経営・人事コラム

人事コラム バックナンバー

個と組織の活力をどう高めていくか

[2007.09.01] 小林 知巳  プロフィール

人材・組織モデル革新の必要性

日本は、これから人口減少がますます進んでいきます。人口減少は消費力と供給力の双方において、日本の経済成長に大きなマイナスのインパクトを与えます。消費の面では、国内の消費力が次第に低下していく中で、国内需要の創造や国外ビジネスの拡大が求められます。一方、供給の面では、人口減少が進む中で一人当たりの生産性を向上させ、またダイバーシティマネジメントに本腰を入れて取り組まなければなりません。日本企業は、このような状況を十分認識して、これからの組織づくりやマネジメントを行っていく必要があります。

将来の人口動態を踏まえれば、GDPの規模では、中国やインドの台頭によってアジアにおける日本の存在感は大幅に低下しますが、一人あたりのGDPは今後もさらに伸び続けると予測されています。但しその実現のためには、企業は一人ひとりの生産性を向上させること、そして、一人ひとりの豊かさを支えることに力を入れる必要があります。「豊かさ」には、金銭的な部分だけでなく、精神的な部分も含まれます。個々人が自分の望むワークスタイルやライフスタイルを選択し、それを全うできるように企業がサポートできる状況にならなければなりません。多様化する個々人の豊かさへの希望や価値観を、企業がいかに受け入れて手助けしていけるかが、今後も日本が一人あたりのGDPを伸ばし続けていくための1つの課題になります。

各国の実質GDPに占めるサービス産業の付加価値割合を見ると、日本は米国に次いで割合が高くなっています。もともとサービス業は製造業に比べて生産性が低い産業でしたが、この20年の間にIT化や知識水準の向上などで生産性を高めてきました。しかし、その生産性の伸びが、ここ最近頭打ちの傾向にあります。これは、今までの右肩上がりの成長を支えてきた日本のシステムが、通用しにくい部分が出てきているためです。サービス業は人に支えられている部分が多いので、人をうまく活かす経営能力を備えることが、企業の今後のテーマになってきます。これまでの組織やマネジメントのあり方を変えていくべき時にきているのです。

戦後の高度経済成長期は、組織が非常に重視された時代でした。組織に人を従属させ、その見返りに終身雇用、年功序列で個々人の生活を保障するシステムが続いてきました。しかしバブル経済が崩壊して、従来のシステムでは立ち行かなくなります。そこで組織はフラット化されて階層構造が圧縮され、終身雇用・年功序列が成果主義に変わり、人材の流動化が起こりました。この変化は、どちらかというと人材を活かすという視点よりも、経営の効率化への要請から行われたものです。つまり、人を組織に従属させて組織目標にまい進させるという根底の部分はそのままで、表層的な部分のみ変革が行われたために、現在はかなり混乱した状況にあるといえます。ですから、今このタイミングで、新たな組織マネジメントの仕組み、人を活かす仕組みをつくっていく必要があるのです。

人と組織の問題とその根底にあるもの

最近、人や組織に関する問題が増加しています。以前は組織に対するコミットメントが強かった人たちが簡単に離反していく「組織の求心力の低下」。なかなか新しい取り組みが前に進まず、社員もリスクをとってチャレンジしようという気持ちを持たない「創造力の低下」。情報が共有されず、不祥事の原因にもなる「組織の風通しの悪化」。さらに「処遇への不満」「若手の疲弊」などが挙げられます。これらの問題には、企業固有の要因がもちろんありますが、その根底には、先述の時代背景による共通の要因が横たわっており、双方の要因を認識する必要があります。

私たちが実施している組織診断の結果を見ると、さまざまな組織の問題の背景には、コミュニケーション、意思決定、フィードバック、ビジョン・目標、資源配賦などの共通する要因が見られます。概観すると、求められているのは「きめ細かい対話」を通じた「組織の考え方の明示」です。従来は「あうんの呼吸」や「そのうちわかる」といったやり方が通用してきましたが、最近はそれがなかなか通用しません。なぜ明示的なマネジメントが求められるのか、その背景を考えてみましょう。

バブル期の前と後で、組織と個人の関係は大きく変わりました。バブル期以前は組織が個人を丸抱えする関係でした。現状に不満があっても、ある程度勤め上げれば役職に就けて昇給も果たせるという信頼関係によって、個人は組織に高いロイヤリティを提供することができました。バブル期以降になると、終身雇用が崩壊し、ポストが減り、成果主義によって短期間で成果を出すことが求められるようになりました。個人にとっては、今まで丸抱えしてもらっていた組織から突き放されたような状況になったわけです。かつては組織そのものが個人のアイデンティティでしたが、今は他のより所を模索することが求められています。

バブル期以前のように組織と個人の接点が非常に大きい状態では、個人の満足と組織の有効性は調和します。しかし接点が縮小し、個人が自立と成果を求められるようになると、組織の目標を追求することが個々人の満足に必ずしもつながってこない、むしろ対立しやすい状況になります。

もう一つ重要なことは、個人の意識も変わってきているということです。組織との接点が縮小したことによって、個人は組織に頼らず自立していかなければいけないという危機感を無意識に抱いています。さらに個人の価値観が多様化していることによって、組織に対するスタンスも多様化しています。

組織に対する個人のスタンスを類型化すると、「自立型」「適応型」「依存型」の3タイプに分けられます。自立型人材は、組織に頼らず、自立しようという価値観を持ったタイプで、組織から離反していく傾向があり、会社にどう貢献していくかというより自分の市場価値をいかに高めるかを考え、常に有利な転職チャンスをうかがっています。適応型人材は、無理を伴っても何とか組織に表層的に同化し、そこで生き抜こうとするタイプで、場合によっては組織における処世術を身につけてうまく立ち回ろうとします。依存型人材は、自立もできず組織にもうまく適応できないタイプで、適応障害を起こし、不安や不満が蓄積します。こうした状況は水面下で進んでいる可能性があり、反応が先鋭化すると、自立型の場合は唐突な転職につながり、適応型の場合は不祥事を隠したりセクショナリズムを助長し、依存型の場合はメンタルヘルス上の問題を発生させる可能性があります。

組織と個人の接点の縮小に対する反応の違いが顕著に表れるのが世代間の意識の違いです。世代間のジェネレーションギャップは従来からありましたが、最近では、単に世代間の格差で割り切れないくらい拡大しています。これは自立型が比較的若手に多く、適応型は比較的ミドル以上に多くなることから生じていると考えられます。

個を活かす組織のコンセプト

企業と個人の接点が縮小し、それに合わせて個人の意識や組織へのスタンスが多様化する中で、異なる個人をいかに動機付け、成長させるかが、今後の組織マネジメントの課題になります。ただし、それは決して現状の組織に満足させることではありません。私が危惧するのは、本質的なことを考えずに満足度を上げることに力を入れることです。極端な例で言えば、従業員満足度調査を行い、給料に不満があれば上げるといった対応です。満足度を下げていると思われる直接的な要因が、必ずしも問題を生んでいるというわけではなく、もっと複合的な要因に目を向ける必要があります。

新たな組織と個人の関係において、冒頭で示したような難度の高い目標を追求するためのマネジメントの課題を突き詰めると3つに集約されます。第一に、限られた接点の中で、多様な人材の組織への求心力とコミットメントをどう引き出していくか。第二に、人材の多様な持ち味をどううまく引き出していくか。第三に、個々人をどう共鳴させて相乗効果を生み出していくか。この3つの課題が重要になってきます。

各課題へのアプローチは、大きく分けると2つのタイプが考えられます。1つは「導き出す」。トップを含めたマネジメント主導でリーダーシップを発揮し、多様な人材を牽引していくやり方です。もう1つは「醸し出す」。マネジメント側が黒子に徹して、メンバーの主体的・自発的な活動を手助けしていくやり方です。この2つは、どちらがいい悪いということではなく、それぞれ特長があります。「導き出す」タイプは、確実性が高くコントロールしやすく、成果実現までの時間が短い。一方の「醸し出す」タイプは、主体性や自発性を引き出せ、文化として浸透・定着させやすい。これらの特長を踏まえて、組織や人材の体質、事業の性格、置かれている状況、目指す成果などに応じて、2つのタイプをうまく組み合わせ、使い分けていくことが必要です。

» 経営・人事コラムトップに戻る


お問い合わせ・資料請求
人材育成の課題
キャリア開発

キャリア開発

個人の働きがいと組織への貢献を両立するキャリア開発を支援します。

リーダーシップ・マネジメント開発

リーダーシップ・マネジメント開発

マネジャーに必要不可欠なリーダーシップとマネジメント力を養成します。

コミュニケーション開発

コミュニケーション開発

組織や仕事に変化を起こすコミュニケーション力を養成します。

組織開発

組織開発

ビジョンと価値観を共有し成果を高める組織創りを支援します。

営業力開発

営業力開発

お客さまと自社の双方に大きな価値をもたらすことのできる提案営業力、組織営業力を開発します。

経営力開発

経営力開発

ビジネスプランの立案に必要となる知識と実践的なスキルを養成します。

人事向けメルマガ登録

PAGE UP