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保守化する上司と部下

[2007.08.09] 中田 研一郎

今日の企業が課題を抱えている層に、バブル採用世代と、若手世代の2つがある。まず、バブル採用世代についてだが、この世代が非常に保守化している。企業のフロントラインである中間管理職の保守化が日本企業にとって非常に大きな弊害になるのではないか、という問題意識がある。それに加え、若手世代は3年以内に3割以上が離職する。企業によって濃淡はあるが、ひとつの社会現象として提起されている問題があるのだ。

 バブル採用世代にとって、これまでの企業はまさに「ファミリー」であったが、現在では個人が自分のキャリアに責任を持つよう、企業側のスタンスが変わった。それによって個人にはライフバランス力とキャリアデザイン力が求められるようになった。
ライフバランス力とは人生全般のバランスを取って、人生そのものを充実させる力である。最近ワークライフバランスという言葉が非常に叫ばれ始めているが、実のところ、ワークとライフがほとんどバランスしていないのが日本の現実ではないか。
 またキャリアデザイン力は、自立した社員としてキャリア形成を果す、リスクテイクできる人間になるか、それとも会社にぶら下がる社員になるのかを指す。リスクが恐いからといって取らない人は、実は人生で最も高いリスクをとっている人といえる。

 また若手の問題。実際のところ、人事担当者が「新人は3年以内で辞める」ことを当たり前と思って、人を消耗品のように扱っている企業すらある。逆に、3年以内に辞める人が1~2%ぐらいしかいない、そういった企業もある。
 辞める方の動機というものを分析してみると、二極化現象があるように感じる。1つめは、「仕事が自分にあわない、つまらない」「賃金や労働時間などの条件がよくない」こういう動機で辞める若手。1年以内に辞める若手の4割がここに属する。2つめは「会社に将来性がない」「キャリア形成の見込みがない」こういう動機で辞める若手だ。3年以内に辞めた若手の約4割の方がそう感じている。
 私は、会社を3年以内に辞めるのは良くないことかといえば、YES&NOだと思う。どこかこの広い世の中に「私にピッタリの会社がきっとあるに違いない」と思って辞める。このような若手を「青い鳥症候群」と呼んでいるが、同じことをまた繰り返す可能性が高い。キャリアアップではなく、転職を繰り返すたびにキャリアダウンになっていく可能性が高い人達である。
 それに対して現実に行動力があり、自分のキャリアについて非常に真剣に考えている場合。問題はどっちにあるのかというと、会社側である。入社後3年で、この会社に将来性がない、と思わせてしまう会社とは。キャリア形成の見込みがないと希望をなくさせてしまう会社とは一体何なのか。「石の上にも三年だ、がんばれ。」と言って解決する問題ではないものを内包しているのではないか。
 今年の7月のデータによると、若手もかなり保守化をしつつある。「実力主義の企業と年功主義の企業とどっちを選びますか」と言う問いに対し、かつては圧倒的に実力主義の企業だったのが、2007年から実力主義よりは年功の方がいいという若者の数の方が多くなった。これは恐ろしいことで、22歳でもうぶら下がりを決意している。

このようなバブル世代と若手。これは世代の特徴かというと、一見世代の問題に見えるが、日本の企業のマネジメントに根本的な原因があるのではないか。
 それは何か。日本は先進国の中で最も長く働いているにも関わらず、最も生産性が低い。その理由は「働き方が悪い」からだ。残業を月150時間やっている人が200時間にしたら更に良いアウトプットがあるのかというと、今度は逆にマイナスに落ちる。より働くことによって、成長するのかというと、そうはならないのだ。
 リスクを取らない上司、部下がぶら下がり。だとしたら、そのチームは何か創造的な新しいことをできるだろうか。そうすると、10時まで残業しても残業代稼ぎをしているだけで、新しいことは何も起こらない、そういう企業になる。
 上司としては、やはり本当の意味のプロにならなくてはならない。プロとは、自分に任せてもらえると断言できる専門分野があり、難しい仕事から逃げない「勇気」「努力」「情熱」「夢」がある人間だ。会社の看板がなくても声をかけてくる、いわゆるエンプロイアビリティーが自分にあるか。自分が仕事の中で蓄積した、フローではないストックの実績が、あるか。実績とは年次ではなくて、まさにアウトプットとして、人に説明できるものが、あるか、である。加えて、いつまでも具体的な成果を出すという有言実行ができるかどうか。これが、まさに企業で問われているプロの力である。これらが全て揃っている必要はないが、これが全て危ないというのは、既にかなり人生のリスクを負っているという意味ではないかと思う。
 一方、若手には知識・経験・人脈・お金がなく、自信を持ちづらい。だが、何もないわけではない。自由・時間・頭脳がある。大事なのはこの三つの「ある」を最大限鍛えて、四つの「ない」をどうやって「ある」にするかである。
 つまり、若手が社会に出て、こんなはずじゃなかった、もっといい仕事、むいた仕事があるはずだ、と思う、――それは幻想である。この四つの「ない」を「ある」にしない限り、仕事で成功するということはない。だとすれば、若手がこの「自由」と「時間」と「頭脳」という、平等に与えられたこの資産をどれだけ活用するか。上司はそれをどれだけ活用させるように教育をするか。そこにかかっているのではないか。

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