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これからのキャリア教育と組織マネジメント (1)

[2008.01.07] 小林 知巳  プロフィール

諸刃の剣であるキャリア開発

最近、キャリアあるいはキャリアアップという言葉がずい分と浸透してきました。社員のキャリア開発のための教育に力を入れる企業も増えてきています。
しかし、一方で、キャリアというキーワードがその本来的な意味を吟味されないまま使われたり、キャリア開発教育が多少安易に行われてしまっている傾向もあるのではないでしょうか。
実は、こうしたいわばキャリアの「濫用」は、人材育成や組織成長にとって危険であると考えています。

なぜなら、キャリアアップとは、言い換えれば「自立する」ことを意味するからです。自立しているとは、例えば、自分のことは自分で決めるという意欲(自己決定願望)を持ち、自分自身の心身の状態を見つめながらモチベーションやワークライフバランスなどの自己管理を実践できる状態。そして、市場価値のある専門能力によって、組織に依存せずに自力で仕事が遂行できる状態を指します。
終身雇用が象徴していた、組織が個人を高い忠誠心と引き換えに丸抱えする関係が崩れた現在において、個々人がキャリアアップや自立をめざすのは必然だと言えるでしょう。企業にとっても、自ら主体的にスキルを磨き仕事のレベルを上げることのできる自立した人材の増加が望ましいことは言うまでもありません。
しかし一方で、個人の精神的、能力的な自立の追求は、企業組織からの離反に行き着く可能性が高いことも事実です。企業が社員のキャリア開発を支援するほど、戦力人材の流失リスクを抱えるという皮肉が、現実のものとなっています。

内と外とのバランスを重視したキャリア開発教育

個人にとっても、闇雲に転職を繰り返すようなキャリアが必ずしも幸福であるとは限りません。明確な目標にもとづく転職であれば良いのですが、場当たり的な転職は、長い目で見るとかえって市場価値を減少させてしまうことが多いからです。
この観点から、若手層などに対するキャリア開発教育は、その内容を慎重に再検討する必要があります。個人のモチベーションや特性の自覚など「内面」の分析に偏ってしまう研修も見受けられますが、それだけでは、個人の成功のみを追及し身勝手な自立を促すことになりかねません。個人が価値ある仕事をする上で組織や環境との関わりを避けて通ることはできないのであり、「外界」への貢献を通じて自分を活かすことが、最終的に幸福なキャリアの実現につながる。そのことを実感し本質的な自立を支援するためにも、自分が働いている企業の戦略や事業環境を正しく理解し、外界との関係の中で自分自身をどう位置づけるかを深く考えさせる教育が必要です。
個人にとって組織から距離を置くことが必ずしも自立の前提ではないのです。今働いている組織の目標達成に貢献する「接点」を粘り強く見出し、自分を活かしながら成功体験を積むことも本質的な自立への道になり得るのだということが、もっと理解されるべきでしょう。

人材育成の土台となる組織マネジメント

一方企業においては、社員個々人が組織との接点を見出し、キャリアアップしていくためのさまざまな機会や場を提供することが、これまでになく重要になっています。
例えば、社内のあらゆる仕事の情報をオープンにし、その仕事に必要な能力の獲得を条件に、誰にでも挑戦する機会を与え、必要能力の獲得をサポートする教育システムを充実させる。あるいは、クロストレーニングなどを通じて、企業内に存在する多様な仕事を認識させ、新たな自分の適性に気づく機会を提供する。など、社員の自立を促しながら、組織との接点を見出すための仕組みに工夫を凝らす事例が徐々にではありますが増えてきています。
さらに、こうした仕組みの充実だけでなく、企業の屋台骨を支えるミドルマネジメントの意識も重視すべきです。最近、管理職に対して部下との接し方やコーチングなどの研修を行う企業が増加しています。もちろんこうした教育は重要ですが、技術面の教育に偏ると、操作主義に陥り、かえって部下の不信を招くことにもなりかねません。部下の育成に対する責任感や心情への共感などの意識面に軸足をおいた管理職教育の重要性が今後ますます高くなるでしょう。
社員が組織との接点を見出し自身を活かすための「仕組み」と、管理職の部下育成への「意識」。これらは、個人の本質的なキャリアアップの土台となるものです。そして今後このような土台を築けない企業組織は、し烈な人材獲得競争から脱落せざるを得ないと言っても過言ではありません。

自立と定着の両立をいかに実現するか

個人の本質的なキャリアアップを促すための教育と、その土台となる組織マネジメントは、まさに人を育み企業を成長させるための車の両輪と言えるでしょう。それぞれの内容もさることながら、両者の整合性の確保が大切であり、いずれが欠けても逆効果となります。両者の最適な組み合わせによって初めて、人材の自立と定着の両立(=離反と依存のジレンマからの脱却)が実現できるのです。(続く)

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