うし、男性だって台所に立つことがある。夫婦で分業しながら、24時間仕事だとも、24時間家事をやっているとも言える。しかも、一つ一つのタスクが驚くほど変化に富み、つながっていて、クリエイティブかつチャレンジングでもある。農業に従事している人にとって、「仕事をしている」という実感よりも、「生活をしている」という実感の方が強いのではないかと思う。

 一方、私たちの仕事や生活を振返ってみると、色んな活動が分断され、複雑になってきている気がする。仕事は高度化、複雑化し、専門性が求められるようになってきた。自分の仕事が全体のどこに関わり、どう貢献しているのか、肌で感じることが少ない。仕事の難易度が高まっている分、多くの人はそこで達成感を感じ、フロー体験を経験するにも関わらず、逆に、もっと成長しなれば、もっと有能にならねば、という絶え間ないプレッシャーにさらされることにもなる。ホワイトカラーの働き過ぎ、ストレスが問題になっているが、成果主義などの組織側がかける圧力だけの問題ではない。個人も、勝手に仕事にのめり込んでいる可能性が高い。一方、余暇の方は、お金さえ出せば、一流ホテルの味も、世界級の音楽家の音楽もすぐにお手軽に楽しめるようになっており、意識を集中させたり、努力を傾けたりする必要性が軽視されがちなことも影響しているかも知れない。余暇が大切だと言いながら、本当の意味でプライベートを生産的に過ごせている人は、少なくなっているのではないか、と感じる。

 では、どのようにしたら良いのか?昔ながらの牧歌的なライフスタイルに戻れるわけではないし、その選択肢は多くの人にとって現実的でないだろう。だとすれば、分断され、対立しがちな私たちの仕事と生活をうまく統合し、どちらの活動からもフロー体験をできるデザインを工夫していく必要があると思う。費やす時間のバランスを取り戻すことだけでは不十分だ。仕事にもっと「遊び」の要素を取り入れても良い。目の前の成果だけでなく、仕事のプロセスからも何か発見し、学び、楽しむ工夫である。そして、プライベートな活動にももっと「こだわり」や「真剣味」を加味することもできる。実は、自分の人生のどんな小さな活動からも学べる、楽しめる"自分"を取り戻すことが、一番大切なのであろうと思う。一見平凡に見える日常の活動にも、何か没頭し、集中できていれば、人は自然と幸せだなあ、と感じるのである。では、具体的にどんな工夫や心がけが役に立つのか、次回、引き続き考えてみたいと思う。

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